2018年6月19日 (火)

司馬遼太郎「功名が辻 1~4」文春文庫

(千代、見ろ。そなたの馬だ)
  ――1巻 p313

山内一豊が、多少とも英雄の名に値いするとすれば、すべて千代の作品であった。
  ――2巻 p49

「われわれは、いつまでたっても内々は火の車だな」
「火の消えたようなことよりましでございましょう」
  ――2巻 p173

「わしはこの一戦で山内家の家運をひらく。そのほうどもも、この戦さで家運をひらけ。わしがもし討死すれば、弟の子忠義(国松)を立てよ。そのほうどもが討死すればかならず子を立ててやる」
  ――3巻 p334

「仕事はわかいころ、物を味わうのは老いてから」
  ――4巻 p143

【どんな本?】

 主人公は、後に土佐藩主となる戦国大名の山内一豊と、その妻で優れた知恵を称えられる千代。

 時は戦国の永禄十(11567)年、戦場での働き次第で出世か死が決まる時代。若き山内伊右衛門は「ぼろぼろ伊右衛門」の異名で呼ばれる。主君は織田信長、美濃を落とし頭角を現しつつある風雲児だ。伊右衛門はその近衛仕官ながらも、石高はたかだか五十石。だが、このたびめでたく縁談が決まった。

 織田信長→豊臣秀吉→徳川家康と、権力の座が目まぐるしく入れ替わってゆく中を、若い夫婦が二人三脚で道を切り開き、身を立ててゆく姿を描く、娯楽歴史物語。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 1963年~1965年に新聞連載。1965年に文藝春秋新社より上下巻で単行本発行。1976年に文春文庫から文庫本が全4巻で刊行。私が読んだのは2005年2月10日第1刷の文春文庫の新装版。文庫本で縦一段組みの四巻、それぞれ本文約307頁+341頁+330頁+290頁=1,268頁に加え、あとがき(というよりエピローグ)15頁+永井路子の解説16頁。9ポイント39字×18行×(307頁+341頁+330頁+290頁)=約890,136字、400字詰め原稿用紙で約2,226枚。文庫本4巻は妥当なところ。

 文章はやたらと読みやすい。ややお堅く古風な香りもあり頭よさげな雰囲気なのに、なんでこんなに読みやすいんだろう。私もこんな文章が書きたい。内容もわかりやすい。舞台は戦国~江戸初期と、今とは技術も社会も違う世界だが、うるさくない程度に説明が入っている。

 敢えて言えば、当時の距離の単位を知っているといい。一間は約1.8m、一丁は約110m、一里は約4km。。それと、浅黄色など色の和名と、小袖などのファッション、そして軍ヲタなら地形が判る日本地図があると更によし。

【感想は?】

 まず司馬遼太郎作品の特徴は、とにかく読みやすいこと。

 なにせ昔の話、字面を見ると漢字は多いし、ルビもアチコチに入っている。それでも、版面を見ただけで、「なんかとっつきやすそう」と感じてしまう。

 そこで改めてよく見ると、改行が多い。文が短いのだ。単に短いだけなら、私でも心がければ真似できそうな気がする。が、少し書いてみれば格の違いを思い知る。独特のリズムがあって、これに乗って読んでいくと、スルスルと物語の中に取り込まれてしまう。

 加えて、この作品、特に序盤は、主な登場人物たちが若いせいもあり、勢いがある上に微笑ましく、笑える場面が多い。

 山内伊右衛門の初登場時は、「ぼろぼろ伊右衛門」なんて呼ばれ少々情けない。この微妙な情けなさは終盤までずっとつきまとう。それが決定的になるのが、婚礼の夜の場面。伊右衛門、綺麗な嫁さんをもらってウキウキしつつも、多少の不安を抱えて迎えた夜の次第は…

 いやあ、酷いw なまじ有名になったばかりに、こんな酷い話まで語られるとはw 化けて出てくるかもしれないw

 他にも夫婦のお色気シーンは幾つかあるんだが、いずれも明るくユーモラスなのがなんとも。私はポルノは明るいのが好きなんだけど、ここまでギャグ・タッチだと、お色気もヘッタクレもないw お互いに歳をとって白髪が云々とかやりあってる所は、いかにも長く連れ添ったおしどり夫婦の風情がたっぷり。

