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2010年7月 2日 (金)

外交・軍事的対立の三段階

 ちょっと思いついた事。

 現代の国家間の外交的・軍事的な緊張は、両国家の政策が対立する場合に起きる。その深刻さの度合いは、大きくわけて三つの段階に区別できる。対立の浅い順に、1)状況 2)政権 3)体制 となる。表面的には政策の対立しか見えないが、その要因の根の深さと、解決の困難さが違う。

  1. 状況の対立:状況が変われば政策も変わるレベル。

     湾岸諸国への米軍進駐を例に取る。米国は湾岸への影響力を増やすために、軍事基地を持ちたがっている。しかし湾岸諸国の民衆は米国に反感を持っており、余計な火種を抱え込みたくない各国の王家も、米軍の存在には神経を尖らせている。イラクのクェート侵略がこの状況を劇的に変えた。国内の反米世論より、サダム・フセインの方が、より強大で緊急の脅威となった。そのためにUAEはカタールの米軍基地を容認せざるを得なくなった。
     国家間の対立の大半はこのレベルで解決可能で、武力行使や経済制裁にまで発展しない。外交の手札として経済的な手段を使う場合もあるが、大抵は双方あるいは一方の政策の転換によって解決する。日米交渉の大半は、このレベルで解決している。

  2. 政権の対立:政権が代われば政策も変わるレベル。

     湾岸戦争~経済制裁時の米国はイラクの政権交代を望んでいた。クリントン政権までの米国はクーデターによるサダム・フセイン政権の転覆を目論んでいて、バース党による支配体制の打倒までは望んでいなかった。サダムは折れそうにないなら、それに代わる親米の誰かさんが立てばいいんであって、バース党の支配体制を壊そうとまでは思っていない。対立の原因が政権の基本方針に基づく場合は、ここまで発展してしまう。

  3. 体制の対立:政権と体制が分かちがたく結びついているレベル。

     あまり民主的でない国家と対立すると、この状況に陥りやすい。北朝鮮がいい例かな。麻生政権が鳩山政権に変わっても日本の立憲君主制は変わらないし、ブッシュJr政権がオバマ政権に変わっても合衆国憲法は変わらない。けど金王朝が倒れるとするなら、北朝鮮の国家体制そのものが大きく変わりかねない。
     *「でも中国はどうなの?」と突っ込まれたら、すんません、反論できないっす。
     あの手の国は体制=政権で、政権を維持するために人権や言論を統制している。それを正当化するために、意図的に近隣諸国との軍事的な緊張を演出し、「非常時だから」と言い訳している。この場合、政権の維持には軍事的な緊張が欠かせないので、近隣諸国にとっては必然的に「困ったちゃん国家」となってしまう。

 民主主義国家だと、政権の対立に陥っても、選挙によって政権が交代すれば、政策の転換も期待できので、無血の対立緩和や解消も期待できる。しかし独裁体制の場合は、政権と体制が強く結びついているため、対立の解消にはクーデターまたは全面戦争などによる体制崩壊が必要な場合が多い。

 民主主義は正義じゃない、けど強くて生存に長けているんだ、と私は思っている。その理由の一つがコレで、選挙による政権交代→政策転換ができるため、他国家との緊張を緩和しやすいからだろうなあ、などと考えるわけですね。もう一つは民主主義国家は強大な軍事力を持てるって点なんだけど、それはまたの機会に。

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