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2010年10月16日 (土)

眉村卓「消滅の光輪 上・下」創元SF文庫

「それは、多分かつての、司政官にそれだけの栄光と権力があった、そんな時代の話なのでしょうね。(略)現代ではおそらくそれは伝説の一種なのではありませんか?司政官なるものの、その背後にあった光輪が消え尽きようとしている今では…」

 新任の司政官、マセ・PPKA4・ユキオの任地は、植民惑星ラクザーンだ。そこには、穏和な先住民がいるが、一千万近い人類の植民と、大きな争いもなく共存している。しかし、大きな問題が控えていた。ラクザーンは、恒星の新星化により、近い将来に居住不能となるのだ。既に司政官には、かつての栄光と権勢はない。翳りゆく司政官の権威を背に、マセは全住民の避難計画に着手する…。巨大プロジェクトの顛末を首長の視点で描く、眉村卓独特の官僚SF大作。

 文庫本で上下共に500頁近い大作。とはいえ、身構える必要はない。ジュブナイルで鍛えたベテラン作家らしく、文章の読みやすさはさすが。おまけに時系列もほぼ一直線で、視点も主人公マセ・PPKA4・ユキオに固定なので、お話の混乱もなくスラスラ読める。大作に相応しく前半は大きな動きがないが、後半に入ってから大きなイベントが連続して起こるので、途中で本を閉じるのに苦労する。

 遠い未来。人類は多くの恒星系に進出し、千を超える植民星を開拓している。植民計画を統括するのは「連邦」だ。連邦は各植民惑星に司政官を派遣し、惑星の開発を先導してきた。いくつかの植民惑星には、先住の知的生物がいて、時には問題が起こる事もある。大抵、司政官は単身で赴任し、多くのロボット官僚が司政官を補助する。かつては大きな栄光と権威を誇った司政官だが、各植民惑星の開発が進むにつれ、次第にその権威は凋落していった。

 …などという背景は、本文にほとんど書かれていない。ほとんど私の想像だが、大筋はあっていると思う。特に謎として伏しているわけでもないので、ネタバレにもなるまい。読み進むにつれ、だいたい判ってくる仕組みになっている。

 惑星全住民の移住という巨大プロジェクトを取り仕切る、誠実な新任首長の熱意と苦闘の物語、というとプロジェクトXばりの暑苦しいお話を思い浮かべるが、そうはいかないのが司政官シリーズ。マセは確かに真面目で熱心なのだが、根性一点張りの熱血君ではない。新任とはいえ官僚、ハッタリをかまし先回りし、時には放置プレイで周囲と渡り合う。感情を表に出さない、知的で計算高いタイプだ。今思いついたんだけど、細い銀プチ眼鏡が似合いそうだなあ。あの時代に眼鏡なんてオールド・テクノロジーが生き延びてれば、だけど。

 そんなマセ君、司政官といえば昔なら独裁者として思うがまま権力を振るえただろうに、今や植民星着任すらマスコミに軽く流される凋落した存在。ナメられちゃイカンと、とりあえずは司政官の権威復活に努力する。記者会見に望む際も制服を工夫し、地方巡視からの帰還時には、ちょっとしたパレードを演出して権威を強調する。これが単なる見栄なら「嫌な奴」なんだが、全住民移住プロジェクトを仕切れるリーダーシップを確立するためとあれば、読者も彼の苦労に共感してしまう。

 連邦も官僚組織、縦割り行政の例に漏れず、横の連携は全く取れていない。進駐している連邦軍は協力するどころか情報すら寄越さず、参謀本部から派遣された高級軍人も鳴りを潜め、なにやら独自に活動を始めている。開発営社の支店も、移住計画で大金が必要だって時に、特産品の利益の独占を目論む。地元の大手交通会社は、新路線開発協力の依頼を持ち込んでくる。まあ、これは、新星化を知らないんだから仕方がないけど、移住計画が明らかになれば協力してもらわにゃならんので、あまし冷たくあしらうわけにもいかない。とにかく金が必要なんで、増税しなきゃイカンのだが、巧くやらんと住民の反発も必至だ。そもそも新星化を素直に信じる者ばかりとも限らない。信じても、「司政官は○○を贔屓してる」「俺は素寒貧、逆さに振っても金は出ない」などと言い出す者も出てくるだろう。

 …と、まあ、前半はシムシティ的な問題山積の中、マセ君は着々と手を打っていく。全体を通して大きなアクションも少なく、マセの内省や状況説明が大半なので、波乱万丈とは言い難い。反面、会見の部屋の選択で相手にそれとなくメッセージを伝える、またがマセが相手のメッセージを読むなど、いかにも「組織の人」らしき配慮をじっくり書き込んでいて、それがこの作品の大きな魅力になっている。

 さて。そんな司政官シリーズの、もう一つの魅力はSQ1を筆頭としたロボット官僚たち。本書は登場人物の外見の描写が少なくて、ロボット官僚も明確に記述されていない。わかるのは「人目でロボットと判る外見である」「SQ1は固定型で移動できない」「それ以外は歩ける」「マセはSQ1Aの足事を聞き分けられる」「LQシリーズは飛べる」ぐらい。なら、てんで、勝手に各ロボットに AA を当てはめてみた。

SQ1
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SQ2A~SQ2F

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          \:/    l:::::::l |::::::::::l   ヽ:: : : : /

LQ系
                              ト、
                               /  \  / ̄}
       ト、__    \           |   , `Y´  /
        |: : : : : :`l_    )ヽ       人 〈 、 ノ , /
        |: : : : : : :r' ̄\ノ__ノ        / : >==○=‐く`ヽ
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        | u | | レ  |            /ニニニヾ≧=-、
        x__レ'___|              <___入__ノ‐'⌒丶
       〃彳: : : : : |              | |  | |
       j/ |_i|_ノ                  | |  | |
            V レ'                    レ   レ
              オラオラ~税金払え~

 …やめときゃよかった

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