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2007年5月 3日 (木)

ジョン・トーランド「勝利なき戦い 朝鮮戦争 下」光人社

 上巻は1950年6月24日の開戦・仁川上陸に伴う逆襲・中共義勇軍参戦による反撃を経て1950年11月28日までを収録している。下巻は連合軍の撤退から38度線近辺での一進一退・マッカーサーの罷免とリッジウェイの着任・トルーマンからアイゼンハワーへの大統領交代を経て長引く停戦交渉から1953年7月27日の休戦合意に加え、双方の捕虜収容所および捕虜交換の様子も描かれる。

 下巻に記述があるが、人民解放軍の戦術のパターンはだいたい決まっている。まず比較的手薄な韓国軍に対し攻撃を仕掛けて戦線に穴をあけ、あいた穴に大兵力をつぎ込んで国連軍の後ろに回りこみ包囲殲滅する。敵の弱い部分に戦力を集中する、凡庸で教科書どおりとも言えるが適切な戦術だと思う。
 制空権がないので昼間は動かず、夜間に徒歩や牛馬で山間部などを伝って補給・浸透し、戦線を混乱させる。制空権がなく重砲が貧弱で輸送部隊も機械化されておらず、兵の数だけは存分にあり道路は未整備で起伏に富んている半島の地形を考えると、これも理にかなっている。

 北の捕虜収容所の待遇はかなり悲惨で、拷問を含む自白の強要・非協力的な捕虜への虐待・毎夜の共産党の政治集会など陰険な圧力を四六時中かけられる模様の証言が多い。そのくせ記者会見や捕虜開放などマスコミの前に捕虜を登場させる際は、数日前から豊かな食事や暖かい毛布などを与えるなど、あからさまな報道工作を行っている。

 下巻で鉄の三角地帯攻略にてこずる連合軍の将兵が核を待望する場面もあって、ちょっと複雑な気分になる。単なる「でっかい爆弾」程度にしか考えていないのがよくわかる。黒い雨とか放射能汚染の事は何も知らないんだろうなぁ。

 終盤近く、捕虜の移送先はジュネーブ条約に基づき個人の自由意志に委ねるべきと主張する国連軍に対し、共産軍は全捕虜の帰還を求め、捕虜交換交渉が停滞する。この状況にいらだった韓国の李承晩大統領が、反共主義の捕虜を勝手に解放する場面がある。褒められたことじゃないのはわかってるけど、内心喝采してしまった。

 全体を通して制空権ばかりでなく制海権も連合軍が握っていたようで、海岸線近辺は海軍の艦砲射撃の援護を受けられたみたいだ。その割りに開城が手に入らなかったのは政治的な何かがあったのかな。

 ずっしりと読み応えがある事は確実。じっくり時間をかけ、出来れば地図を手元において読もう。

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