 やはり序盤は他の登場人物も若く、目線は遥か高みを望んでいる。若き主人の伊右衛門を盛り立てようと働く二人の郎党、祖父江新右衛門と五藤吉兵衛も、オッサンながら欲と愛情のまじりあう眼差しが、夫婦とはまた違う野郎どもの気兼ねのない世界が楽しい。

 と同時に、こういった人物を動かす舞台設定の芸の細かさも、司馬遼太郎作品の欠かせない魅力。

 SF者には意外と司馬遼太郎ファンが多い。というのも、「今、こことは違う世界」を見せてくれるからだ。作品名にあるように、この世界では功名こそが大事。この功名を巡り、登場人物たちが命を懸けた駆け引きを繰り広げてゆく。

 序盤こそ天下が定まらず戦が多いため、彼らが名をあげる機会も転がっている。が、次第に世が定まるにつれ、伊右衛門を始め彼らのチャンスは減ってゆく。貴重な機会を活かすべく、同じ陣に属する者たちも、様々な思惑を抱え…

 ニワカとはいえ軍ヲタのはしくれとしては、彼らの目線で戦場を見ることで、封建体制の軍が持つ統率の難しさが伝わってくるのが嬉しい。もっとも、そうやって功を上げ扶持が増えても、暮らしが楽になるわけじゃないって事情も、ちょっと切なかったり。

 かと思えば、「信州武士は小部隊の巧妙さでは天下に名があった」なんて記述も、ニワカ軍ヲタには美味しいネタ。歴史に詳しい人には常識なんだろうなあ。これは信州の地形を思い浮かべればいかにもで、起伏の多い土地だから少人数でのゲリラ戦に長けるんだろうなあ、とか思ったり。

 やはり地形の影響が強そうと感じるのが、終盤で土佐に移ってからの一領具足を巡るゴタゴタ。いずれも独立心旺盛で鼻っ柱の強い連中なんだけど、海沿いと山中の者の性格の違いが、これまた「いかにも」で。

 そもそも土佐を描くのに鬼国とか酷い言われようだが、司馬遼太郎は他にも「竜馬がゆく」「戦雲の夢」「夏草の賦」と土佐ゆかりの作品を書いてるんで、実は土佐が気に入ってるのかも。

 こいう風に人物を巧みに造ってしまう著者だけに、他の有名な武将も彼の著作で一般の印象が決まってしまう。それが最も強く出ているのが、秀吉と家康。

 とにかく司馬遼太郎、秀吉が好きで家康が嫌いなのだ。明るく派手好き新しもの好きで商人肌の秀吉、地味で田舎者で保守的で陰険な家康と、見事に対照をなす形で書いている。今でも秀吉は人気があるけど、その幾分かは著者の影響だろう。

 やはり通説を取り入れているのが、長篠の合戦の描写。かの有名な三弾撃ちですね。この物語の戦の規模としては関ヶ原が最も大きいんだけど、大きいだけに幾つもの戦場があって、個々の戦闘の印象は残りにくい。けど、長篠はほぼ一発で決まる戦いだけあって、心に映像が残りやすい。

 にしても、ここまで武田勝頼を貶さんでもw

 読みやすくリズムのある文体、ユーモラスな人間模様、史実に基づく小ネタで地盤を固めつつ、会話や架空の人物で物語を肉付けしてゆくドラマ作り。サービス満点で、とにかく楽しい読書を味わいたい人のための娯楽大作だ。

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2018年6月15日 (金)

山本雄二「ブルマーの謎 <女子の身体>と戦後日本」青弓社

本書の目的は、なぜ、どのようにして学校に取り入れられたのかわからない、なのに、存続だけはされ、もはやどうして継続しているのか誰にもわからないといった現象を取り上げ、その全体像を詳細に検討することで、学校を舞台とした民主化と戦前的信条の交錯とねじれの諸相と、学校的力学を支えるエネルギーの源泉を明らかにすることである。
  ――はじめに

要するに、東京大会以前のオリンピックはほとんどの日本人にとっては見るものではなく、聞くものだった。
  ――第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地

時々に不満の声や批判が寄せられながらも、学校はなぜ三十年もの間ブルマーに固執し続けてきたのか、またどうしてそのようなことが可能だったのか…
  ――第8章 ブルマーの時代

