梶尾真治「あねのねちゃん」新潮社
蒸し暑くて眠れぬ夏の夜が少しだけ涼しくなる、サイコ・ホラー風味の小品。
ソフトカバー281頁と手軽な分量のうえに、梶尾氏の文章は抜群に読みやすい。基本的に主人公のみの視点で、時系列も大きく前後しない、一直線の物語なので、大きな混乱もなく、あっというまに読了できる。
イマジナリー・コンパニオン。孤独な幼児が作り上げる、想像上の友人。人見知りする性格の玲香には、幼稚園児の頃、他の人には見えない、あねのねちゃんという友達がいた。物怖じしないあねのねちゃんに手をひかれ、玲香は幼稚園に馴染んでいく。やがて玲香が小学校に上がる頃、あねのねちゃんは現れなくなった。
時は一気に20年ほど進み、成人して就職した玲香。いい感じだと思っていた彼氏に突然フラれ、仕事では粗暴で無責任な営業課長からミスの責任を押し付けられ、嫌味な同僚から冷笑を浴びせられ、最低な気分で部屋に引きこもるの玲香の前に、突然あねのねちゃんが現れる。あねのねちゃんは自分の想像上の人物だと自覚しながらも、彼女にひきずられ街に出た玲香は、粗暴な営業課長を見かけ…
誰だって嫌いな奴はいるし、思わず尻込みしてしまう時もある。性格を変えたい、無邪気に物怖じせず振舞えたら、と思う時もある。そんな押さえ込んだ気持ちが別の人物として具象化し、現実世界で振舞い始め、それを自分で制御できなくなったらどうなるか。そういった恐怖と、あねのねちゃんの正体の謎を中心に、押し付けがましい親に窒息しそうになる娘という親子の葛藤を盛り込んで物語りは進む。
おおサイコホラーかと思わせておいて、さすがカジシン。終盤になって、「あれ?なんか様子が変だぞ」と感じた後に、いかにも多芸なカジシンらしい「殿、ご乱心」な展開が待っている。この怒涛の展開、スピーディーではあるものの、いささかボリュームが少ないのが少し不満。あねのねちゃんの正体など謎もきっちり、解き人間関係も収まるところに収め、ベテラン作家らしく綺麗に手堅くまとめたのは、新潮社だからかなあ。
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