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2010年11月 1日 (月)

アイザック・アシモフ「アシモフ自伝Ⅰ 思い出はなおも若く 1920→1954 下」早川書房 山高昭訳

 「アシモフ自伝Ⅰ 思い出はなおも若く 1920→1954 上」 より続く。

 下巻もハードカバー二段組、本文8ポイントで約430頁と読み応えはたっぷり。この巻は1942年~1954年まで。

 名編集者ジョン・W・キャンベルにめぐり合い、SFを書き始めたアシモフ。同時に恋人ガードルートとの結婚に備え、定職を求めていた。幸いにして、R.A.ハインラインの紹介で、フィラデルフィアの海軍工廠に職を見つける。ニューヨークを離れるのは不安であるものの、初めての一人暮らしでもある。

好き勝手できる生活をしてすぐわかったのは、自分の望みは落ち着いた分別のある生活だということだった--それこそ両親がいつも私に望んでいたことではないか。これは、ひどい幻滅だった。

 うんうん、よくわかるぞ、その気持ち。海軍工廠では、いかにも軍隊風の文書作法を弄って遊んでいる。今、ちょっと調べたけど、当時の合衆国海軍の文書作法はオックスフォード系のようだ。

様式 英国系(オックスフォード) 米国系(シカゴ大学)
作法
Ⅰ. …
 A. …
  1. …
   a. …
    (1) …
     (a) …
      § …
Ⅰ. …
 A. …
  1. …
   a) …
    (1) …
     (a) …
      ⅰ) …
      ⅱ) …

 ルールがあれば弄ってみたくなるのが理系人間。アシモフ君も早速これを弄って遊んでる。

まったく明晰な書き方ではあるが、なおかついっさいを列挙された項目に分解し、(1) から果ては (a) にまで達することに成功したのである。さらに、ほとんどすべてのセンテンスをどれか他のセンテンスに引用することに成功し、それに完全な引用記号を正しく記載したのだった。

 このイタズラの顛末は、というと、この文書は「仕様書をいかに書くべきかという手本として新任者に渡される」事にあいなったそうで。

 続く戦争は、アシモフ青年にも迫ってくる。新婚でもあり、当時26歳で上限ギリギリだったアシモフ青年も、ついに徴兵される。嫁さんに焦がれて泣くアシモフ青年はなかなか可愛い。典型的な「賢い怠け者」であるアシモフ君が兵卒に向くはずもなく、タイピストの役に滑り込み、めでたく軍組織とアシモフ君、双方の利益の一致に成功する。

 なんとか退役してニューヨークに戻り、古巣に帰って博士論文に取り掛かる。作家として成功しつつあるのは良いが、妙なクセは博士論文の利益になるとは限らない。

「だって、ドースン先生、ここでそういってしまったんでは、サスペンスがなくなってしまいますよ」

 うん、気持ちはわかるけど、論文にサスペンスは必須ってわけじゃない。

 クラークの「楽園の日々」もアシモフを軽くあしらってたけど、アシモフもクラークを2行で軽くあしらってる。あの有名なハーラン・エリスンとの出会い頭事件は数段落使ってるのに。どうも、アシモフ氏に覚えてもらうには、初対面で無作法な態度に出たほうがいいらしい。

 本書の特徴の一つは、交通費や家賃などの出費や、雑誌に小説が売れた際の原稿料など、細かい金額を明示している点。電車賃に10セント・昼食に 25セント、小説の原稿料が(アスタウンディングで)1語1セント。良くもまあ、ここまで金額を記録しているもんだよなあ、と思いながらも、当時の物価水準が伺えて面白い。今の日本円に換算すると、1ドル千円ぐらいに感じる。

 SF作家としては、単行本の出版が続々と続き、かつ売れ行きも好調で収入も充分、という状況で終わるが、まだ作家として専業にはなっていないし、彼のもう一つの魅力である科学エッセイにも取り掛かっていない。それは、続く「アシモフ自伝Ⅱ 喜びは今も胸に 1954→1978 上」でのお楽しみ、かな。

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