【どんな本?】

 かつては多くの学校で制式に採用されながらも、1990年代に急速に消えていった、女子の体操着ブルマー。必ずしも女子児童・生徒には好評でなかったにも関わらず、いつから、なぜ、どのように普及し、そして廃れていったのか。

 この謎を追う著者は、戦後のスポーツ政策や体育教育、体操服のメーカー、日本の服飾の近代史、そして学校教育の精神史へと迫ってゆく。

 ブルマーを糸口に覗き見る、もう一つの戦後日本教育史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2016年12月8日第1刷。私が読んだのは2017年1月27日の第3刷。話題を呼んだ本です。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約189頁に加え、あとがき3頁。9ポイント44字×18行×189頁=約149,688字、400字詰め原稿用紙で約375枚。文庫本なら薄い一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。あ、もちろん、アレな期待はするだけ無駄です。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が続く形なので、なるべく頭から読もう。

  • はじめに
  • 第1章 ブルマーの謎と来歴
    • 1 ブルマーの謎
    • 2 ブルマーの日本への導入と変容
  • 第2章 密着型ブルマーの普及と風説
    • 1 密着型ブルマーの普及速度
    • 2 普及と消滅に関する諸説とその検討
  • 第3章 中体連とブルマー
    • 1 暗中模索
    • 2 推薦と協力金
    • 3 中学校体育連盟
  • 第4章 全国中体連の設立と変貌
    • 1 都道府県中体連の設立
    • 2 文部省のやり方
    • 3 スポーツ大日本派
    • 4 敗戦後の期待と落胆
    • 5 全国中体連の誕生
    • 6 オリンピックの東京開催決定
    • 7 すべてはオリンピックのために
    • 8 東京大会の屈辱
  • 第5章 密着型ブルマーの普及過程
    • 1 奇策
    • 2 営業努力と信頼関係
  • 第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地
    • 1 女子身体観の変容
    • 2 スカートの下のブルマー
  • 第7章 密着型ブルマーの消滅過程
    • 1 性的シンボルとしてのブルマー
    • 2 セクハラ概念の浸透
    • 3 代替物の発見
  • 第8章 ブルマーの時代
    • 1 三十年間への疑問
    • 2 シンガポール日本人学校のブルマー強制問題再考
    • 3 純潔教育の心得
    • 4 「女子学生亡国論」の心情
    • 5 道徳としてのブルマー
  • 参考文献一覧/あとがき

【感想は?】

 繰り返すが、アレな期待はするだけ無駄です。ガックシw

 まず「第1章 ブルマーの謎と来歴」で主になるのは、ブルマーだけに留まらず、明治維新以降の日本の女の体育。これが和装から洋装へと移る、日本の服飾史とも大きく関わってくる。

 このテーマは「第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地」でも再び蘇ってくる。改めて考えれば当たり前なんだが、服飾は精神性や主義主張とも重要な関係があるのだ。特に体育、それも女の体育ともなれば、ジェンダー問題とも強く繋がっている事を思い知らされる。

 が、とりあえず、それは置いて。本の構成で前半~中盤のハイライトとなるのが、ブルマーが学校に普及していく過程。俗説では、東京オリンピックのソ連バレーボール・チームが契機と言われている。ソ連選手のカッコよさに憧れた女の子のリクエストが実現した、というもの。

 が、しかし。今だって学校は生徒の要望なんざ滅多に受け入れない。50年前ともなればなおさらだ。どうも怪しい。

 ってんで、著者は敗戦後のGHQのお達しにまで遡り、図書館に籠って資料を漁り、日本を飛び回って取材し、果てはシンガポールにまで出かけてゆく。ここで、二つの興味深い事情が見えてくる。

 一つは学校用資材の市場が持つ特異な性質と、その市場でしのぎを削る産業界の人間模様。いったん食い込めば安定した業界かと思ったが、意外とそうでもない実情が浮き上がってきたり。でも結局、商売って、人なんだなあ。

 もう一つは、敗戦を機に入ってきた米国流民主主義と、それに逆らおうとするスポーツ関係者、それも特に思想・政治的な動き。これは終盤でも大きなテーマとなってくる。

 ここでもやっぱり、GHQが大きな変革を迫ってくる。直接に関わるのは、情報・教育方面を担当した、CIE(Civil Information and Education Bureau,民間情報教育局)。文部省はこの意を受け、スポーツにおいても革命的な方針を打ち出す。

