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2009年10月18日 (日)

クリス・マッケイ&グレッグ・ミラー「陸軍尋問官 テロリストとの心理戦争」扶桑社

 著者の一人クリス・マッケイは、アフガニスタンに米国陸軍情報部隊の一員として従軍し、現場で実際に捕虜の尋問に携わった。グレッグ・ミラーはロサンゼルス・タイムスの特派員。ミラーがマッケイに取材した上で、文章はマッケイの一人称の形でまとめたみたいだ。

 読後、実にもどかしい気分になる。捕虜が語ったのは事実なのか嘘なのか、著者のマッケイは判っていないし、素直に「わからない」と告白している。尋問での暴力の是非も、著者はどっちつかずの態度を崩さない。「それは効果的だが、大義を損なう」と。優柔不断のようだが、私はそこに著者の誠実さを感じた。

 プロローグはカンダハル空港に捕虜の集団が降り立つシーンから始まる。頭に袋を被せられ、糞尿を垂れ流しながら泣き喚く捕虜の姿はショッキングで、一気に引き込まれる。一般に軍事物は堅い表現が多くて読みにくいんだが、これは読者を引き込む巧い構成だろう。

 マッケイの仕事を極めて粗くまとめると、捕虜を分別する事だ。無実の農夫や下っ端は釈放し、重要な者はキューバのグアンタナモに送る。他に、武器や証拠物件の隠し場所、アジトやその周辺の地理情報など、前線の作戦立案に必要な情報の聞き出しも担当している。

 登場する捕虜の多くは北アフリカや湾岸諸国出身のアラブ人で、何らかの関係でアルカイダに関係している者が多い。彼らは実にしぶとく、自分の経歴や動機などについて嘘の物語を用意している。しかし宿泊したホテルや同居人・組織に誘った者の名前など、具体的な事柄を尋ねると、なぜか記憶がぼやけてしまう。駆け引きで彼らを篭絡し、口を割らせるのが尋問官の仕事だ。例えば「捕虜の一部を故国の政府に引き渡す」と噂を流す。すると多くの捕虜は怯えて同情を請い始める。湾岸諸国政府は、捕虜の扱いについて米軍と異なる見解を持っているし、それはアラブ人の間でも有名らしい。

 中盤、アルカイダの尋問対策マニュアルが登場する。米軍の尋問手法が詳細に記述されていて、著者のチームはパニックになる。そりゃ慌てるわなあ。手の内が完全に読まれてるんだから。

 終盤に登場するハディが切ない。自称17歳のインドネシア人。高圧的な中流階級の父親に反抗して家を飛び出し、チンピラとして生き延びるが、中東への密出国を企ててインドネシア当局の網にかかる。頭がよく機転が効き、記憶力も優れていて有力で具体的な情報を多く提供する。明るく西洋文化に憧れる彼は、多くの尋問官にも好感を持たれる。最終的に彼は…切ないけど、かすかな希望が垣間見える終幕。

 合衆国内の他組織、例えば民間情報機関との軋轢や、捕虜収容所の生々しい描写も面白い。

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