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2010年6月22日 (火)

ピーター・ブルックスミス「狙撃手」原書房 森真人訳

 書名どおり、狙撃手についてのノンフィクション。比較的網羅的なんで、まあ初心者向けでしょう。ある程度銃に詳しい人なら、更に楽しめるかも、私は自動小銃とライフルの区別もつかないシロウトなんで、銃の機構などの記述は飛ばして読んだ。歴史上で狙撃に使われた銃を、随所にコラムとして紹介している。銃の機構については、この辺がとても解りやすかった。

 実際に狙撃の腕を磨きたい人向けではなく、警察や軍などにおける狙撃手の効用や役割・立場などに加え、狙撃手本人と標的の心理的な面にも重点がおかれている。著者がイギリス在住の為か、イギリス軍関係の例が多く、次いで米軍が多い。怪物シモ・ヘイヘが簡単に済まされてるのはちょっと不満。まあシモ・ヘイヘはルーデルと並んで真面目に書いても冗談にしか聞こえない人だから仕方がない。以降、幾つか印象に残った記述を羅列する。

  • 軍の狙撃手は敵に極端に恐れられ憎まれるため、敵に捕らえられた時は即座に殺される場合が多い。だけでなく味方からも疎んじられる。味方から疎んじられる理由は、狙撃手が戦争の倫理的な面をあからさまに見せ付けるからだ。歩兵は「仲間と共に戦う」という認識でそれを覆い隠せるが、狙撃手はまさしく「敵を殺す」事を生業とする。また狙撃手は単独または少人数での作戦行動が多く、孤独になりがちであり、それに耐えられる者でなければ勤まらない。
  • 対して警察の狙撃手はチームの一員として働くため、孤独にはならない。軍の狙撃手が少人数の長距離射撃が多いのに対し、警察はチームと連携した短距離射撃が多い。軍の狙撃手が数日間単独で任務につくのに対し、警察はコンディションを維持するため複数の狙撃手が交代で任務を担当する。その分、警察の狙撃手は人質の巻き添えを防ぐなど一撃で決めねばならず、高い精度を要求される。軍の狙撃手が「人を殺す」という倫理的な苦しみを克服しなければならないのに対し、警察の相手は凶悪犯であるため比較的苦しみは少ない。
  • 優秀な狙撃手は幼い頃から猟に親しんだ者が多い。職業的な猟師は毛皮を傷つけずに獲物を仕留める能力に長けているので、優秀な狙撃手になりやすい。
  • 現代の狙撃手は狙撃だけでなく、斥候(情報収集)の役割も要求される。むしろ斥候が主目的の場合も多い。
  • 狙撃手には射撃術,フィールド・フラフト,戦術の3つの技能が必要だ。いわゆる「銃を撃つのが大好き」なタイプは、意外と狙撃手に向かない。強い忍耐力が必要。

 最後に、ベトナム戦争で活躍した米海兵隊のカルロス・ハスコック一等軍曹の経験を紹介する、シカゴ・トリビューンのジム・スペンサーの記事を引用。

 彼の軍服の中には何百匹というアリが入り込み、その汗ばんだ皮膚に食いついた。下着をつけたまま放尿せざるをえなかったため、彼は悪臭を放っていた。(略)この72時間の間に口に入れたのは(略)2,3杯の水だけだったのだ。(略)腕や腰、ひざが一面水ぶくれになり、それが地面を這っていく間にすりむけた。

 将来的には無人攻撃機が狙撃手にとって代わるのかなあ。完全な置き換えは無理にせよ、役割の幾つかは引き継げるかもしれない。

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