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2007年4月 5日 (木)

野尻泡介「沈黙のフライバイ」ハヤカワ文庫SF

 大半の収録作が、近未来の宇宙開発や宇宙観測をテーマにしている。どの作品も技術的なリアリティが凄い。登場する技術の多くが、現在既に実験室レベルで成功している、もしくは成功しつつある技術を題材にしている。だから、SFで重要なガジェットに関しては素晴らしい迫力がある。やっぱSFはガジェットだよね。特に宇宙開発関係のガジェットが素晴らしい。JAXA 関係が多くて、ちょっと貧乏臭いのもいい味出してる。

 表題作「沈黙のフライバイ」はファースト・コンタクト物。わずかな情報量の電波信号から、相手の住む星の状況や意図を推理するくだりがゾクゾクする。波長の変化や断続・遅延などから発信源の軌道や遮蔽物を考察していく。信号はデジタルなんだけど、分析はアナログな部分でやってるんだ。

 「轍の先にあるもの」は NASA のシューメーカー探査機が撮影した小惑星エロスの地表の写真をテーマにした "私小説"。たった6メートル程度の幅の地形の写真から、どれほど多くの情報を読み取れるのか、その推測の様がいい。まさかスパイダーが登場するとは思わなかった。

 「片道切符」は火星への有人飛行を題材に…って、このタイトルじゃすぐにネタが割れちゃうじゃないか。

 「ゆりかごから墓場まで」は完全な閉鎖環境を実現する "スーツ" が題材。といっても結局最後は宇宙に出て行って火星が舞台になる。ある意味濃縮したレッドマーズ。この技術、砂漠の緑化にも使えるんじゃないかな。幸い日照だけは充分にあるし。

 最後の「大風呂敷と蜘蛛の糸」は凧で高度80Kmまで人を持ち上げる話。どんな凧かは読んでのお楽しみ。この技術が実用化できたら、小型軽量の低軌道衛星の打ち上げ費用は劇的に下がるだろうなぁ。広域無線ネットワークの中継ステーションに使えないかな。飛行船より安上がりな気がする。

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