フィリップ・リーヴ「移動都市」創元SF文庫
天空の城ラピュタや未来少年コナンを思わせる、少年少女を主人公とした波乱万丈の冒険物語。
60分戦争で文明は荒廃した。都市はエンジンをつけて地表を動き回り、都市同士が狩り狩られ食い食われる弱肉強食の世界となった。大きな都市は小さい都市を狩り立てて食い、小さな都市は群れては逃げる。事故で両親を亡くした孤児トムは、歴史ある移動都市ロンドンの歴史ギルドの見習いだ。ギルドには嫌な奴もいれば美人の史学士もいる。ある日、憧れのギルド長ヴァレンタイン氏が謎の少女へスターに襲われる所を助けたのだが、地表に落っこちてしまった。トムはロンドンに戻るため、へスターはヴァレンタインに復讐するため、共にロンドンを追いかけるが…
都市が動くとなればクリストファー・プリーストの逆転世界が思い浮かぶけど、そーゆー難しい話じゃない。ひたすら妙なガジェットと不思議な風景、そして冒険に満ちた娯楽活劇に仕上がってる。これでヒロインが可憐ならモロにかつての宮崎駿の世界なんだが、これがとんでもないジャジャ馬。シータというより、ひねくれたナディアかな。
とにかくビジュアルが魅力的。セントポール大寺院を中心に構えたロンドンが、エンジンとキャタピラつけて動き回るんですぜ。移動都市も色々あって、数世帯のオンボロ小都市、仁義無用の海賊都市、空中都市とかもある。もうひとつ心を惹かれるガジェットが自由に空を舞う飛行船たち。終盤近くじゃ飛行船同士のドッグ・ファイトが展開する。
登場人物も鮮やかな個性を放っている。主人公のトムはちょっと情けないけど、その分、復讐に燃えるヒロインのへスターが強烈。脇役も曲者ぞろい。気風のいい訳ありの飛行船乗りの姉御アナ・ファン、変なコンプレックス持ちの海賊の親分ピーヴィ。工学ギルドのマッドサイエンティストはおぞましい実験を進め、史学ギルドの史学士たちは救いようのない歴史遺物オタク。ロンドン市長クロームは狂った陰謀を企み、ヴァレンタインの過去は謎に満ちている。そしてエンディングではお約束の世界の危機が訪れ…
シリーズの一作目ではあるけど、ちゃんと完結した物語になってるんで、安心して読めるのもいい所。王道の少年冒険物語。
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