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2010年12月 2日 (木)

瀬名秀明「ロボット21世紀」文芸春秋 文春新書

「僕自身は HAL の存在を否定しています。彼が持っているアクチュエーション(動作)は、宇宙船の制御と、ドアの開閉ですね。人間の身体とは異質な制御系等しかないんですから、人間の行動系を理解できるわけがない。人間の行動が理解できる最低限の必要条件は、人間と同じような身体を持っていることです。極端ないい方をすると、身体を持たないものに知能は発生しないんです」  大阪大学大学院工学研究科 浅田稔教授

どんな本?

 「デカルトの密室」で魅力的なロボット、ケンイチを創造した瀬名秀明が送る、21世紀初頭の日本のロボット工学の先端レポート。ホンダの ASIMO や SONY の AIBO など商業ベースで活躍しているロボットの開発チームは勿論、東京大学の HRP チームや早稲田ヒューマノイド・プロジェクトなど、大学側へも丹念に取材している。生物学者出身でSF作家という経歴が巧く活きているのか、技術的な解説はとてもわかりやすい。かといって技術オンリーではなく、ロボット研究の意義など、哲学的な側面にも切り込んでいる上に、プロジェクトとして今後続行していく際の課題など、生臭いとも言える話題まで切り込み、研究者たちのホンネを引き出している。

いつ出たの?分量は?読み易い?

 2001年7月20日第一刷発行。進歩の激しいこの世界では、最早古典となってしまったかも。新書版で縦一段組み本文約310頁。技術的に結構突っ込んだ話が出てくるわりに、抜群に読み易い。インタビュー相手は技術者達なんで、話し上手とはいかないだろうに、ここまで巧くまとめた瀬名氏の手腕は見事だと思う。

どんな構成?

第1章 ロボットが街を歩く日
第2章 二一世紀ヒューマノイド
第3章 機械に「心」は宿るか
第4章 ロボットとの恋は可能か
第5章 ロボットは労働する
第6章 羽ばたくロボット・コンテスト
第7章 日本人と鉄腕アトムの夢
第8章 ロボットの未来

 第1章で、当時のホットな話題 ASIMO から語りだし、読者の関心をガッチリ掴んだまま、二足歩行の問題点という技術的な話題に突入し、ややこしく往々にして読者から煙たがられがちな、だが技術解説上は重要な問題となる ZMP(ゼロ・モーメント・ポイント、重力と運動ベクトルの総慣性力が床と交わる点)を消化する構成は巧い。こういう、読者にとって面倒くさい部分を、読者の興味を惹きつけながら乗り切る手管には、最後まで翻弄されっぱなしだった。

で、面白い?

 いやもう、とってもエキサイティング。開始早々、二足歩行に拘るホンダと、エンターテイメントを目指す SONY を対比させつつ、ひとことで「ロボット」と言っても、目指す方向性や手法に様々な違いがある事を納得させ、将来的な展望は変化に富んだ波乱万丈である由を期待させる。この時点で、読んでる身としてはワクワクが止まらない。かと思えば、

「あれはⅠ号機で、これからどんどん改良されてゆくと名前の後ろに番号がつくんだ。ASIMOⅡ、ASIMOⅢ--ときて、Ⅴ号機はASIMOⅤだよ」

 なんぞという冗談を織り交ぜながら、話は進んでいく。ちなみに、これは ASIMO のエンジニア、竹中氏が否定してます。

「いろんな変遷はありますが、本当は人間の『脚』と、『あした』から来てます。英語は後付けですね。アシモフは候補リストにもまったくなかったです。アシモの『モ』はモビリティの『モ』で、どこか可愛い感じもするので、モは付けたいねといってました」

 なんで二足歩行でなきゃイカンのか、という点にも様々な回答を提示している。最初の引用は、「行動によってロボットの知能が育まれていく」と主張する浅田教授の回答。異論はあるだろうけど、発想としては興味深い。ホンダの竹中氏は、「予備動作が必要な点が二足歩行ロボットの長所」と主張する。ヒトと似た形状をしてるなら、動きもヒトに似ている。予備動作を見れば、その後の動きをヒトが予測できるので、不気味さが減る、と。この辺、笹本氏は ARIEL のネタに使ったんじゃなかろか。

 欧米に比べ、日本ではロボットに対する拒否感が少ないそうな。その理由としてよく挙げられるのが「鉄腕アトム」と「鉄人28号」。その辺もキッチリ技術者・研究者達にインタビューしていて、研究者達は影響を認めながらも、その呪縛に苦しめられている、とも語る。介護用の配膳ロボット<フクちゃん>を開発した安川電機・基礎研究所ロボット研究室室長の横山和彦氏曰く。

「皆さん、ロボットというと鉄腕アトムですから(笑)。実際、このロボットを持っていったときも、看護婦さんが患者さんに『今度ロボットが来るよ』というと『鉄腕が来るんかねえ』という話をされてて、フクちゃんが来ると『鉄腕アトムとずいぶん違う』っていうことはあります。(略)普通の方に過度な期待を持っていただくと、『なんだ、何もできないじゃないの』となる」

 じゃ恨んでいるかと言うと、決してそんな事はない。この部分を読んでいて、あたしゃ涙が出たよ。

つまりアトムは夢のあるランドマークなのだ。ロボカップのような実現性の高い目標ではなく、永遠に達成できない、とびきり楽しいランドマークなのである。

 「永遠に達成できない」のに、「とびきり楽しい」と表現しちゃうあたり、「ああ、瀬名さんはエンジニアの魂を理解しているなあ、そうなんだよなあ」と、感激してしまった。長生きして、ロボットが社会に溶け込む世界を見たいなあ。

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