カール・セーガン 科学と悪霊を語る 青木薫訳 新潮社
最近、早川文庫から出た「悪霊にさいなまれる世界」の元本らしい。あのセーガンのこと、大方の予想通り、内容は科学者による似非科学や迷信の批判。全25章からなっていて、各章は雑誌の連載記事や講義録から教育問題や迷信批判関係の原稿を掻き集めたらしく、内容の重複も多くて統一感に欠ける。具体的なエピソードより思索や意見表明が目立ち、「あのセーガンが書いた一般読者向け科学解説本」としちゃ、イマイチな感じ。
最も私は「科学解説書を書かせたらアジモフよりクラークの方が上」とゆー少数派なんで、これは趣味の違いかも。
「第12章 トンデモ話を見破る技術」が気になったんで、一部をテキトーに圧縮して引用。
- 裏づけを取れ。「事実」が出されたら、独立な裏づけをできるだけたくさん取るようにしよう。
- 議論のまな板にのせろ。証拠が出されたら、さまざまな観点を持つ人たちに、しっかりした根拠のある議論をしてもらおう。
- 権威主義に陥るな。(略)「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ」
- 仮説は複数立てろ。(略)仮説をかたっぱしから反証していく方法を考えよう。(略)
- (略)自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。(略)
- 定量化しろ。(略)
- 弱点をたたきだせ。(略)
- オッカムのかみそり。(略)
- 反証可能性。(略)
同じ章から、「トンデモ話検出キット」。
- <対人論証>議論の内容ではなく、論争相手を攻撃すること。
- <権威主義>
- <「そうじゃないと具合が悪い」式の論証>髪は確かに存在して、罰と報いをわれわれに割り振っておられる。さもなければ、社会は今よりももっと無法で危険なものになり、無政府状態にさえなっていたかもしれない。
- <無知に訴える>偽称だと証明されないものは真実だ、あるいは、真実と証明されないものは虚偽だという主張。(略)
- <特別訴答>あなたは~を理解していない。
- <論点回避>答えがはじめから決まっている。
- <観測結果の選り好み>都合のいい場合のみを数える
- <少数の統計>
- <統計の誤解>ドワイト・アイゼンハワー大統領は、「アメリカ人の半数は平均以下の知能しかもたない」と知らされて、驚きと警戒の念を表明した。
- <無定見>旧ソ連で平均寿命が短くなったのは共産主義の失敗のせいだが、米国の乳児死亡率が高いのは資本主義の失敗のせいではない。
- <前提とつながらない不合理な結論を出す>神は偉大なるがゆえに、わが国は栄える。
- <因果関係のこじつけ>女が選挙権を得るまでは、核兵器は存在しなかった。
- <無意味な問い>無敵の力が不動の物体にぶつかったらどうなるか?
- <真ん中の排除>虚偽の二分法ともいう。中間の可能性もあるのに、両極端しか考えないこと。「夫の味方をすればいいわ。悪いのはいつも私なんだから。」
- <短期と長期の混同>「莫大な財政赤字を抱えているんだ。宇宙探査や基礎科学を追及する余裕なんかない。」
- <危険な坂道>妊娠初期の中絶を許せば、月満ちて生まれた子供も殺されるだろう。
- <相関と因果関係の混同>アンデス山系の地震は、天王星の最接近と相関がある。したがって、天王星が最接近するとアンデス山系に地震が起こる。
- <わら人形>架空の論敵に吼える:生物は単なる偶然でひょっこりできあがった、と科学者は考えている。
- <証拠隠し>
- <故意に意味をぼかす>「民衆にとって唾棄すべきものとなった古い名前の制度に、新しい名前をつけること…これは政治家としての重要なテクニックである」
続いて第20章「火に包まれた家」。前章で教育制度を語ったセーガンに対し、読者から寄せられた反応の一部を引用。
息子はクラスメートにくらべて二学年ぐらい読む力が遅れているのですが、そのまま進級させられてしまいました。学校側の説明を聞きましたが、社会的な配慮ばかりで、教育的な配慮はなされていませんでした。留年させてもらえなければ、息子は決して追いつけないでしょう。
「自分の子供を落第させてくれ、そうしなければ学力がつかない」と主張している。なんとまあ実利本位で愛情に満ちた、そして教育の本質を深く理解した親だろう。こういう人が多くいるなら、合衆国の未来は決して暗くなるまい。
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