COMICリュウ編集部・編「非実在青少年読本」徳間書店
吾妻ひでお「そこまでいわれたら困る(笑)。」
予め私の姿勢を明示しておく。私は表現規制に反対です。
東京都の2010年の青少年健全育成条例改正案にちなみ、創作や編集に関わる多くの人々の声を集めたムック。144頁で¥800。軽く読み飛ばすつもりなら、簡単に読了できる。内容は、以下。
- 読んでみよう、考えてみよう。東京都青少年健全育成条例:現行の条例文と改正案、およびその解説
- インタビュー:藤本由香里、山口貴士、安彦良和、東浩紀、押井守、赤井孝美、中村公彦
- 対談:吾妻ひでお×山本直樹×とり・みき、鈴木みそ×青木光恵
- COMICエッセイ:鈴木みそ「山口弁護士会見記」、ちばてつや「--と、ぼくは思います!!」
- アンケート100人組手:作家・漫画家・アニメ制作関係者など100名へのアンケート
1)条例改定と、「非実在青少年」についてご存知でしたか?
2)今回の改正案に対してどう思っていらっしゃいますか?
3)↑の回答について、その理由をお答えください。
4)ご自身の創作・表現・評論活動で気をつけていることは?
5)成立した場合、ご自身の活動にどんな影響が生じると思いますか? - コラム:兼光ダニエル真
- 東京都青少年健全育成条例改正についての意見書:宮台真司
緊迫した状況の中、突貫作業で作っただけあって、さすがに粗さは目立つ。だが、それが逆に奇妙なライブ感と高揚感を伝えてもいる。現在、条例の矢面に立っているクリエイターの、緊迫感あらわな生の声が伝わってくるのはありがたい。反面、条例改正の背景などの記述がすっぽり抜けているので、関心のない人に取っては、説明不足で「何がナンやら」な部分も多い。例えば、藤本由香里氏インタビューに出てくる、東京都小学校PTA協議会の話。青少年問題協議会のメンバーでもある新谷珠恵氏が、東京都小学校PTA協議会の名で賛成の意見書を出した、という背景を説明しないと、藤本氏が何を言っているのか、意味不明となってしまう。
やはり読みどころは「アンケート100人組手」。短期間によくこれだけ声をかけ、意見を集めたものだと思う。特に、質問 5) の回答は、思わず噴出してしまう気の利いた回答が多かった。さすが創作者、センスが違います。
- 伊藤伸平さん、全くおっしゃる通りでございます。
- 沖方丁さん、できれば具体的に。
- 海猫沢めろんさん、ぶっちゃけすぎ。
- 大塚英志さん、正直すぎます。
- 菅野洋紀さん、酒・タバコ・賭博の例えは見事。
- 桐生真琴さん、出来れば長文コラムを寄稿してください。
- 高千穂遥さん、ドサクサに紛れてナニ言ってんスか。
- 谷口悟郎さん、あなたにも長文コラムを是非。
- 永野のりこさん、書いてて次第に熱がこもってきたのがヒシヒシと伝わってきます。
- 速水漣さん、なんて正直な人なんだろう。
- 藤井あやさん、よく言ってくれました。
- 魔矢峰央さん、パタリロとタマネギが踊り狂うシーンを妄想しちゃいました。
限られた時間の中での作業なので、文句を言うのは気が引けるが、いくつか記になった点をまず挙げておく。なお、私がココで述べた事を全て実現しようとすると500頁以上の重厚長大な書籍になるだろう事は確実なんで、関係者の方は、素人によるイチャモンだとお考え頂きたい。
- 文字が小さすぎ。特に条例文と、宮代氏の意見書。若い人はいいんだろうけど、年寄りには辛いのよ。
- 表紙がポップすぎ。これじゃオヂサン・オバサンは躊躇しちゃうよ。まあ、対象読者は若い人なんだろうけど。
- 吾妻ひでお分が足りない。もっと話を引き出してよ。ムックの主旨から外れてもいいから。←無茶言うなよ、俺
- 反対派だけでなく、規制しようとする人の意見も載せて欲しい。インタビューが取れないなら、公開されている議事録を採録するとか。例えば第28期東京都青少年問題協議会議事録の第8回専門部会の、前田先生の断固たる意思を示す p18 の発言「統計的に、こういうものがあるから増えたという立証は、データとしてはそんなに明確には無いんだということなんですね。」は、外しちゃいけないでしょう。同じ会の、大葉ナナコ先生の「認知障害」発言も、熱意ほとばしる名言だし。
そして、最大の不満。続編はまだ?条例改定のいきさつや、それに対する反応など、話題性は充分あると思う。企画があるなら、アナウンスだけでも、して欲しい。
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