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2007年2月21日 (水)

川端裕人「クジラを捕って、考えた」PARCO出版

 1992年の第六次捕獲調査に同乗し、その実体を伝えるルポルタージュ。著者は最初から自分のスタンスを明確にしている。ホエールウォッチングの経験はあるが、熱心な反捕鯨論者ではない、と。概ね中立的で誠実なスタンスだと思う。記述は出航から始まり、ほぼ時系列に沿って進むので、展開が素直でわかりやすい。

 調査捕鯨船団には大きく分けて2種類の人が乗り込んでいる。片方は調査を目的とする科学者や報道記者で、もう片方はかつて捕鯨船に乗っていた漁師だ。そして、この本の最大の特徴は、後者の描写にある。

 川端氏は物怖じせず彼らの中に入って生活を共にし、その生き方や船団での生活を活き活きと描き出す。「シャチの弁当持ち」などという言葉はおいそれと引き出せるものじゃないだろう。「白鯨」のような殺伐とした世界を想像したが、意外と家庭的で暴力沙汰はない(あっても書かないだろうけど)。当初は母船に乗っていた著者も、調査が始まるとキャッチャーボートに乗り込んで行く。

 食事はもちろん鯨の肉がでる。船室は2~4人の相部屋。複数人が常時起きて操舵や監視をしている。クジラを探すのは主にキャッチャーボートの仕事。零下7度の寒風が吹きすさぶ中、6人程度で四方を見渡す。群れを見つけても手当り次第に捕るわけではなく、時間帯・種類・頭数など様々な制限を課せられている。

 捕獲できたら母船に運び入れて解体する。主なサンプルのミンククジラは体長8~10mで体重8~13トン。これを解体する"解体さん"の仕事はスプラッターを超え、もはや曲芸の域に達している。

 捕鯨への反発が強まるにつれ新人が入ってこなくなり、乗組員は高齢化している。今回は珍しく3人の新人が乗り組んできた。先輩たちが彼らを見る目は期待に満ちていて温かい。

 かつての港町の酒場でのヒエラルキーが面白い。普通の漁師より捕鯨船乗組員が格上で、中でも最も地位が高いのが "てっぽうさん"(砲手)だそうだ。うまく言葉にならないけど、なんとなくわかる気がする。先の新人にも、"てっぽうさん" に憧れる若者が一人登場する。

 もちろん南氷洋での鯨の生態や捕鯨の歴史、調査の方法やその背景となっている理論と実態、IWCなどの捕鯨をめぐる運動などの記述も入るが、上手に適切なイベントと関連させていて、お固い雰囲気を感じさせず自然に読めるよう工夫されている。シロナガスクジラでいっぱいのロス海かぁ。壮観だろうなぁ。

 所々に入るクジラの種類を紹介するイラスト頁が図鑑を見ているようで、なかなか楽しい。

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