アイザック・アシモフ「アシモフ自伝Ⅱ 喜びは今も胸に 1954→1978 下」早川書房 山高昭訳
「アシモフ自伝Ⅱ 喜びは今も胸に 1954→1978 上」より続く。
彼女は必死になって、最後にいった。「医者が、あと六ヶ月の命しかないといったら、その時はどうするの」
私は穏やかに答えた。「タイプする手を急がせる」
下巻も相変わらずハードカバー二段組8ポイントで本文約430頁の大ボリューム。しかも下巻には索引と著作リストが付いてる充実ぶり。自伝Ⅰでは「索引も自分で作る」と言っていた彼だが、さすがに日本語は無理だろうなあ。著作リストでは、共立出版が多くのノンフクションを出しているのに気がついた。下巻は1967年から。相変わらずワーカホリックで、その辺は娘のロビンちゃんにも見透かされている。
ロビンは、作家生活がどんなものかは私がいい見本であり、それにとりつかれると他のことは目に入らなくなる病気だと思うと、はっきりいった。
聖書の注釈にも手を出すが、そこは無神論者のユダヤ人。ユダヤ人向けのスペイン語の聖書のイザヤ書七章に、一語だけヘブライ語になっている部分があり、その理由を聞かれたアシモフ曰く。
「あれは、欽定訳聖書では "見よ、処女がみごもって男の子を産む" となっている一節だ。まずいことに、ヘブライ語では "アルマー" で、これは、"処女" ではなく "若い女" だ。もしユダヤ人の出版業者たちがこの語を正しく翻訳したとすれば、彼らはイエスの神格を否定するものと見られて、異端審問所から重大な嫌疑がかけられるだろう。そうなるよりは、またこれを不正確に訳すよりは、ヘブライ語のままにしておいたのだよ」
歳のせいか貫禄もつき、上巻では売春婦に迫られタジタジとなっていたアシモフおじさん、フィラデルフィアの地域SF大会で迫られた際は余裕で切り返す。
「連れが欲しくない?」
「連れは欲しいがね、あの部屋には家内がいるんだよ」
「しょうがないわね、なんで連れてきたのよ」
「きみと合うと知っていたら、連れてこなかったのにな」
博覧強記を誇ってはいるが、カート・ヴォネガットとの会話では、一応の謙遜も見せる。
「何でも知っているというのは、どんな気分だね」
「私が知っているのは、何でも知ってるという評判がたつのはどういう気分か、ということだけさ。不安なもんだよ」
気の利いたジョークが多いこの本で、私が最も気に入ったのがコレ。
医者と建築家と法律家が、どの職業が最古かで言い争った。
医者「アダムが造られた最初の日、神は彼を深く眠らせ、そのあばら骨の一つを取って、、これから一人の女を造った。これは明らかに外科手術であるから、私は医者がこの世で最も古い職業だと主張する」
建築家「創造の第一日、アダムのあばら骨を取る少なくとも六日前に、神は混沌の中から天と地を創造した。これは建築上の大事業と考えられるから、私は建築家が最高の地位を占めるべきものと主張する」
法律家「しかし、その混沌は、いったい誰が作り出したと思っているんだ」
これだけ盛りだくさんの内容で、索引がついているのはありがたい。ハインラインとハーラン・エリスンはしょっちゅう出てくるし、末尾近辺ではジョン・ヴァーリーも顔を出すのだが、ラリイ・ニーヴンは出てたっけ?と思って確認したら、やっぱり出てなかった。
小説なら、最後の一行は重大なネタバレとなりかねないので、引用は控えるべきだろうけど、これは構わないよね。
〔いつの日にか続く〕
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コメント
ハヤカワ文庫の科学エッセイ集ですね。結構ネタを使いまわしてるんですねえ。
解説書を書く際は他の本からネタを仕入れる、とアシモフは告白してますから、
このジョークも他から仕入れたのかもしれません。
ジョークの原典を調べるという発想は湧きませんでした。目から鱗が落ちた気分です。
投稿: ちくわぶ | 2010年12月30日 (木) 12時35分
お邪魔します。
>>しかし、その混沌は、いったい誰が作り出したと思っているんだ
「存在しなかった惑星」ってエッセイ集にも同じくだりがあるのですけれども
あまりに良く出来てるので、原典があるのかと思ってググッってってお邪魔することになりました。
アシモフの即興なんですかね。だとしたら凄いな
投稿: | 2010年12月30日 (木) 02時17分