笹本祐一「ARIEL vol.08」SONORAMA NOVELS
「ほら、和美って、ほんとは秘密だけど地球を守る巨大ロボットに乗ってるでしょ」
「おお!」
エミはぽんっと手を打った。
「そう言えば、そんな裏設定があったっけ」
「え?あれって裏設定だったの?」
どんな本?
美女と美少女が巨大ロボットに乗って、地球侵略を企む宇宙人と戦う…ハズのシリーズ、合本第8弾。今まで宇宙人に歯が立たなかった ARIEL、この巻では更に扱いが酷くなり、本編では登場シーンがほとんどないという冷遇ぶり。全般的にアクションも控えめで、むしろ神経戦・頭脳戦が中心となっている。そんな大人しい展開の中で、ツヤツヤと輝いているのが野望を抱く女子高生、由貴ちゃん。隣にいる主人公格の和美ちゃんを差し置いて、事態収拾の要として大活躍。
いつ出たの?分量は?読み易い?
2010年1月30日第一刷発行。新書版で縦2段組の本文約400頁。読みやすさに関しては職人・笹本氏、ややこしい専門用語や堅苦しい軍事用語が飛び交うシーンでも、スラスラと読める抜群のリーダビリティ。ライトノベルのわりに会話のクセも強くなく、今のアニメ等の基準から考えれば、お行儀が良すぎるぐらい。
とはいえ連続物のお約束で、キャラが濃い登場人物が多数登場し、またそれぞれの人間関係も込み入ってるんで、いきなりこの巻から入るのは、流石に無茶。特にこの巻は前巻から続く、緊迫した場面から始まるんで、素直に1巻から読むことを勧めます。
掲載作品は?
第42話 侵略の構図
第43話 燃える宇宙
第44話 対宇宙人諜報監視網
第45話 開放前夜
マイナス8話 夢みる機械人形
第42話~第45話は、素直に前巻の続き。マイナス8話は番外編。中学生時代の和美と AYUMI の馴れ初めを描く、ちょっと初々しいお話。
で、感想は?
今回の主役は、なんたって由貴ちゃん。地球の先端科学を駆使した最新兵器すら玩具扱いする宇宙人・三者の睨み合いの中心に躍り出て、口先三寸で大人たちを煙に巻く。挙句に艦隊司令のスカウトを蹴って、爽快極まりない啖呵をあっさり決める。
「もしその気があるのなら、士官学校で自分を試してみなさい。わかしが紹介状を書いてあげよう」
「軍人になるつもりはありません。人に使われる仕事よりも、人を使う仕事の方がいいわ」
をーい。怖い物知らずも、ここまで来れば尊敬に値するかも。その分、割をくってるのが、本来は主役メカであるはずの ARIEL。本編中で少しだけ出てくるものの、突っ立ってるだけで全く動かない。もう一人、割を食ってるのが、悩める予備校生・絢ちゃん。終盤近くにやっと出番が回ってきたものの、ほとんどモブ扱い。相当に低気圧になってるんで、次巻あたり嵐になりそうな予感。
全般的に、この巻は最終巻に向けて細かい背景描写を埋めつつ緊張をジワジワと高めていく段階らしく、アクションは控えめ。いや多少はあるんだけど、肝心のアクション役者が安定感ありすぎなんで、不安感がほとんどないのが辛いところ。相変わらずハウザー艦長は胃が痛くなる場面の連続で、しかも事態は悪化する一方。そういう役割とはいえ、ここまでいじめられると、少し哀れになってくる。
番外編は、和美ちゃんが AYUMI の調整に付き合う話。違和感を抱いた和美ちゃんが、その解消のために出したアイデアがいい。それを試した結果がアレなのも、まあ和美ちゃんらしい。ARIEL のデザインがああなってるのって、単なる趣味に見えて、実は正解なのかも。
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