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2010年9月14日 (火)

サイゾー&表現の自由を考える会「非実在青少年<規制反対>読本」CYZO

まず、"非実在青少年"という造語が噴飯ものである。
なぜ「実在に非ず」なんていう造語を作らねばならん?ちゃんと「架空」という単語がすでに存在するのに。 --大迫純一「見て、聴いて、考えよ」より引用

 再び私の姿勢を明示しておく。私は表現規制に反対です。
 東京都の2010年の青少年健全育成条例改正案に、反対する作家や編集者など著作に関わる人々による、反対運動の記録および意見表明などを集めたムック。127頁で¥800。そこらの文庫本より軽く読み通せるだろう。

 こういう明確な政治的意見を主張する本は、大きく分けて二種類の読者を想定している。片方は本の意見に同調する人であり、もう一方は無関心な人々だ。無関心層に対し「関心を持って欲しい」という訴えるタイプの本もあるが、この本は前者、つまり同調者を対象にしている。それは漫画っぽい表紙や、ライトノベル作家などが多い執筆陣を見れば明らかだ。

まだまだ目が離せない!どうなる?"非実在青少年"問題 --サイゾー編集部
都条例の経緯と表現規制問題のこれから --コンテンツ文化研究会 杉野直也
『非実在』な青少年と『不実在』な子供たち --五代ゆう
政治的な活動は苦手だけれど--動かなければ、何も始まらなかった --ひびき純
規制反対陳情ドキュメント~諦めません、否決まで~ --日高真紅
3月14日Jガーデン「血のホワイトデー」事件顛末 --深沢梨絵
声を紡ぐということ~一人の翻訳家による都議会への集団陳情の試み --兼光ダニエル真
兼光ダニエル真による解説つき第28期東京都青少年問題協議会議事録抜粋
陳情なう! --水戸泉(小林来夏)
マンガは犯罪を助長しているか? --山本弘
ヘドが出そうな思想であっても --山本弘
見て、聴いて、考えよ --大迫純一
仮想近未来 --「規制された後」の図書館にて --時海結似
誰のための何のためのものなのか --義月粧子
子供と性のあり方について --飯田雪子
ボーイズラブ漫画家として --天城れの
マルティン・ニーメラー『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』より --うめ
条例改正案の"真の狙い"とは --山口貴士
参考資料1「東京都青少年の健全な育成に関する条例」
参考資料2「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」
参考資料1「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集」
規制条例反対派コメント
資料

 これと同時期に似たような判型・内容で出た、COMICリュウ編集部・編の「非実在青少年読本」と比べると、正直言って意見表明としては迫力に欠ける。 あちらの「アンケート100人組手」に比べ、参加者が少ないのが痛い。特に日頃ネットに入り浸っている人にとっては、特に新鮮な議論展開があるわけでもない。

 むしろ読みどころは、陳情参加者たちが、改正案の内容を知ってから陳情に赴くまでの、事態の推移を綴った記録だろう。藤本由香里氏の文章を震源として、 ブログ・Twitter・メールなどを介して波紋が広がっていき、数日で核分裂反応のように賛同者が増え、陳情にいきつく様子が、現場で主導した人たちの筆で書かれている。全般的に寝不足の頭で書いたような説明不足の文章が多いものの、複数の筆者が繰り返し似たような状況を書いていて、それが相乗効果を成してライブ感を盛り上げる。そういった点では、ラピエール&コリンズの作品に似た面白さがある。
 大抵の筆者はノンポリで政治家との接触経験が少なく、恐れとおののきでおっかなびっくり、ネットで必死に効果的な陳情方を情報収集し、互いに連絡を取り合いながら、不承不承立ち上がる様は、まんまライトノベルのヘタレな巻き込まれ型主人公だ。

 最後に、年寄りからイチャモンをつけておく。字が小さい。年寄りの読者を切り捨てないでくれ。

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