円城塔「Self-Reference ENGINE」ハヤカワ文庫JA
日本SF期待の新鋭、円城塔のデビュー連作短編集。タイトル Self-Reference ENGINE(自己言及機関)が示すように、メタ的・再起的なトリックを駆使した論理遊戯と、アメリカ南部の法螺話のようなトボけた馬鹿話が混在した、どうにもとらえどころのない独特のSF(?)小説。
文庫本で約360頁、22個の短編が並んでいる。頁数はたいした事ないんだけど、「時間束理論」など一見とっつきにくい難しげな言葉が出てくるんで、SFに慣れない人はたじろぐかもしれない。ナニやら小難しい言葉が出てきたら、とりあえず「ナニやら難しいことを言ってるんだな」ぐらいに解釈して読み飛ばすが吉。それより、再帰的・自己言及的な言葉遊びが多いんで、そういう部分に手こずるだろう。
Writting Self-Reference ENGINE NearSide Farside 01 Bullet Return 20 02 BOX Echo 19 03 A to Z Theory Disappear 18 04 Ground 256 Infinity 17 05 Event Sacra 16 06 Tome Yedo 15 07 Bobby Socks Comming Soon 14 08 Traveling Japanese 13 09 Freud Bomb 12 10 Daemon Contact 11
「なんなんだ、これは」というか、狐につままれた気分というか。幾何学的でクールなカバーからは、一見オシャレで難しげな難しげな印象をうける。が、読み進めるにしたがって、実は単なる馬鹿話ではないかという気分になってくる。実際、円城塔は様々な作家に例えられる。スタニスワフ・レム、グレッグ・イーガン、テッド・チャン。かと思えばレイフェル・アロイシャス・ラファティだったり、テリー・ビッスンだったり。果たしてその正体は…
ぼく、リチャードの親友、ジェイムスはここら辺じゃ一番賢い奴だ。問題は、彼がリタに惚れちまったって事。リタはどこかネジの外れた規格外の女の子で、何かというとリボルバーをぶっ放すんだ。やがてジェイムスは「イベント」に巻き込まれ…
などと、アメリカの田舎の少年少女の切ない初恋の物語があるかと思えば、時が乱れ因果律が混乱した世界で、巨大知性体たちがイカれた計画を実行し、争い、発狂し、消滅する小松左京ばりのスケールの大きい話もある。死んだ婆ちゃんの家の床下から22体のジクムント・フロイトが出てきて、親戚一同が額を寄せ合って始末を協議するなどという、人を食いまくった法螺話 Freud もある。私は Bobby Socks のタイトル・ロール、ボビー君が気に入った。
小難しげな話かなと思って肩の力を入れると、人を食った馬鹿話が出てきて、「なんだこれは」と気を抜くと無限と有限の話が出てきたり。作者に翻弄されっぱなしの数時間でありました。
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