山田正紀「神獣聖戦 Perfect Edition 上・下」徳間書店
完結編というより、セルフ・カバー。もしくは新旧の山田正紀による合作。旧作にも大きく手を入れ、全く異なった味わいになっている。いや旧作はほとんど覚えてないんだけど。
人類は物理的手段に頼らず宇宙に進出する手段を得た。牧村孝二の脳が発する航宙制御ホルモン(FISH)が非対称航行を可能にしたが、人間には絶えられず、鏡人=狂人(M=M)となる措置が必要だった。そして、鏡人=狂人(M=M)に対立する悪魔憑き(デモノマニア)も、人類から生まれていた。鏡人=狂人(M=M)と悪魔憑き(デモノマニア)の永い戦いの中、人類はひっそりと滅びていく。
…えー、何のことか全くわからないと思いますが、最近のライトノベルじゃこの程度は珍しくないよね。とはいえ肝心の鏡人=狂人(M=M)と悪魔憑き(デモノマニア)の戦いの直接描写はほとんどなく、その影が現代に投影したような形で物語りは進む。中心となるのは牧村孝二と、その運命の恋人、関口真理。この二人が様々な世界・時代ですれ違う。運命の恋人などと大きく出たわりに、恋愛小説的な要素は極めて控えめ。
かわりに作者の拘りを感じさせるのが、ソビエト連邦の崩壊。社会主義という体制の崩壊を、ダーウィン進化論における種の滅亡や、量子論で有名なシュレディンガーの猫と重ねあわせ、幻想的なビジョンを提示する。
作中に出てくる歌、A-Ha の Take On Me のプロモーション・ビデオは一見の価値あり。「なるほど、そういうお話なのね」って解釈でも、いいと思う。
以下、余談。確か「顔のない神々」だったかな?作中に漂う貧乏旅行者テイストがとても魅力的だったんだけど、あとがきに「若い頃に中東を貧乏旅行した経験があり、イスラエルのキブツで暫く生活した事もある、ネタが枯れたら、その経験を書く」みたいな記述がありまして。それは楽しみ、いつ枯れるかな、などと不届きな事を考えてたらとんでもない、幻想小説・冒険小説・時代物・ミステリと手を広げ筆は冴える一方。いつまでたっても枯れそうにない。いい加減、出し惜しみは止めて、そろそろ旅行エッセイを出してくれないかなあ。
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