 極論すれば「勝ち負けにこだわるのはやめて、誰もが楽しめるようにしろ、それを通じて民主主義を体で覚えさせろ」である。この時に出した文部省の指針は、今でも充分に通用すると思う。

  • 日本人は、物事を取り扱うのに、「勘」とか「骨(こつ)」とか(略)主観的・直感的な力にたより、客観的・合理的な方法を発展させることを怠った。
  • たまたま、(略)恵まれた天才的な人間が、優れた技術をもつことができても、それを、規則だった方法の訓練によって、多くの人びとに学ばせたり(略)することが、できなかった。
  • 権威や伝統に盲従して、これを批判する態度にとぼしく、感情に支配せられて、理性をはたらかせることが少なく、目や耳にふれぬ無形のものを尊敬して、物事を実証的にたしかめることが不得手であり…

 戦後生まれが中心となった今でも、この指摘がそのまんま当てはまっちゃう気がするんだが、あなたどう思いますか。

そういえば「祖父たちの零戦」でも、奥義「左ひねり込み」は、腕に覚えのある操縦士が、それぞれに生み出したとかで、帝国海軍が組織的に教えたりはしなかったんだよなあ。また、「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 下」でも、帝国海軍の戦闘機乗りの育成制度の欠陥を指摘してて…

 が、しかし。GHQが引き揚げ復興が進むにつれ、世の風潮は変わってきて、勝ち負けにこだわる発想も首をもたげてくる。これにハズミをつけたのがオリンピックで…

 と、スポーツと精神史なんて話も絡んできて、話は意外な方面へとつなっがってゆく。

 このあたりは、スポーツの持つ二つの側面、すなわち普通の人が休日などに楽しむスポーツと、一流選手を更に鍛え上げるスポーツと、どっちに重きを置くか、みたいな事も考えちゃったり。あと、声だけはデカいけど金は出さないオッサンたちとか。

 一見、イロモノじみたタイトルだけど、実は「サッカーと独裁者」同様に、スポーツと政治・思想との深い関係にまで踏み込んだ、真面目で重い内容の、でも文章はこなれていてスラスラ読める、お得な本だった。

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2018年6月14日 (木)

中野勝一「世界歴史叢書 パキスタン政治史 民主国家への苦難の道」明石書店

本書では、独立以来、民主主義確立のために苦難な道を歩んできたパキスタンの国内政治を主として1970年以降の動きを中心に記述した。
  ――まえがき

パキスタンでは国語であるウルドゥー語を母語として話している国民は一割にも満たないということである。
  ――第1章 パキスタンという国

独立以来67年近くになるが、(略)軍による統治は31年にも達している。
  ――第2章 長い軍政の歴史

1988年時点で麻薬常用者は224万人、そのううちヘロイン常用者は実に108万人に達した。
  ――第5章 オペレーション・フェアプレー

1998年5月28日、遂にパキスタンはイランとの国境に近いバローチスターン州チャーギー(Chagai)で誤解核実験を実施し、世界で七番目の事実上の核保有国となった。
  ――第9章 原爆の父と核の闇商人

「自爆テロ犯のおよそ9割は12歳から18歳位までの子供である」
  ――第10章 テロとの戦い

【どんな本?】

 1947年8月14日、二つの大国が誕生する。インドとパキスタンだ。ムスリムを中心とするパキスタンは、当初西パキスタン(現パキスタン)と東パキスタン(現バンクラデシュ)の二つに分かれていたが、1971年3月に東パキスタンがバングラデシュとして独立し、現在の形となった。

 インドとはカシミールで国境紛争を抱え、1998年には世界の反対を押し切って核兵器開発を成功させ、アフガニスタン問題ではビン・ラーディンを始め様々な勢力の隠れ家となると同時に、カラチ港から始まるISAFの兵站線となり、今なお多くのテロに苦しパキスタン。

 独立以来、一貫して民主主義政権が続くインドに比べ、なぜパキスタンは軍の影響が強いのか。近年はITを中心として経済発展しつつあるインドに対し、なぜパキスタン経済はパッとしないのか。なぜ無理をして核開発に邁進したのか。なぜテロが絶えないのか。

