アイザック・アシモフ「アシモフ自伝Ⅱ 喜びは今も胸に 1954→1978 上」早川書房 山高昭訳
「アシモフ自伝Ⅰ 思い出はなおも若く 1920→1954 下」 より続く。
第Ⅱ部もアシモフ絶好調、やはり上下巻でハードカバー二段組、本文8ポイント。上巻も約500頁とボリュームは変わりなし。この巻は1954年~1966年まで。冒頭の「まえがき」に、第Ⅰ部「思い出はなおも若く」の内容、すなわちアシモフの若き日々を数頁にまとめてあるので、これから読んでも構わない。
ボストン大学医学部での立場は雲行きが怪しくなってくるが、著作業は絶好調そのもので、順調に著作は増えてくる。
「ボストン大学医学部に必要でないことが一つあるとすれば、それは平凡な研究者がもう一人ふえることだ」
と啖呵を切り、終身在職権は維持しながらも、大学は事実上の離職と相成る。専業作家となったアシモフは、著作のペースが更に上がってくる。ただ、この頃から、著作は次第にノンフィクションの割合が増え、SFは減っていく。彼のノンフィクションといえば、いわゆる解説書が多くて、単なるエッセイではない。その尽きることのない知識は、一体どこから仕入れるのか…と思ったら、実は書きながら仕入れているそうな。
「きみは、辞典に書いてあることを写しているだけじゃないか」
「そのとおりだよ。よかったら、辞典をやるから、本を書いてみろよ。ただ写すだけで印税がもらえるぞ」
専門家に取材するわけでもない。但し、原稿を読んで確認してもらう事はあるそうな。では、どうやって知識を仕入れ、原稿を仕立てているのか、というと。
私には、専門家が何年もかかって書いた(そして、面と向かって話せば、説明するのに何年もかかるような)本を数時間を読む方がいい。
私が自分の本に提供しているものは、(1)文体の平明さ、(2)わかりやすく論理的な説明の順序、(3)適切で独創的な比喩や類推、そして結論、なのである。
書き始めてから教科書を読んで勉強してるんかいw 極論すれば、学生がレポート書いてるようなもんですね。無関係の素人さんに「金払ってでも読みたい」と言わせるに足る、読みやすさと面白さを備えたレポートでなきゃいかんけど。
ルディ・ラッカーがC言語を覚える際、最初にやったのは、大学のC言語の講師を引き受ける事だったそうで、こういう不遜な態度はアメリカの知識人に共通なのか、アシモフが伝統をつくったのか、どっちなんだろう。
ノンフィクションを書きながらも、SFに未練たっぷりのアシモフおじさん。「アルジャーノンに花束を」でヒューゴー賞を受賞したダニエル・キイスに、問いかける。SF者に有名な、あのシーン。
「どうすれば、あんなのが書けるんだ?」私はミューズに問いかけた。「どうすれば、あんなのが書けるんだ?」
…ダニエル・キイスから、不滅の言葉が漏れたのだった。
「ねえ、どうしてあんなのが書けたかわかったら、教えてくれないか?もう一度、あんなのが書きたいんだ」
この「アルジャーノン」、アシモフは短編の方が好みだそうで。私が知る限り、若い人は長編版を好む傾向があるんだよね。これは私の当てずっぽうなんだが、作品の出来は両方とも遜色なくて、読者が最初に読んだ方を好きになるんじゃないかと。
この巻では、その後のアシモフ自身の前代未聞で抱腹絶倒なヒューゴー賞受賞シーンを経由して、有名な映画「ミクロの決死圏」ノベライズの顛末へと向かい、「アシモフ自伝Ⅱ 喜びは今も胸に 1954→1978 下」へと続きます。
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