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2010年9月19日 (日)

吉田太一「遺品整理屋は見た!! 天国へのお引越しのお手伝い」扶桑社

「私とあなたの仕事は、考古学的な仕事なんですよ」

 日本初の遺品整理専門会社「キーパーズ」を起業した吉田氏が、その業務で出会った様々な人間模様を綴ったエッセイ集。キーパーズの主な業務は孤独死した人の遺品の整理だ。本書にも腐敗した遺体やゴミに埋もれた部屋など、陰惨な場面も多く出てくる。しかし、タイトルの「!!」が思わせる扇情的な描写は押さえ気味だ。むしろ、副題の「天国へのお引越しのお手伝い」に現れているように、吉田氏は落ち着いて常識的な視点で事件を綴っていく。

 ソフトカバー一段組みで約250頁。4~10頁程度の独立した34本のエピソードとコラムが6本、それに元監察医の上野正彦氏との対談を収録している。語りかけるように自然な口語の文章は読みやすく、文字も大きめなので、軽く読み通せる。

 最初のエピソードは、読者の予想通りに悲惨なシーンから始まる。夜の八時を過ぎて入ってきた急ぎの仕事。血痕と死臭が酷い。従業員は帰ってしまったため、残っていた吉田氏が自ら現場に赴く。床に広がる体液を拭き取り、凝固した血液を擦り取り、消毒液を散布する。これをたった一人の作業で2時間で仕上げるんだから、さすがプロは違う。

 扱うのが孤独死だけに、家族との縁が薄い人が多い。妻子を捨て女を作って出て行った男、酒に溺れてゴミに埋もれて死ぬ男、親離れできなかった中年男。かと思えば、天涯孤独と自称していた男に家族がいたり、闊達で明るい人が「旅行にでも行っているのだろう」と見過ごされていたケースもある。
 民間の営利企業なので、誰かが費用を負担しなければならない。なんとか見つかった親族が「はとこ」で大家と費用の支払いで揉める事もあれば、隣人から出た異臭の苦情を大家から押し付けられる羽目になったり。

 つくづく感心したのは、鬱を自称する女性から、リストカットの跡を吉田氏が見せられた際の受け答え。ある意味、直球ド真ん中の受け答えなのだが、自然で屈託が無いくせに意外性に富んでいる。こういう事業を起こす人はさすがに違うというか、なんとも軽妙で機知に富んだ会話を展開してみせる。とっさにこういう会話をできる人が、つくづく羨ましい。

 後半では、どうやって孤独死を防ぐかという問題を我々に突きつけ、吉田氏なりの回答も示している。孤独死の現場の映像を中高年に見せて現実を直視させ、朝の散歩でもいいから世間とのつながりを維持しろ、と。

 三面記事的な内容を期待して野次馬根性で読んだ本だったが、意外と抑制の効いた文章だった。そういう点では、末尾の上野氏との対談が面白い。根底では二人とも合理的な部分を共有していながら、上野氏は豪快で専門バカ的なキャラクターを、吉田氏は常識豊かな企業人らしく受けて見せる。「ユーレイが出てきたらどうするか」という問いへの、両者の回答は爽快で爆笑物。

 一見陰惨な事件を、独特のトボけた味で落ち着いた雰囲気に料理し、シメは豪快に爆笑させる。思ったよりも明るく楽しい一冊でありました。

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