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2007年2月11日 (日)

チャールズ・ストロス「アイアン・サンライズ」ハヤカワ文庫SF

 序盤、25頁~28頁の恒星が超新星化する描写がたまらない。ホーガンの造物主の掟の出だしに匹敵する酩酊感。

ポケット宇宙のなかで時間的次元がプランク長レベルでくるりと閉じて、別の次元--物理学の標準モデルが想定している、折りたたまれた次元のひとつ--がとって」かわった。外で数秒がたつあいだ、ボケット宇宙のなかでは膨大で長さの時間が流れた。

 相変わらずガジェット満載で"アップロード"とかの専門用語(?)が説明無しにポンポン出てくるけど、あまり気にせず読みとばして構わない。

 ちょっと舞台背景を説明する。といっても前作シンギュラリティ・スカイと同じ世界。

 21世紀末、突然人類の9割が消え、以下の三戒を刻んだ一辺10メートルのダイヤモンドが残った。

  1. われはエシャトンなり。汝の神にあらず。
  2. われは汝に由来し、汝の未来に存する。
  3. 汝、決してわが過去光円錐にて因果律を犯すなかれ。

 百年ほどして地球の人類が復興した頃、SETI(地球外知性体探査計画)やFTL(Faster Than Light, 超光速飛行宇宙船)探査が多数の人類らしき文明を発見する。どうやら消えた人類はテラフォーミング済の多くの惑星に転送されたらしい。各惑星には転送と同時に贈り物が届いた。時間とエネルギーと原材料さえあれば、ほとんど何でも作れる豊穣の角コルヌコピア。いくつかの愚かな例外を除き多くの惑星人類は贈り物を賢明に使い、文明を再興した。
 科学者はある仮説を提唱する。コンピュータ・ネットワークが知性を獲得する。それは人類なら百万年かかる思考を数分~数時間で行い、自らを進化させ超知性、すなわちエシャトンとなり、かの事件を起こしたのだろう。
 三戒の三つ目の意味ははやがて明らかになる。超光速航行を使い過去を改変しようとする試みは、なぜか様々な事故を起こし、常に失敗するのだ。

 で、物語と登場人物の紹介。

 ある日、モスコウ星系の太陽が前触れなしに超新星と化し、同星系を焼き尽くした。破滅の風は光速で近隣の太陽系を襲う。数光年離れたオールド・ニューファウンドランド・フォーは避難が始まっていた。16歳の少女ウェンズディは避難船に乗り込む当日、謎の書類と死体を見つけ魔犬に追われる。
 前作シンギュラリティ・スカイで活躍したマーティンと"国連"の秘密情報員レイチェルのカップルも新婚気分で再登場。マーティン君は理想の夫を見事に演じてます。
 巨体の戦争記者フランクは航宙船のバーで奇妙な集団に絡まれる。若く清潔でごつい体格で軍の訓練を受けているらしい。

 前作に比べて小説としてはうまくまとまってると思う。物語はウェンズディの逃避行を軸に進み、それにカップルとフランクが絡む形。主軸が明確な分、わかりやすくなってる。
 とはいえ、光年単位の宇宙空間を舞台にしてる上にカットバックが入るんで、ちょっと時制が混乱しがちかも。例えば冒頭。3.6年前のモスコウの超新星化が、3.6光年はなれたニューファウンドランドじゃ、今起きつつある厄災になる。その辺が難でもあり、同時にこの物語の醍醐味でもある。相対論的宇宙を体感できる作品。

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