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2010年11月15日 (月)

籘真千歳「スワロウテイル人工少女販売処」ハヤカワ文庫JA

「…恋に臆病で、人恋しいのに人見知り、自意識は強いのに引っ込み思案で、思ったことも言葉にできない、どうしようもなく生きるのが不器用で、優しいのに無力で、自分の理想と現実世界との落差を埋める努力もせずただ嘆くことしかしない、そんな女の子たちが寄って集まって描いた妄想です」

 時は未来。人工知能の反乱・終末の予言・<種のアポトーシス>、人類は三度の危機を乗り越えた。物語の舞台は "自治区"。関東地方が水没した関東湾に浮かぶ、ハイテク・メガフロート都市。マイクロマシンの知的財産権をテコに、日本政府から微妙な形で独立を保っている。性交渉で感染速度と症状の進行が速まる、<種のアポトーシス>感染者13万人の隔離地域。よって自治区は男性と女性の居住区が完全に別れ、それを補うため、人工妖精と呼ばれる人型の人工生命体と共生している。

第一原則 人工知性は、人間に危害を加えてはならない。
第二原則 人工知性は、可能な限り人間の希望に応じなければならない。
第三原則 人工知性は、可能な限り自分の存在を保持しなければならない。

 人工妖精は、この倫理三原則に加え、次の情緒二原則を持っている。

第四原則 (制作者の任意)
第五原則 第四原則を他者に知られてはならない。

 そんな原則に縛られている筈の人工妖精が、連続殺人事件を起こした。犯人は「傘持ち(アンブレラ)」。失敗作・不良品の第五等級に属する人工妖精・揚羽は、その能力「口寄せ」を買われて現場に呼ばれ…

 文庫本で520頁。可愛らしい表紙なので、さぞかしライトノベル調の読みやすい文章だろうと思ったが、意外と硬い文章で戸惑った。比喩に白鼻芯を出したり、敢えてシモネタを混ぜたり、意図的にアダルトで斬新な表現を心がけているフシがあるのだけど、あまり作風に似合ってない気がする。

 物語は、先に挙げた連続殺人事件を、失敗品の人工妖精である揚羽が追う形で展開していく。その過程で出てくる大小のガジェットは、SFとしての魅力に溢れている。主人公の揚羽を代表とする、人工妖精は勿論のこと、それを形作る蝶型微細機械群体が素敵だ。蝶が集団でゴミを分解・回収するんですぜ。なんとも耽美で幻想的な風景だよなあ。クモ型のロボット戦車、○六式無人八脚対人装甲車も禍々しくていい。あんなのに追われたら、そりゃ萎えちまうよ。最も印象に残ったのは、水先案内人の秘密。こういう、先端技術とアナログを組み合わせた方法には、どうにも心が躍るもんがある。そういったSF的な仕掛けは、お話が進むに従ってエスカレートし、全能抗体に至っては、王道とも言える仕掛けが飛び出す。

セグロヒョウモン  他にも微細機械群体の秘密など、いかにも美味しそうな素材が出てくるのだが。肝心の物語は、人と人工妖精の不器用な心のすれ違いに焦点をあてている感がある。この辺が、私としてはちょっと不満。あっちの方に突っ走って、スケールを大きくして欲しかった。とはいえ、揚羽が魅力的なのは全面的に賛同しますが、個人的にはむしろ椛子さんラブです。

 あとがきでアシモフを挙げているけど、作品としては、むしろロバ-ト・シルヴァ-バ-グの「夜の翼」を意識してるのでは?

 写真は近所で見かけたセグロヒョウモン。作中の揚羽の印象はカラスアゲハだけど、まあ、いっか。

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