読みやすさの期待値
書評を書く際、文章の読みやすさ・判りやすさに言及するようになった。最近読んだ中では、瀬名秀明氏の「ロボット21世紀」を、私は「読みやすい」と評したんだけど、それについて少し。
これが小説だったら、果たして「読みやすい」と評価しただろうか?と考えてみた。
瀬名氏の作品は、幾つか読んでいる。「パラサイト・イヴ」「虹の天象儀」は、とても読みやすかった。特に「パラサイト・イヴ」は、前半のグレゴリー・ベンフォードに後半のロバート・マキャモンを無理矢理継いだみたいで、「無茶やるなあ」とか思いつつ、急激に走り出す物語に引きずりこまれて行ったのを覚えている。逆に手こずったのが、「BRAIN VALLEY」と「デカルトの密室」。どっちも最新の先端科学・技術をベースにしながらも、「人間とは何か」「意識とは何か」といった哲学的な議論を展開している。議論が単なるハッタリなら読み飛ばせるのだが、この作品の場合は、ややこしい議論こそがメイン・ディッシュなんで、「うう、よーわからん」などと唸りながらも「おお、こうきたか!」などと屈折した快感に溺れていった。
とはいえ、少し不安を感じたのも事実。というのも、瀬名氏が目指す市場は、ややこしい理屈に快感を感じるコアなSFマニアではなく、起伏のある物語を好むマスな市場ではないか、と勝手に思い込んでいたせい。なもので、「果たして彼の期待に沿った売り上げが出るのかなあ」などと余計な心配をしてしまった。そんな妙な思い込みをした原因を考えると、やっぱりデビュー作「パラサイト・イヴ」、あの後半の畳み掛ける疾走感の心地よさが印象に残ってたからで、第一印象というのは怖いもんです。
そんなこんなで、私の中で瀬名氏は、どちらかというと歯応えのある作品を書く作家、という位置づけになっていた。ところがこの「ロボット21世紀」、実にスラスラ読める。内容的には「デカルトの密室」と同じ、いや技術的な部分に限ればデカルト以上に、難しくて下世話な話が出てくるにも関わらず、やっぱり印象としては「読みやすい」となってしまう。
恥ずかしながら私は新書という形態の本をあまり読んだ事がないので、少々構えていた、というのは、ある。書名から想像するに、最新技術の解説書みたいなものかな、という印象もあって、「こりゃ数式とかも沢山出てきそうだなあ」などと、ある程度は覚悟ができてた、というのも大きい。
技術・科学の解説書を読む際は、やっぱり多少は難しさを覚悟して読むんだよね。けど、これが、小説だと、だいぶ違ってくる。「娯楽なんだからさあ、楽しませてよ」と、作者に対し至れり尽くせりのサービスを期待してしまう。その結果、「読みやすさ」に関しては、小説には辛く、解説書の類には甘い、二重基準になっちゃってる。
私の「読みやすさ」評価は、あくまで主観的なものなので、他にも様々な要因で変わってくる。最も大きいのは、内容の面白さ。面白い本は、どうしても採点が甘くなってしまう。「ロボット21世紀」も、内容がとてもエキサイティングだったんで、甘い評価になっちゃってるかもしれない。
じゃあ今後は反省して是正するかといえば、その気はないです、はい。
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