作花済夫「トコトンやさしいガラスの本」日刊工業新聞社B&Tブックス
本書では、私たちに見えるガラスと直接は見えない先端ガラスの両方を紹介します。世の中にどのようなガラスがあるか、どのようにしてつくられ、どんな性質を持っているかを知っていただきたいと思います。思いもよらないはたらきをするガラスがあるということを発見していただけると期待しております。
どんな本?
日刊工業新聞社のB&Tブックス、「今日からモノ知り」シリーズの一冊。素人向けのガラスの解説書。いつ頃から、どこで、どのようにして作られたのか。その原材料は何か。どんな種類があり、どんな特徴があって、どんな風に使われているのか。防弾ガラスやマジックミラーの原理や製法は?最先端のガラスには、どんなものがあるか。そういった事柄を、ふんだんにイラストを交えて紹介している。
いつ出たの?分量は?読み易い?
2004年7月30日初版。A5ソフトカバー縦二段組で約150頁。各記事は見開きで完結していて、しかも右頁に解説文、左頁に説明用のイラスト、という親しみやすいレイアウトで統一していて、読みやすさへの配慮は徹底している。じゃあ、それで内容が充分理解できたかというと…
どんな構成?
第1章 ガラスは大昔からあった!?
第2章 ガラスとはなんだろう?
第3章 ビルディングや住宅で使われる機能性ガラス
第4章 自動車、電車など乗り物のガラス
第5章 思いがけない特性・用途を持つガラス
第6章 映像機器や光通信に使われるガラス
第7章 先端素材として活躍するガラス
こういった科学・技術解説書の多くがそうであるように、これも後に行くに従って次第に難しくなっていく。前2/3ぐらいは、解説文に時折分子式が出てく るぐらいで、充分ついていける。だが、末尾近くの1/4になると、何の説明もなく「非線形光学性」なんて言葉が出てくるなど、とてもじゃないが素人向けと はいい難い。第6章から第7章あたりにかけて、いきなり難しさが跳ね上がっている感がある。テーマそのものが難しい点に加え、レイアウトの工夫が徒となり、説明に必要な文字数・空間がとれないせいかもしれない。面白い話題をなるべく多く紹介したい、という著者の熱意は伝わるんだが、各トピックに割く頁を増やす等の工夫が欲しかった。
で、面白い?
後半1/4は、ほとんど理解できなかった。が、それ以前の3/4は、化学が苦手な私でも、存分に楽しめる。中でも面白いのは、現代で実際に使われている、様々なガラスを紹介する第3章~第5章。
例えば、有名な防弾ガラス。あれ、単純な構造じゃないんだね。複数のガラスと、ボリビニールブラチールの多層構造になっている。後に出てくる防犯ガラスや、車・列車の窓ガラスと、原理的には同じ仕組み。
スパイ者の小説に出てくる、ハーフミラー(マジックミラー)の説明もあって、チトややこしいけど、なんとか判る。
「おお、これは!」と思ったのが、5章に出てくる「人工骨の移植材料となるガラス」。金属やセラミックと違い、人の骨と自然に強く結合するそうな。漫画コブラに出てくる、クリスタルボーイの登場も近い←んなワケあるかい
意外だったのが、ガラスの出荷額の変化。今世紀に入ってから、光ファイバー・フォトマスク・ディスプレイ用基盤ガラス・光通信用部品ガラスが急成長している。この辺は、株価に詳しい人には常識なのかな。
ビール瓶のリサイクル率99%というのも意外。何が意外といって、「びんの形も色も会社によらず同じなので可能」とは。全く気がつかなかった。
今後が楽しみなのが、「長時間光るガラス」。齢経たSF者なら「おお、スローガラスか、懐かしい」と思われるかもしれない。今は風景そのものを記憶できるわけではなく、単に光(のエネルギー)を留める、という程度らしいのだが、それでも十時間以上明るく光るし、RGBの三原色それぞれを蓄光(と、いうのかな?)できる事がわかっている。
マイクロレンズの仕組みも興味深い。直径0.5ミリ程度で、中心近くはカリウム、周辺はナトリウムを多く含む。中心ほど屈折率が高いので、末端が平面でもレンズの効果がある。光源と光ファイバーを組み合わせるほか、内視鏡に使われたり、多数を束ねて複写機やファクシミリの読み取りに使われるそうな。
こういう、工業系の技術解説本も、読んでみると意外と面白いもんだね。ちょっとした鉱脈を掘り当てた気分。
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