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2010年6月30日 (水)

ナンシー・クレス「ベガーズ・イン・スペイン」ハヤカワ文庫SF 金子司他訳

 ヒューゴー賞・ネビュラ賞をはじめ各賞に輝く話題作を表題にした短編集。遺伝子改変など、生物の改造をテーマとした作品が中心で、テクノロジーを廻る人と社会の葛藤に目をすえて描いている。

ベガーズ・イン・スペイン 金子司訳
近未来の米国。遺伝子改変で生まれた無眠人は生まれながらに睡眠を必要とせず、頭脳明晰で性格も穏やか、肉体も健康で病気になりにくい。あらゆる分野で優秀な能力を示す彼らに対し、合衆国の多くの人は嫉妬と恐怖を感じ…。24時間赤ん坊が泣き続けたら、そりゃカアチャンもキレるわなあ。
眠る犬 山岸真訳
表題作と同じ舞台で、遺伝子改変を受けた犬に関わったがために崩壊した家庭に育った娘が、必死にあがく姿を描く。優れた頭脳を一途に目標へと振り向ける主人公と、少々ユルくはあってもリア充な姉との対比が身に沁みるw
戦争と芸術 金子司訳
はるかな未来。人類は宇宙でエイリアンであるテル人と戦っている。テル人は人類から大量の芸術品を強奪している。149デルタにおける戦闘で勝利した人類は、そこで大量の芸術品を発見した。テル人が芸術品を強奪する理由は?エイリアンとの現実認識の違いというテーマに、人間同士のソレを対比させた、苦い一編。
密告者 田中一江訳
プロバリティ・シリーズの原型となった中篇。村八分に似た措置を受けているエイリアン視点で、異質な世界観を描き出す。
想い出に祈りを 宮内もと子訳
老いていくこと、それを拒否すること。流れる時を受け入れる人と、踏みとどまる人。
ケイシーの帝国 山田順子訳
SF作家を目指すとはどういう事か。いやあ、おとなになるって、切ないねえ。
ダンシング・オン・エア 田中一江訳
私は表題作の次にこれが気に入った。近未来の米国。ナノテクによる肉体改造が実用化されていく中で、積極的にそれを取り入れるバレエ団と、頑なに拒み伝統を守るバレエ団。芸を極めるため手段を問わないダンサーと、生理的な嫌悪感をあからさまに示す人々。一昔前の少女漫画を髣髴とさせるダンサー達の争い。そんな息詰まる展開の中で、一服の清涼剤はエンジェル。遺伝子改造で知能を強化されたシェパードで、プリマドンナのボディガードを勤めている。無垢で一途な彼が、この作品に救いを与えている。

生命の改造という表のテーマの裏に、家族の葛藤というテーマも流れている。我が子がミュータントなら、素直に愛せるだろうか?親が敷いたレールに乗れない子供は?子供が無茶な夢を抱いているなら、親はそれを応援すべきだろうか?全般として、苦い味わいの作品が多い。

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