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2010年7月15日 (木)

チャイナ・ミエヴィル「ペルディード・ストリート・ステーション」早川書房 日暮雅通訳

 早川書房のプラチナ・ファンタジイの最新作。ハードカバー二段組で650頁を超える大ボリュームはずっしりとした読み応えがある。汚泥から浮かび上がる怪人や粘液を垂れ流す怪物が好きで、奔放で不道徳でグロテスクな妄想に翻弄されたい人向けの、長い長い悪夢の物語。

 謝辞に延慶を受けた作家としてM・ジョン・ハリスンとマーヴィン・ピークを挙げている。ハリスンは未読だが、マーヴィン・ピークには納得。ゴーメンガースト三部作を思わせる、時も場所も不明な舞台で、陰鬱で重苦しい雰囲気の中、奇矯な者たちが繰り広げる、饒舌な物語。SFともホラーともファンタジィとも分類できない、なんともすわりの悪い、その不安定さを味わう小説。

 時は不明。19世紀風の科学と、錬金術的な魔術が共存する世界。場所はロンドンをモデルとしたとおぼしき都市、ニュー・クロブソン。水棲人ヴォジャノーイ・サボテン人カクタシー・翼人ワイルマンなど様々な種族に加え、人体を改造したリメイドなど異形の者たちが、ヒトと入り混じり、時にはにらみ合いながら暮らしている。

 大学から追い出され、街の者に技術を提供して暮らす、異端の科学者(つまりマッド・サイエンティスト)でオッサンのアイザックが主人公。鳥人ガルーダの一人、ヤガレクがアイザックに依頼を持ち込む。「翼を失った。再び飛べるようにしてくれ」と。興味をそそられたアイザックは、研究材料として、珍しい鳥・昆虫・卵・幼虫を集めるよう、仲介人レミュエルに頼む。
 集まった物の中に、奇妙な芋虫がいた。ドリームシットというドラッグを食べ、異様な速度で巨大に成長する。繭を作った芋虫は成虫スレイク・モスとなって脱走し、街中に大きな災厄をもたらす。
 リンはアイザックの恋人で、昆虫人ケプリだ。唾液で彫刻を作る芸術家の彼女にも、街の裏を仕切る正体不明のボス、モトリーから大きな依頼が舞い込む。

 大筋はアイザックと仲間達のスレイク・モス退治だが、この小説の魅力はニュー・クロブソンの退廃的で腐臭漂う風景と、ヴォジャノーイなど異形の者たちだろう。私が最も印象的だったのは、人体に様々な改造を施したリメイド。犯罪の刑として、または自らの意思で、牛の足腰やピストンなどを、人体に移植された者たち。サイボーグというか改造人間というか。特に対スレイク・モス用に作られたリメイド兵のおぞましさといったら。他にも敵役の魔蛾スレイク・モスを始め、異次元生物ウィーヴァーや機械知性コンストラクト・カウンシルなど怪物たちも暴れまわるし、解析機関などスチームパンク風のガジェットも楽しい。「お祈りジャック」は、やっぱり切り裂きジャックがヒントなのかな。

 これが坂本康宏なら爽快で感動的なヒーロー物になるだろうし、牧野修なら天才や美少女が暗躍するホラーになるんだろうけど、登場人物が精神的には等身大の小物ばかりなのは英国人だからかな。特にアイザック。緊急時に恋人の心配したり、優柔不断でチームを危機に陥れたり。カッコいいヒーローを期待しちゃいけません。気が小さいくせに自分の研究には異様な執念を燃やす、情けなくて小狡い、けど研究には有能なマッドサイエンティストです。

 エース不在でジョーカーが大活躍するワイルド・カード…などと考えたけど、んな例え、通じんわな、今更。台所に浸透するゴキブリに苦戦を強いられている私には、いささか刺激の強すぎる作品でありました。

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