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2011年1月27日 (木)

M.v.クレヴェルト「補給戦 ナポレオンからパットン将軍まで」原書房 佐藤佐三郎訳

諸君が軍隊をどこへ、いつ移動させたいと思っているかを知るには、熟練も想像力もほとんど必要としない。だが、諸君がどこに軍隊を位置させることができるか、また諸君がそこに軍隊を維持させることができるかどうかを知るには、たくさんの知識と刻苦勉励とが必要である。

どんな本?

 16世紀から現代まで、兵站という側面から、欧州の幾つかの戦争(戦闘)を例に、具体的に分析した本。舞台が欧州に限定されてはいるが、舞台や食生活が変わらない分、時代(技術)の変化が戦争に及ぼした影響が明確に見えてくる。特に、第二次世界大戦のロンメルとパットンの対比が面白い。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 原書は1977年、ケンブリッジ大学出版局より出た Supplying War, Martin Van Creveld。日本語訳は1980年11月30日初版。2006年5月に中央公論新社から文庫版が出てる。本文226頁で8ポイント縦二段組、26字×22行×2段×226頁=258,544字、400字詰め原稿用紙で約645枚。

 分量は厚い文庫本程度だが、文章は堅苦しい。というか、完全に専門家向けの学術書で、読み込むにはそれなりの覚悟が必要。ナポレオンがどのように軍を展開したか、第一次世界大戦の戦況がいつどのように変化したかなど、Wikipedia で調べれば解かるレベルの事は、常識として頭に入っている者を、読者として想定している模様。

 途中、多少は数式が出てくるけど、加減乗除だけなので、あまり気にする必要はないだろう。

構成は?

序 章  戦史家の怠慢
第一章  16~17世紀の略奪戦争
第二章  軍事の天才ナポレオンと補給
第三章  鉄道全盛時代のモルトケ戦略
第四章  壮大な計画と貧弱な輸送と
第五章  自動車時代とヒットラーの失敗
第六章  ロンメルは名将だったか
第七章  主計兵による戦争
第八章  知性だけがすべてではない
あとがき

 時代ごとに章にわけ、それぞれの章で代表的な人物と、その作戦行動をとりあげ、具体的に分析する、という形を取っている。各章の末尾に、章全体の内容をまとめた「結論」があるので、私の様な素人は、そこだけ拾い読みすると楽な上に理解しやすいと思う。もっと忙しい人は、最終章の「知性だけがすべてではない」だけ目を通せばいいかも。

感想は?

 先に触れたように、ある程度、欧州の歴史を知っている人を対象読者としている。私が欧州の歴史に疎いせいか、後に行くに従って馴染みのある名前が増え、尻上がりに面白くなった。特に最終章は、本書のエッセンスが凝縮されている。

 単純に兵站の重要性を強調するだけの本かと思ったら、意外とそうでもない。「兵站は勿論重要だし、軽視されてきた分野ではあるけど、理屈どおりにかないのが戦争だし、時には思い切った決断も必要だよね」みたいな結論になっていた。

 とまれ兵站が戦争の性格を決めるのは確かで、18世紀あたりの戦争だと、軍は現地徴発が普通で、そのために動き続けなければならなかった、とか。止まってると近隣のものを食いつぶすので、兵と馬が飢えてしまうそうな。よって、「あらゆる包囲攻城戦は時間との競争になった」としている。特にかさばるのが、まぐさ。

 モルトケも意外と鉄道を活用できなたっかようで、ネックとなったのは二つ。列車からの荷下ろしにてこずった事と、フランスの要塞が鉄道線を遮断した事。荷下ろしの問題は、第一次世界大戦に加え、第二次世界大戦のバルバロッサ作戦でも再演される。

 ロシアの鉄道はドイツと軌間が違うので、そのままじゃドイツの機関車は走れない。だからレールを付け替えるか、荷物を載せかえるかしなきゃいけない。ドイツ軍は道路沿いに進軍したため、線路沿いにはまだロシア軍が残っていて、作業の邪魔をされた。「10月全体を通じて、予定された724列車のうち、実際に到着したのはたったの195列車だけだった」。この辺は、電撃戦の泣き所ですな。そんな列車でも巧く動けば輸送力は絶大で、「たった一本の複線の鉄道輸送能力に匹敵するには、1600台ものトラックが必要だった」とか。

 んじゃトラック輸送はというと、これも悪路で燃費が悪化した上に、高速な機甲部隊が多くの敵を撃ち漏らしていたので、「重輸送部隊のトラックの損失は、作戦開始後19日以内で早くも25パーセントに達した」。燃費の悪化は、こんな感じに描写している。

 予想していた一ヶ月当たり25万トンのかわりに、33万トン(一日9000トン)にふえたことである。100キロメートル(60マイル)走るのに必要な標準燃料消費量は、ロシアではたった70キロメートルしか保たなかった。

 次の第六章では、ロンメルとアフリカ軍団の戦いを補給面から見て、「いやロンメルさん無茶やろ」と結論付けている。ネックとなっているのは地中海ではなく、港。荷揚げできるのがトリポリだけじゃ、補給線が長すぎるでしょ。と。ベンガジも使えたけど、英空軍の空襲を受けたそうな。制空権が重要な理由の一つが、これなのね。納得。

 第七章「主計兵による戦争」では、ノルマンディ以降の連合軍の戦いを、パットンの突進と補給の面から論じている。今まで補給に苦しむ戦いばかりを論じてきた中で、この章は異色にも、慎重すぎる補給計画が侵攻の足を引っ張ったかのような論調になっているのが興味深い。

 最終章で、筆者はこう論じている。

第二次世界大戦後30年間にわたる輸送手段の発達にもかかわらず、筆者の見解によれば機動作戦のスピードは、近い将来劇的に上昇するとは思えない。

 すると、イラク戦争での快進撃の要因は、何だったんだろう?情報化による戦闘部隊の軽量化と、コンテナによる輸送効率の向上なのかな?

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