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2010年7月23日 (金)

鳥井順「中東軍事紛争史Ⅳ 1967~1973」第三書館パレスチナ選書

 第三次中東戦争後から第四次中東戦争前夜までを扱う誠実かつ重厚なシリーズ第四弾にして、最新刊。

 前巻最後がイスラエル空軍の圧倒的な活躍という「絵になる」流れだったのに対し、今回はダラダラと続く小競り合いの消耗戦争と、ソ連に接近して軍備増強を続けるエジプト・シリア、ヨルダン内戦・レバノン内戦など、くすぶりながら発火直前まで圧力上昇が続く緊迫した政治状況が中心。

 スエズ開通を目指し仲介をもちかける国連の試みはことごとく空振りに終わり、イスラエルとエジプト・シリアは際限のない小競り合いが続く。運河東岸に要塞線バーレブ・ラインを築くイスラエルに対し、エジプトは大胆にソ連軍将兵や技術者を招く。エジプト人の電子機器操作能力に疑問を抱くソ連も同調する。防空体制を整える。急逝した英雄ナセルの後継サダトは当初ナセル路線を引き継ぎながら、次第に独自色を強める。高空を高速で強行偵察する Mig25 に手も足も出ないイスラエル空軍の F4ファントム。リビアの革命で成功したカダフィはエジプトに急接近する。

 地歩を固めたPLOは、ゲリラ的な武力闘争をエスカレートさせ、ついにハイジャック事件を起こす。シリアは難民の受け入れには消極的ながらも、パレスチナ・ゲリラの武力闘争は支援する。

 ヨルダンでは、第二次難民の流入で膨れ上がったパレスチナ人口が政府の統治が及ばぬ国内国家を形成、政情を不安定化させる。PLOのゲリラ活動はイスラエルの報復を招き、ついにキレたフセイン王は忠実なベドウィン族を従えてパレスチナ・ゲリラ掃討に乗り出す。ゲリラを支援するシリアは300両近くのT54/55まで繰り出すが、ヨルダン軍のセンチュリオンに撃退される。

モザイク国家レバノンもパレスチナ難民は国内のパワー・バランスを崩し、ゲリラの巣となった南部はイスラエルの報復攻撃にさらされ、ここでもシリアが介入の機会をうかがう。

 湾岸ではバーレーン・カタール・UAEなどが米国の強い影響下で独立し、サウジアラビア同様に保守派を形成する。イランは米の影響下で軍事増強を続け、湾岸の憲兵を自認しはじめる。

 開戦前夜の緊迫した状況が中心なので明確な焦点はないながら、気になったエピソードを幾つか並べよう。

  • エジプトに派遣されたソ連の戦車教官「エジプト人は、普通必要な時間の半分で技術を習得したがっている。」
  • 69年12月26日、イスラエル特殊部隊が(スエズ運河沿いの)ラアス・ガーリブに上陸して、ソ連製地対空ミサイルSA-2ガイドライン・システムの射撃統制レーダーP-12を鹵獲・分解し、シューベル・フルロン・ヘリコプターに総重量7トンのシェルターを吊るして持ち去った。
  • ヨルダン内戦で壊走したパレスチナ・ゲリラの一部数百人は。白幡をあげてヨルダン川を渡りイスラエルに降伏した。
  • 71/72年のサウジアラビアの識字率は10~15%だった。
  • 70年のオマーンの識字率は5%、乳幼児死亡率は75%。

 この巻の最大ののショックは奥付。著者の鳥井氏は1998年12月に亡くなってる。初版が2000年6月10日なんで、晩年は最後まで執筆を続けていらした模様。その熱意には頭が下がる。鳥井氏は次のⅤ巻までを予定していらしたんじゃないかな、と思う。根拠は無いけど。

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