アイザック・アシモフ「アシモフ自伝Ⅰ 思い出はなおも若く 1920→1954 上」早川書房 山高昭訳
日本では「アシモフ」と「アジモフ」の表記があるが、本書では前者を採った。(編集部)
アーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインラインと並ぶ、どころかアルファベット順に並べれば先頭に置くべ著名なSF作家、アイザック・アシモフの自伝。現在、日本じゃアシモフの自伝は四冊出ていて、Ⅰが上下、Ⅱも上下…と思ったら、復刊ドットコムにリクエストが出てる。絶版していたとは。初版出版時は絶賛されてたんだけどなあ。このⅠ上では、ロシアでの祖先の話から始まり、1942年に海軍工廠の職を見つけるまでとなっている。
ハードカバー二段組で420頁、しかも文字は8ポイント(普通は9ポイント)とやや小さめなため、読み応えはずっしり。原文のせいか、文章にややクセはあるものの、そのセンスに慣れればすんなり読みこなせる。アシモフの皮肉たっぷりの文章のクセを掴んで慣れるには、科学解説書やSF小説より、彼自身の性格が良くわかる本書が一番向いてるかも。
では彼は本書で自分をどんな人間と看做しているか、というと。
- 幼い頃は神童と言われるほどに頭が良かったが、少々それを鼻にかける節がある。
- 世知に疎い優等生だが、口の減らない毒舌家で、タチの悪いイタズラ小僧でもある。
- 強力な集中力を持つ版面、道を歩く時などに何気ない風景などへの注意力には欠ける。
- 親の躾のせいか、ワーカホリックだ。
- ユダヤ人だが、ほぼ無宗教だ。
まあ、ありがちな小賢しい理系の青少年ですね。
ロシアに産まれたユダヤ人であるアシモフ一家は、一旗挙げるためアメリカに移住し、ブルックリンに住み着く。幼いアイザック少年は、標識の意味が知りたくて近所の少年少女を追い掛け回し、彼らから読み書きを学ぶ。賢明さを尊ぶユダヤ人の伝統のせいか、彼の父は読み書きできるアイザック少年に感心して、早速小学校へとアイザック少年を押し込む。親の期待が高いのも良し悪しで。
「65点しかとれない人間が65点とってきたら、それはすばらしいことであり、誉めなければならん。しかし、100点とってこれる別の人間がいて、95点とってきたら、彼は間違ったことをしたのであり、恥ずべきである」
などと父に言われ、神童の悲哀を味わう羽目になる。そんなアシモフ少年に、辞書を送るお父様は流石。そのお父様、何年か工場で真面目に働いた後に、キャンディーストアを開店する。店には雑誌も多量に置いたから、アイザック少年はそこでパルプ雑誌と出会い…とは、ならないのが現実の辛い所。
表記としては「アシモフ」「アジモフ」どっちが正しいの?というFAQにも、ちゃんと解を提示してます。
「ここに、has, him, of という三つのきわめて単純な英語の単語がある。これを has-him-of というふうにくっつけて、それをふつうに発音してみたまえ。次に二つの h を抜かして、もう一度、発音する。そうすれば Asimov と発音したことになる」
シャイで出不精なアイザック青年、それでも自分で書き終えた小説を、憧れのジョン・W・キャンベルに持っていく。キャンベルはリーダーシップに溢れるのみならず、作家の指導者としても一流だった模様で、駆け出しのアイザック君に見事なアドバイスをしている。
「アシモフ、小説の書きだしに手こずるのは、不適当な個所から書きはじめるからなんだ。それも、たいていは、前すぎるせいだ。話のもっと後の個所を選んで、やり直してみたまえ」
かの有名なコレも、キャンベルとの会話から生まれた、とアシモフは告白している。
ロボット工学の三原則
第一条 ロボットは人間を傷つけてはならない。
また、傍観することによって人間に危害をひきおこしてもならない。
第二条 ロボットは人間の下す命令に従わねばならない。
ただし、その命令が第一条に抵触する場合を除く。
第三条 ロボットは、第一条および第二条に抵触しないかぎり、自分の身を守らねばならない。
以後、アイザック・アシモフ「アシモフ自伝Ⅰ 思い出はなおも若く 1920→1954 下」早川書房 山高昭訳 に続きます。
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