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2010年12月 6日 (月)

白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄」東洋経済新報社

「俺が率いていた組織の名は『ベリー・ファースト(非常に早い)』。あっという間に仕事を終わらせるって意味を込めて名づけたんだ。信号待ちの車のガラス越しに銃を突きつけて運転手を引きずり出し、財布と携帯電話を奪ってから車をいただく。四十秒以上かかったことは一回もないぜ」  --ヨハネスブルグの自動車強盗団の元ボス

どんな本?

 毎日新聞社の特派員として南アフリカのヨハネスブルグに特派員として赴任し、2004年4月から2008年3月までサハラ以南のアフリカを担当した記者による、現代のアフリカの暗黒面に焦点をあてたルポルタージュ。教科書的に全体像を描くのではなく、幾つかの国をケース・スタディとしてざっくり紹介する形をとっている。とはいえ現場取材に拘るブン屋さんらしく、犯罪組織や反政府組織であろうとも直接インタビューを試み、コメントを取ってきていて、緊迫感と生々しさは半端ではない。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2009年8月13日発行。ハードカバー縦一段組みで本文約310頁。背景となる状況は複雑怪奇なわりに、現場で鍛え抜かれたブン屋の文章は非常に読みやすい。特にコンゴやスーダンは、多数の勢力が激しく入り乱れているのだが、それでも一応は各勢力の対立状況が飲み込めるから見事だ。

どんな構成?

序章 資源大陸で吹き上がる暴力
第一章 格差が生み出す治安の崩壊 --南アフリカ共和国、モザンビーク共和国
第二章 「油上の楼閣」から染み出す犯罪組織 --ナイジェリア連邦共和国
第三章 「火薬庫」となった資源国 --コンゴ民主共和国
第四章 グローバリズムが支える出口なき紛争 --スーダン共和国
第五章 世界の「脅威」となった無政府国家 --ソマリア民主共和国
終章 命の価値を問う ~南アフリカの病因から~
おわりに
参考文献

 キチンと資料は漁っているものの、それを元に教科書的に一般論を語るのではない。あくまで直接取材に拘り、そこに暮らす人や、治安維持の前線に立つ人、または治安を乱す側の人への、突撃取材とすら言える豊富なインタビューを元に、各章を構成している。

で、面白い?

 迫力は、文句なし。冒頭の引用は、二週間前に刑務所から出所したばかりの人物に、筆者が直接インタビューして引き出した言葉。容疑は二件の殺人と二件のレイプに加え、強盗に至っては「多すぎて覚えていない」と言い切る。アパルトヘイトが無くなり経済成長が始まったのはいいが、その余禄にありつけるのは、高い教育を受けた一部の若者だけ。取り残されたオヂサン・オバサンや、教育のない若者たちは、相変わらずの貧困状態に置かれている。そこから抜け出すには、犯罪しかない。

 経済成長は、他国から不法入国者を呼び込む。総人口約4800万人の南アフリカに、180万~800万人の不法居住者がいる。貧しい国から大量の出稼ぎが雪崩れ込み、多くの職が奪われ、失業率は高騰し労働条件は悪化する。

 人身売買も凄まじい。農村部や周辺国で美人コンテストを開く。「入賞者はヨハネスブルグでタレント・デビュー」と言いふらす。上位入賞者からヨハネスブルグ行きの希望者を募る。親には嘘の連絡先を教え、売春宿や金持ちに売り飛ばす。しかし、「ンコマズィ地方」には、不謹慎ながら笑ってしまった。

 ナイジェリアでは、油田が地元に何の利益ももたらさず、漏れた原油が農地を破壊する模様を伝える。武装組織はパイプラインに穴をあけ、原油を盗んで密売して利益を上げる。犯人は連邦政府や州政府の高官とつながっていて、利益の多くが政府高官のポケットに入る。

 コンゴとルワンダは複雑に絡み合っている。ルワンダの虐殺は、1994年4月にフツ人がツチ人を虐殺した。ツチ人の反政府勢力RPF(ルワンダ愛国戦線)はウガンダに拠点を置いていたが、国境を越えて侵攻、政権を奪った。復讐を恐れるフツ人はコンゴに逃げ込み、武装勢力を結成、鉱物資源と密貿易で資金を調達する。政府が機能していないコンゴの役人・警察・軍は丸め込まれる。というのも、公務員に給料が払われていないのだ。

 もうひとつ、最近の虐殺で有名なのがスーダンのダルフール。この取材も困難を極め、キャンプには政府の諜報員が潜り込み、州都のホテルでは尾行がつく。虐殺の実行者は民兵という事になっているが、貴重な証言が飛び出す。

「じゃあ、襲撃の際に、なんで軍のヘリコプターが村の上を飛んでいたんだ」

 さて、肝心の虐殺の目的だが。一般に反政府勢力は、正面戦力では政府軍に敵わない。だから、地方の村を補給などの拠点として、ゲリラ戦を行う。これを防ぐために、拠点となる村を潰すのが目的らしい。ちなみにスーダンの重要な資金源は石油の輸出で、その50%は中国向けだ。中国共産党は、毛沢東の戦略を発明すると共に、その対抗策もキチンと用意し、輸出すらしている、というオチ。

 無政府状態のソマリアでは、多数の武装勢力が群雄割拠している。んな状態で水道や空港などの社会資本はどうなってるのか、というと、浄水場や空港などの拠点を押さえた武装勢力が、使用料を取って運用しているのですね。携帯電話も、中国の企業が技術指導員を派遣している。そこに、イランの革命防衛隊,レバノンのヒズボラ,ビン・ラディンにリクルートされたアフガニスタン帰還兵などイスラム原理主義勢力が大量に入り込み、ほぼ全土を制圧する。外国人戦闘員の出身国はサウジアラビア・パキスタン・チェチェンなど。危機感を募らせたエチオピアが、正規軍を送り込み…

 教育や福祉が崩壊した所に、サウジアラビアやパキスタンの原理主義者が神学校に寄付と教師を送り込み、子供たちを洗脳する。タリバンと同じ手口だ。資金源となっているのが、親米国のサウジアラビアとアラブ首長国連邦なのが、なんとも。

 と、まあ、この本では絶望ばかりのようだが、多少は希望もある模様。最近、気になった web 頁を最後に挙げておく。
  Togetter - 「本当にアフリカは発展できないのか?

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