ビング・ウエスト「ファルージャ 栄光なき死闘」早川書房
イラク ファルージャでの合衆国海兵隊員の戦いの生々しい記録。
2003年4月のバグダッド陥落後もイラクは不穏な状態が続いている。特にファルージャはスンニ派の支配が強く、武装勢力と合衆国との衝突も激しい。多くの日本人にとってファルージャは三人の日本人が人質になった事件で有名だろう。物騒な雰囲気だけはニュースで伝わってくるが、その実態はどんなものなのかまではあまり報道されない。本書はその実態を、前線で戦う将兵の視点を中心に生々しく伝えている。
著者は元海兵隊員。そのためか海兵隊員の視点からの描写が多く、武装勢力側の視点は一切ない。かといってアメリカ万歳でもなく、矛盾の多いブッシュ政権の政策や多国籍軍のイラク統治組織・手法にも容赦なく批判を浴びせている。
正面戦闘なら海兵隊は苦戦しなかっただろう。しかし、ファルージャでは市民が普通に生活していて、武装勢力は市民に溶け込んで突然攻撃を仕掛けてくる。よくあるパターンはこんな感じ。
民間人がたむろしてる横を海兵隊員が通りかかると、横の路地からいきなり銃撃される。海兵隊員が反撃しようとすると、武装勢力は市民に紛れて逃亡する。反撃しようにも民間人が邪魔になって発砲できず、武装勢力はまんまと逃亡してしまう。
武装勢力の主な武器はAK47(自動小銃)とRPG(手持ちのロケット砲)、それにIED(即製爆発物)。特にIEDが怖い。金属片をまとめたものに携帯電話などを発火装置にする。犬の死体や樽・段ボール箱や車に仕掛けて1ブロックほど離れた所から爆破スイッチを押す。市民が生活している町なら隠す所はいくらでもあり、いつ爆発するかわからない。攻撃対象は米軍兵士だけでなく、米軍に協力的な政治家も対象となる。
現地の市民達も非協力的で、有力者と言われる者達を集めても態度が煮え切らない。そもそも、本当の実力者が誰なのかがわからない。仮に協力的に見える者でも、武装勢力から脅されるとあっさりと寝返る。ゲリラのリーダー、ジャナビの言葉がうまく彼らの態度を表している。「金を渡しなさい。あとは自分たちでできます。」
ワシントンの政治化も日和っぷりは似たようなもので、海兵隊が武装勢力を圧倒し始めると停戦命令を出して敵に戦力を増強する時間を与えてしまう。結局、総攻撃はは2004年11月まで持ち越される。激しい市街戦の末にファルージャの3万9千戸の建物のうち1万8千戸が半壊または全壊する。だったらちまちま市街戦なんかやらないでB52で爆撃した方が早かったんじゃねーの、と考えてしまう。この辺も政治的な妥協の産物なんだろうな。
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