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2010年7月18日 (日)

安岡孝一+安岡素子「キーボード配列QWERTYの謎」NTT出版

 コンピューターのキーボードの配列はなぜQWERTYになったのか、それについてまことしやかに言われる様々な噂の真偽と出所の解明を軸に、タイプライターの黎明期からコンピューターまで、キーボードのデザインと生産の歴史に挑んだ力作。身近な謎で読者の興味を牽引しながらも決して週刊誌的な内容ではなく、大量の一次資料の綿密な調査に基づいていて、索引・参考文献・図版一覧なども充実しており、立派な研究書と言える。

 ハードカバーで一段組み本文186頁、ただし本文の下1/3は脚注用の領域で空白が多い上に、図版も豊富なので分量的には軽い。しかし特許権や株式の保有関係などややこしい内容が多く、文体もクールなので読み応えはある。昔の機械式タイプライターの図版は、なかなか見ていて楽しい。

 1860年代、クリストファー・レイサム・ショールズの「活字書字機械」の特許取得から始まり、様々なタイプライターの登場・タイピストのコンテスト・電信機との融合など、興味深いエピソードを交えてながらお話は進む。以下、印象に残った部分を適当に。

  • 初期のタイプライターは、ピアノみたく黒鍵と白鍵が配置されていた。使いづらくてすぐに廃れたけど。
  • キーも大文字のみで、鍵盤数を減らすため、O(オー)と0(ゼロ)、I(アイ)と1(イチ)は同じキーで兼用していた。
  • 初期のタイプライターにはペダルがついていた。
  • 商品化したのは、銃で有名なレミントン。
  • 同じキーで大文字と小文字が打てる機構も発明された。ライバル社は特許を避けるため、大文字と小文字の両方のキーを持つ製品を作った。
  • 女性参政権運動家が、女性の社会進出を促す技術としてタイプライターに注目した。
  • タッチ・タイピングはタイピストの間から自然発生した。この頃はメーカーごと・製品ごとに様々なキー配列があったが、それぞれの配列のタイピストが各個独自にタッチタイプを習得していた。
  • 初期のタイピングのコンテストでは、二本指打法のタイピストとタッチタイプのタイピストに大きな差はなかった。
  • 19世紀末には、特定の配列に慣れたタイピストは他の配列への移行に苦労する事をメーカーは把握していた。この頃には特許などの問題もあり、大半の製品で配列はQWERTYに統一されていた。
  • ショールズが「文字を探しやすい配列」を追求した途上でQWERTYになり、上記の理由でほぼ固定してした。

 他にもテレタイプとの互換性やドボラックの暗躍、IBMのQWERTY採用など、キーボードに関するトリビアネタが詰まっている。

 そうそう、タイプライターといえばこの曲、マーチン・アンダーソンのタイプライター。BGM にするには、ちとユーモラスでリズミカルすぎるかも。

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