坂本康宏「逆境戦隊×[バツ]1,2」ハヤカワ文庫SF
ただ、愛のために。
そう、これは、働いてオトナとして生きている我々のための、熱く切なく情けない戦隊ヒーローの物語なのだ。
騎馬武秀25歳。地方の食品会社の落ちこぼれ、研究員とは名ばかりの雑用係。チビでモテずお局様と取り巻きに嫌がらせを受け他部署の部長からイビられ、最近は頭髪も危うくなりバカ高いカツラをあつらえたのはいいが、バレるのを恐れ態度は更に卑屈になった。こんなダメ男に付き合ってくれる唯一の親友の欠勤を見舞いに行けば、友はおぞましい怪物に変貌し、自分は戦隊物のヒーローに変身してしまう。
と、まあ、劣等感の塊の様な主人公が突然変身ヒーローになり、葛藤に悩みながらも怪人たちと戦うってのが大まかなお話。戦隊物らしく主人公はレッド、他にピンク・ブルー・イエロー・グリーン、そして謎のブラックが登場する。必殺技にちゃんと名前があるのも嬉しいところ。
なにせ主人公の立場が身につまされ切ない。何を考えているのかわからない奴でも社長の命とあらば従わなければならない会社の掟、お局様を筆頭にした女性社員の陰険な企み、無力な三下をイビって喜ぶエリート、氷の様に冷たい人事課のセクハラ担当の女性社員、そしてピンチになると頼りにならない同僚と上司。これだけ悲惨な環境で変身ヒーローになった奴が何をするのかと言うと、日頃の恨みを晴らすために大暴れ…ではなく、やっぱし怪人たちと戦うんだ。時には気に食わないガキを小突いたりもするけど。
巨大ロボットの出番がなく、正義と悪の区別が不明確で、人数が綺麗に揃わずチームワークが全くないあたりは、戦隊物より平成ライダーに近いかも。それぞれが戦う理由も、正義のためというより個人的な理由だったりするし。その理由ってのが、まあ、色々とオトナの事情だったりするあたりが、この作品の魅力のひとつ。怪人の事情もヒガミや足をすくわれた恨みとか、妙にセコいのが楽しい。
他の隊員、ピンク・ブルー・イエロー・ブラックもそれぞれ痛みを抱えつつ、その痛みを力に変えて戦っていて、これがラスト・バトルで効いてくる。そのラスト・バトルの展開はもちろんお約束通りのアレなんだが、これがちゃんと(?)裏づけあり曰くありでひたすら燃える燃える。
書名に1,2とあるから、シリーズ物でまだ続くのかと思ったが、2巻で綺麗に完結している。エンディングがまたいいんだ。あまりにタイミングがアレではあるが、まあそれはそれで戦隊物の最終回の慌ただしさがよく出ているように思う。
子供に戻り、頭を空っぽにして楽しもう。バーニング・インパクツッ!
| 固定リンク
「書評:ライトノベル」カテゴリの記事
- 小野不由美「白銀の墟 玄の月 1~4」新潮文庫(2019.11.12)
- 森岡浩之「星界の戦旗Ⅵ 帝国の雷鳴」ハヤカワ文庫JA(2018.10.14)
- オキシタケヒコ「おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱」講談社タイガ(2018.08.05)
- エドワード・ケアリー「アイアマンガー三部作3 肺都」東京創元社 古屋美登里訳(2018.06.25)
- エドワード・ケアリー「アイアマンガー三部作2 穢れの町」東京創元社 古屋美登里訳(2018.06.24)
コメント