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2009年8月の2件の記事

2009年8月 8日 (土)

カール・セーガン 科学と悪霊を語る 青木薫訳 新潮社

 最近、早川文庫から出た「悪霊にさいなまれる世界」の元本らしい。あのセーガンのこと、大方の予想通り、内容は科学者による似非科学や迷信の批判。全25章からなっていて、各章は雑誌の連載記事や講義録から教育問題や迷信批判関係の原稿を掻き集めたらしく、内容の重複も多くて統一感に欠ける。具体的なエピソードより思索や意見表明が目立ち、「あのセーガンが書いた一般読者向け科学解説本」としちゃ、イマイチな感じ。
最も私は「科学解説書を書かせたらアジモフよりクラークの方が上」とゆー少数派なんで、これは趣味の違いかも。

 「第12章 トンデモ話を見破る技術」が気になったんで、一部をテキトーに圧縮して引用。

  • 裏づけを取れ。「事実」が出されたら、独立な裏づけをできるだけたくさん取るようにしよう。
  • 議論のまな板にのせろ。証拠が出されたら、さまざまな観点を持つ人たちに、しっかりした根拠のある議論をしてもらおう。
  • 権威主義に陥るな。(略)「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ」
  • 仮説は複数立てろ。(略)仮説をかたっぱしから反証していく方法を考えよう。(略)
  • (略)自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。(略)
  • 定量化しろ。(略)
  • 弱点をたたきだせ。(略)
  • オッカムのかみそり。(略)
  • 反証可能性。(略)

同じ章から、「トンデモ話検出キット」。

  • <対人論証>議論の内容ではなく、論争相手を攻撃すること。
  • <権威主義>
  • <「そうじゃないと具合が悪い」式の論証>髪は確かに存在して、罰と報いをわれわれに割り振っておられる。さもなければ、社会は今よりももっと無法で危険なものになり、無政府状態にさえなっていたかもしれない。
  • <無知に訴える>偽称だと証明されないものは真実だ、あるいは、真実と証明されないものは虚偽だという主張。(略)
  • <特別訴答>あなたは~を理解していない。
  • <論点回避>答えがはじめから決まっている。
  • <観測結果の選り好み>都合のいい場合のみを数える
  • <少数の統計>
  • <統計の誤解>ドワイト・アイゼンハワー大統領は、「アメリカ人の半数は平均以下の知能しかもたない」と知らされて、驚きと警戒の念を表明した。
  • <無定見>旧ソ連で平均寿命が短くなったのは共産主義の失敗のせいだが、米国の乳児死亡率が高いのは資本主義の失敗のせいではない。
  • <前提とつながらない不合理な結論を出す>神は偉大なるがゆえに、わが国は栄える。
  • <因果関係のこじつけ>女が選挙権を得るまでは、核兵器は存在しなかった。
  • <無意味な問い>無敵の力が不動の物体にぶつかったらどうなるか?
  • <真ん中の排除>虚偽の二分法ともいう。中間の可能性もあるのに、両極端しか考えないこと。「夫の味方をすればいいわ。悪いのはいつも私なんだから。」
  • <短期と長期の混同>「莫大な財政赤字を抱えているんだ。宇宙探査や基礎科学を追及する余裕なんかない。」
  • <危険な坂道>妊娠初期の中絶を許せば、月満ちて生まれた子供も殺されるだろう。
  • <相関と因果関係の混同>アンデス山系の地震は、天王星の最接近と相関がある。したがって、天王星が最接近するとアンデス山系に地震が起こる。
  • <わら人形>架空の論敵に吼える:生物は単なる偶然でひょっこりできあがった、と科学者は考えている。
  • <証拠隠し>
  • <故意に意味をぼかす>「民衆にとって唾棄すべきものとなった古い名前の制度に、新しい名前をつけること…これは政治家としての重要なテクニックである」

続いて第20章「火に包まれた家」。前章で教育制度を語ったセーガンに対し、読者から寄せられた反応の一部を引用。

息子はクラスメートにくらべて二学年ぐらい読む力が遅れているのですが、そのまま進級させられてしまいました。学校側の説明を聞きましたが、社会的な配慮ばかりで、教育的な配慮はなされていませんでした。留年させてもらえなければ、息子は決して追いつけないでしょう。

「自分の子供を落第させてくれ、そうしなければ学力がつかない」と主張している。なんとまあ実利本位で愛情に満ちた、そして教育の本質を深く理解した親だろう。こういう人が多くいるなら、合衆国の未来は決して暗くなるまい。

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2009年8月 7日 (金)

アラン・B・クルーガー「テロの経済学 人はなぜテロリストになるのか」東洋経済新報社 薮下史朗訳

テロリストのプロフィールから、経済学・統計学の手法で、相関関係の高い要素を洗い出そうと試みている。

良くも悪くも学者の書いた本で、記述は冷静かつ慎重、悪く言えば煮えきらず退屈かも。とにかく統計の表が多く、誠実である反面、扇情的な文章や憶測での断定がなく、サービス精神には乏しい。まあ私は細かい数字はすっとばして文章を中心に追っかけたんで、あまし退屈はしなかったw

結論だけが欲しい人は表紙をひっくり返してカバー裏を見ればいいというのは親切設計かもw

  1. テロリストは充分教育を受けており、裕福な家庭の出である傾向がある。
  2. 社会で最高の教育を受けている人や高所得の職業に就いている人のほうが、社会的にも恵まれない人たちよりも過激な意見を持ち、かつテロリズムを支持する傾向がある。
  3. 国際テロリストは貧しい国よりも中所得国の出身である傾向が強い。
  4. 市民的自由と政治的権利が抑圧されているとテロに走りやすい。

1.は意外だった。ただしこれにはオチがあって、教育と貧困が蔓延した国や地域ではテロではなく内戦が発生するそうです。余計タチが悪いw
なお、傾向の例外として北アイルランドを挙げている。

読んでて気になったのは、サンプルに偏りがあるんじゃないかって点。米国で入手可能な資料を基にしているため、イラクやイスラエル/パレスチナのサンプルが多いんじゃないか、という疑問が残る。その結果、サウジアラビアやエジプト出身のテロリストがサンプルの多くを占める結果になってるのではないかしらん、と。最も、例えば中華人民共和国内やサウジアラビア国内のテロの統計資料は信頼性に問題があるわけで、ある程度は仕方がないのかも。

もう一つ、所得は豊かだが政治的権利は抑圧されている国家としてはシンガポールが思い浮かぶんだが、あそこはあまりテロと縁がない。とまれサウジアラビアに比べれば信仰の自由は保障されているわけで、政治的権利・市民的自由をどんな尺度で数値化したか/その値はいくつか、それが明示されてないんで、それが関係してるのかも。人口がサウジの1/4なんで、テロリストの実数が少ないのも当然の話。加えて本書ではイスラム教との関係を示唆する部分もあり、それが要因になっている可能性もある。

統計を重視しつつ慎重に議論しているため、自然と懐疑的な読み方をするようになるため、そんな疑問を持つように誘導している気配もある。

著者の本業は経済学者で、本業の手法で分析をしている。経済学者が日頃どんな議論をしてるのか、それを興味深いサンプルでやってくれるのは面白かった。

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