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2010年7月19日 (月)

シオドア・スタージョン「海を失った男」河出文庫 若島正他訳

 「人間以上」や「スタージョンの法則」で有名なSF作家、シオドア・スタージョンの短編集。だがこの作品集に関しては、いわゆるSFを期待すると肩透かしを食う。SF的な仕掛けを含む、奇妙な味の短編集とでも言うべきか。クセの強い作家なので、とりあえず冒頭の「音楽」を味見してみる事を勧める。わずか3頁の掌編ながら、この短編集の味見用に相応しい風味を備えている。

 文庫本で本文451頁の短編集、量は少ないが文章は難物。訳が云々というより、スタージョンの文章が元来そういうものだからだろう。軽く読みとばす類の 本ではない。じっくり注意深く読み進め、なおかつ二度三度読み返さなければ作家の真意は伝わってこない。彼の作品は、作品そのものがミステリーなんだろう。ただし、正解はどこにも明示されていない。

 スタージョンは、厄介な作家だ。特に短編集だと、厄介さが際立つ。一つのテーマを追求した長編では、娯楽性と深い思索を併せ持つSF作家として、初心者にも自信を持って勧められる。しかし、短編では傾向がバラバラな上に、独特の技巧を凝らした文章が、怠惰な大量消費を望む読者の理解を阻む。一編が短ければ短いほど、技巧は巧みになり、主題を掴むのが困難になる。

音楽 吉村満美子訳
夜、病院から抜け出した患者の一人称で語られる、不気味な物語。
ビアンカの手 若島正訳
スタージョン初期の代表作。白痴の少女の手に魅せられた男の話。何度も読み返したが、私にはオチがわかららなかった。
成熟 霜島義明訳
病気により精神的に子供のままの男、ロビン。旺盛な好奇心と溢れる創意は優れた発明や創作物を生み出すが、成果を惜しみなく他人に与えるため借金生活。絶えず悪戯を繰り返し、周囲の人を混乱させる。学者のペグとメレットは彼の治療を試みるが…。タイトルどおり、人の成熟とは何かというテーマの作品。前の二作に比べれば遥かにわかりやすい。
シジジイじゃない 若島正訳
レオはいきつけの店で理想の恋人グロリアに出会い、思わず話しかける。話せば話すほど二人の相性はピッタリで…。タイトルからディックっぽいなあと思ったら、やっぱりそうだった。
三の法則 吉村満美子訳
地球の観測に訪れた宇宙人は、恐ろしいウイルスの繁殖に驚き、対策を試みるが…。別れた奥さんとパーティーで出会った男は、どう反応すりゃいいんでしょうねえ。
そして私のおそれはつのる 今本渉訳
不良少年ドンは、配達先で老婦人フィービーに過去の悪行を咎められる。ドンは誤魔化そうとしたが、フィービーは奇妙な力を持っていた。彼女の指導に導かれ、ドンは更正の道を歩みはじめるが…。「なんか抹香臭い作品だなあ」と思いつつ読み進めると、いかにもスタージョンらしい皮肉なオチが待っている。
墓読み 大森望訳
男ってのは、言わなきゃわかんない生き物なんです。
海を失った男 若島正訳
砂浜で遊ぶ少年と、佇む男。男が思い出すのは、スキン・ダイビングの記憶。「ビアンカの手」同様、スタージョンの技巧が味わえる作品。

 スタージョンは、長編と短編で全く異なった顔を見せる。長編では優れた物語作家だが、短編では意地の悪い叙述巧者だ。正直言って、私は長編の方が好きです、はい。

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