チャールズ・ストロス「残虐行為記録保管所」早川海外SFノヴェルズ 金子浩訳
H.P.ラヴクラフト風ホラー+スパイ・サスペンス+Jargon Files(ハッカーズ大辞典)、加えてディルバートとモンティ・パイソンンを少々。おまけに調理人がチャールズ・ストロスとくれば、そりゃもうトコトンひねくれまくり。一体誰に読んで欲しくて書いてるんだか。ツボにはまる人は滅多にいないけど、ハマっちゃったらもうおしまいという、とことんアクの強い作品。WannaBe なら、とりあえず読んどきましょう。
そんな感じなんで、文章も凄まじくクセが強い。私の乏しい読書体験では、O’Relly のラクダ本こと「プログラミング Perl」に匂いが似ている。慣れない人には、ちょっと辛いかも。
時代は現代。この世界には、隠された秘密がある。数学のある部分に踏み込むと、魔術により異世界の何者かを呼び出してしまい、恐るべき災厄を引き起こす。各国は専門の秘密機関を設立し、相互に協力や反目しながら、災厄を防ごうと努力している。
主人公ボブ・ハワードは英国の機関<ランドリー>の新米職員。深夜勤務を終えた次の日の朝、遅れて出勤するとイヤミな上司から遅刻を咎められる。なんとかやりすごすと、馴染みになっちまった経理の馬鹿からPCトラブルの相談が舞い込む。「そうなんだよねー、なまじPCに詳しいと、職場の汚れ仕事が回ってきちゃうんだよねー」などと同病相哀れむ人も多かろう。そう、トラブルは増殖するのだ。他にもボゴンだの 0xDEADBEEF だのクヌースの四巻だの、その手の人向けのくすぐりが幾つか用意さえてる。
念願かなって現場配属になり、早速アメリカに飛ぶ。ある大学教授がイギリスに帰国しようとしたのだが、米国の国防に関わるとの理由で出国を拒否されたのだ。ボブは米国の機関との調整のため、教授と接触するのだが…
日常描写はディルバート&モンティ・パイソン風ドタバタではあるものの、タイトルは決して大げさではなく、クライマックスにはそういう描写もふんだんに出てくる。ラヴクラフトも伊達じゃなくて、日常が少しズレただけで現出する週末の恐怖も充分味わえる。それでも「ゾンビ」というより「バタリアン」な感触になっちゃうのは、やっぱりストロスだからだろうなあ。
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