ジロミ・スミス「空母ミッドウェイ アメリカ海軍下士官の航海記」光人社
書名どおり、合衆国海軍の下士官による、空母ミッドウェイの搭乗勤務の記録。湾岸戦争に従軍した際の記述もある。
著者は東京生まれで中学2年まで日本にいたそうで、母語は日本語らしい。文章も翻訳調でなく自然で、あえて言うならユーモアが兵隊上がりの人に独特の調子がある。好きですよ、この手のユーモア。ヘリコプター部隊勤務で、担当は書いてないけど整備らしい。
艦上の勤務は平時でも原則1日12時間勤務で休日なし。まあ休んでも艦から降りられるわけではないので休暇を取っても無意味とある。そりゃそうだ。部屋は6人部屋で3段ベッド、プライベートな空間はベッドと荷物を入れるロッカーだけ。24時間、常に誰かが起きていて、逆に言えば常に誰かが寝ているわけで、部屋の中では音を出さないように気を使うそうだ。でも、いくら気を使っても航空機の発着があれば爆音で無意味になるみたいだが。
艦長(大佐)とエア・ボス(フライト・オペレーションの最高責任者)の紹介が笑った。「寝ない」ってどういうことだよ、おい。固定翼機の着陸の様子、フライト・オペレーション・スタッフの組織と役割の解説、食堂の区分と営業時間、入港時の乗組員の上陸の手順と「ずる」の仕方、基地での休暇の過ごし方など、日々の暮らしが生き生きと描かれている。
軍である以上、物騒な話題もある。日本海の任務は主にソビエト軍との駆け引きで、ソビエトのスパイ船がミッドウェイの後ろをついて回って「ゴミ」を拾うそうだ。バックファイア爆撃機の情報を得るために散々挑発したが、結局はベア(Tu-95)の相手をする羽目になるらしい。そしてクライマックスは湾岸戦争。保守・整備はもちろんパイロットも疲労の極で、他間のバイキングが誤ってミッドウェイに着艦しかける描写もある。そして、「ミッドウェイ艦載機だけが一機も失われることがなかった」と誇らしげに書かれている。仕事に誇りを持つ人ってカッコいいよね。
物騒な部分は控えめで、生活臭い部分が多い。空母での生活に多少でも興味があれば、楽しく読めるだろう。
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