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2011年1月13日 (木)

椎野秀聰「僕らが作ったギターの名器」文春新書

椎野、ノイズやディストーションも音のうちだ!  ――Vinnie Vincent

どんな本?

 モーリスやグレコ、ディ・アンジェリコなど多くのギター・ブランドでギターの設計に携わった著者による、ギターの設計・製造やリペアに関するエッセイ集。登場するギターも H.S.ANderson HS-1 Mad Cat(テレキャスター・モデル)などのソリッド・エレクトリックから Vesta Graham VGS-2000 などセミ・アコースティック、Sofia などフル・アコースティックから果ては H.S.Anderson BB1 などベース・ギターに及び、ギター小僧は勿論、楽器好きにはたまらない本だ。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2010年9月20日発行。新書で約250頁。42字×16行×250頁=168000字、400字詰め原稿用紙で約420枚。文章は静かに語りかける雰囲気で親しみやすく、分量も軽いためあっさり読み通せる。が、あなたが往年のギター小僧なら、アチコチで泣かされ、意外と読み通すのに時間がかかったとしても、私の責任ではない。

構成は?

前口絵 著者が設計・プロデュースした傑作13点
はじめに
第一章 サウンドデザイナーの仕事
第二章 楽器とサウンド ――楽器の価値を考える
第三章 ギターの歴史 ――ギターのルーツから現代まで
第四章 エレクトリックギター ――半世紀の進化と様々なタイプ
第五章 ギターと木材 ――木を知る事は、ギターを知る事
第六章 21世紀のギター ――モノ作りの現在から未来へ
あとがき

 表紙を開いて最初の口絵、H.S.ANderson HS-1 Mad Cat に一目惚れしてしまった。あいや、テレキャスター好きなんで。さすがにブリッジは3ピースじゃなくてストラト同様の6ピースになってる。

感想は?

 楽器製作者の著作とは珍しい。ましてやエレクトリック・ギターを手がける人なんて、この本以外は滅多にあるもんじゃない。著者は「サウンド・デザイナー」と自称していて、実際にカンナ等を使う職人ではなく、企画から原材料の調達,設計など幅広い工程を担当している。いわば、プロデューサーといったところか。

 そんな視野の広い著者のこと、実際の利用者であるミュージシャンとも積極的に関わっていく。冒頭に挙げた Vinnie Vincent の台詞の「ディストーション」は、エフェクターのディストーションではなく、まさしく「歪み」の意味だ。どんなに巧くチューニングしても所詮ギターはモノ、弦を強く張ればネックの反りが変わる。微妙な狂いは絶対に出てくるけど、それも味のうちなんだよ、的な意味。まあ、ヘヴィメタルなんて、チョーキングやアーミング,フィードバックやオーバードライブなど、「歪み」や「雑音」を積極的に利用する所に魅力がある音楽ではあるけど。

 ちなみに「エフェクター」というのは和製英語で、「シグナル・デバイス」が一般的な呼び方だそうです。エフェクターという言葉を広げたのは福田幾太郎だ、と著者はバラしてます。
 読んでて身につまされたのが、この下り。

 遠鳴りするギターを上手な人が弾くと、とても素晴らしい演奏になる。下手な人が力任せに弾くと、楽器の良さは、どこへともなく退く。楽器が閉じてしまい、下手がそのまま演奏に出る。誤魔化しの効かない分、プレイヤーにとっては、怖いギターでもある。

 私がフェンダー・テレキャスターに抱いてる複雑な感情が、モロにこれ。ロイ・ブキャナンに持たせれば軽やかに歌いだすテレキャスが、私が持つとキンキン声のチェーンソーに変わってしまう。残酷な楽器だよなあ。でもそこは惚れた弱み、貢いじゃうんですよ、色々と。

 70年代のフォーク・ブームの功罪を語るあたりは、今の「けいおん!」ブームと少し重なるかもしれない。「その前のエレキ・ブームでは、レコード屋の客は楽器屋に寄らなかった。フォーク・ブームでは、音楽ファンが同時に楽器屋の顧客にもなった」と、「聴く音楽から弾く音楽」へ変えた功績を挙げる。お陰で楽器メーカーは大喜び、「当時、世界のギター生産の、実に60%が日本で生産されていた」そうな。

 反面、粗製濫造で粗悪品が巷に溢れ、ギターの印象を悪化させてしまった、とも語る。「適正な弦高とテンションに調整されたギターで少し練習すれば、Fコードは誰にでも押さえられる。そうでなければ、ギターにどこか問題があるのだ」と。唯ちゃんがギー太を可愛がるのは、実に理に適っているわけです。いいよね、レスポール。グラマーでゴージャスというか、深みと迫力が同居した、贅沢な音だし。
 おぢさんの身に沁みるのが、この下り。

エレクトリックギターの登場から半世紀以上が経過した今日、塗装はボロボロにはがれ落ち、浜に打ち上げられた流木のように角の取れてしまったエレキギターがある。年季の入ったそうしたギターを、頭の白くなったミュージシャンが使っている光景をよく見かける。彼等にとって、歴戦の勇者のような面構えのギターは、人生のパートナーにも等しい相棒に他ならない。

 ああ、ロリー・ギャラガーには、長生きして欲しかったなあ。
 他にも、弦用の鋼を求めたらディ・アンジェリコに辿りついてしまった話や、日本の高精度のコイル巻きがピックアップ製作の障害になる話、ジェームズ・バートンと行き違う話など、ちょっと楽しい挿話も沢山入ってる。

 後半、第四章と第五章は、PLAYER誌あたりの読者なら常識かもしれないけど、これから読み始めようという人には入門用として格好のお勧め。図版が少ないのが、チト辛いけど。

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