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2007年3月23日 (金)

クリフォード・D・シマック「都市」早川書房世界SF全集20

 1952年の作だから古臭いかな、と思ったがとんでもない。シマックさんナメてましたごめんなさい。文句なしに傑作です。特に犬が好きな人にはたまらない作品だろう。

 遠い未来。犬が支配する世界に伝わる「人間」の伝説。その真偽は定かでなく、いまも議論が続いている。「かつて人間と言う種族が世界を支配していた。犬と人間は良き友だった。人間は不思議な風習をもち、その風習の多くは概念すら残っていない。」
 そして語られる8つの短編。犬と人間の歴史。人間の滅びの記録。

 なんと言っても一番の魅力は「犬」。特に第六話「道楽」で、主人公ウエブスターと犬のエベンザーが寄り添うシーンは、犬好きでなくとも涙を誘われる。人と犬の双方が自分が居るべき所を見つけた、そんな幸福に満ちた一瞬。同様に第四話「逃亡者」もいい。ペットを飼う者の永遠の夢が描かれている。この短編にはもう一つ大きなテーマを扱っているんでひどくあっさりと流されているけど、それが逆に最近の水増し長編にない古典ゆえの「濃さ」なのかも。

 次に感じるのが、古きよきアメリカ、特に田園生活に対するシマックの深い愛情。これは第四章を除く全編に明確に出ている。暖かい暖炉の前で安楽椅子を揺らしながら木立を渡る風や小川のせせらぎを聞く夜。傍らには愛犬が寄り添って…あー、たまんないね。冷静になって考えると「安くて自由で高速な輸送機関があったら誰も都会なんかに住まないよ、今は仕事のために仕方なく都会に住んでるだけさ」って発想には少し異論もあるけど、読んでる最中は夢中でそこまで気が回らなかった。

 で。単に犬と田園だけなら牧歌的で能天気な良作で終わっていただろうけど、名作たる所以は第四話「逃亡者」からその一端を見せる。私達人間が無意識に持っている特権意識、ありがちな宗教的原理主義の要因の一つでもある客観性の欠けた思考法の足元を掬う、「人間とは何か」という根源的な問いを投げかける。ファウラーの最後の一言は心に刺さった。

 そして人間は静かに滅びていく。なすべき役割を果たし、継ぐべきものへ道を譲り、誇りに満ちながら。

 ロボットの描写などは確かに古臭い感じはある。けど、本質的なテーマと考察の深さはオールタイム・ベストに名に相応しい。ある意味、身も蓋もないエンディングではあるけど、だからこそ名作の称号を捧げたい。冷徹な知性と詩情が高度なレベルで絶妙なバランスを保つ、SFの王道を行く傑作。

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