 アラビア海から中央アジアへ至る地勢的に重要な地域を占め、ムスリムが多くを占めながらも要人の多くが背広に身を包み、一時期は出稼ぎで日本に来る人も多かったパキスタンの現代史を、元カラーチー総領事が政治を中心に語る、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年8月31日初版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約398頁に加え、あとがき3頁。9ポイント45字×18行×398頁=約322,380字、400字詰め原稿用紙で約806枚。文庫本なら厚い一冊分ぐらいの文字量。

 政治がテーマだから、お堅く気取ったまわりくどい政治的な言い回しが多いと思ったが、文章は意外とこなれている。もしかしたら最初はぶっちゃけた表現で書いて、後から外交官らしい文章に直したのかも。

 日本人には馴染みのない音感を持つ名前の登場人物や集団が、離合集散を繰り返すややこしい話だが、中心となる2~3人に絞って話を進めるので、複雑な割には呑み込みやすく書かれている。また、略語や固有名詞が多く出てくるので、索引はありがたい。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が展開する形なので、なるべく頭から読もう。特に地域や民族を紹介する「第1章 パキスタンという国」と、政治勢力を語る「第2章 長い軍政の歴史」の「主要政党」は、重要な地図や固有名詞が出てくるので、複数の栞を用意しよう。

  • まえがき
  • 第1章 パキスタンという国
    日本の約二倍の国土/パキスタン最大の州/パシュトゥーンの州/五つの河/イスラームの門戸/イスラームの都/連邦直轄部族地域/インドとの係争地/民族/言語/宗教
  • 第2章 長い軍政の歴史
    軍政が30年以上/戒厳令/諜報機関・治安維持機関/国家安全保障会議/憲法/大統領/非常事態宣言/首相・連邦大臣/州知事・州首相/連邦議会/総選挙/司法/大反逆罪/連邦制と州の関係/宗教マイノリティの問題/言語騒動/地主や部族長が多数占める議会/主要政党
  • 第3章 司法による殺人
    中パ友好関係の樹立に尽力/クスーリー議員の父親殺人事件/イスラーム世界初の女性首相/ミスターテンパーセント/ベーナズィールの暗殺/ムルタザーとシャーナワーズの死
  • 第4章 ローティー、カプラー、マカーン
    バングラデシュの誕生/文民の戒厳令総司令官/戦後処理/バングラデシュ承認/中東諸国との関係緊密化/パキスタンで初めての民主的憲法/州政府と連邦政府の対立/スィンド州の言語騒動/野党弾圧の政策/総選挙でのPPPの圧勝
  • 第5章 オペレーション・フェアプレー
    総選挙後の国内混乱/マリー会談/ヌスラト・ブットー訴訟/サイドの総選挙延期/ブレジネフのクリスマス・プレゼント/イスラーム化政策/大幅な憲法改正/ジュネージョー首相の解任/ズィヤー大統領の死
  • 第6章 失われた10年
    PPP政権の復活/首相不信任の動き/憲法によるクーデター/軍部の申し子/イスラーム法施行法の制定/シャリーフ首相の解任と復権/ベーナズィール首相の返り咲き/判事の任命問題/シャリーフ首相の返り咲きと独裁化/前代未聞の最高裁乱入
  • 第7章 四度目の軍政
    非常事態宣言の布告/シャリーフ前首相の亡命/政権基盤強化のための憲法改正/宗教政党の予想外の躍進/ムシャラフ政権の正統化/ムシャラフ大統領の公約違反/女性保護法の制定/最高裁長官の停職処分/ムシャラフ大統領との連携の模索/司法に対するクーデター?
  • 第8章 民主主義定着への一歩
    与野党の逆転/判事の復職/国民和解政令(NRO)に違憲判決/政府と軍部の不和/第18次憲法改正/ビン・ラーディンの殺害/メモゲート事件/現職首相に法廷侮辱罪で有罪判決/アスガル・ハーン訴訟/シャリーフ、三度目の首相に/ムシャッラフ元大統領の訴追
  • 第9章 原爆の父と核の闇商人
    パキスタンの核実験/原爆の父/パキスタンの再処理プラント購入問題/米国の対パキスタン核不拡散政策の後退/米国の核不拡散政策の見直し/核の闇商人/イラン、北朝鮮、リビアに流出
  • 第10章 テロとの戦い
    宗派間の対立抗争/対立抗争のパターン/スンニー派とシーア派の過激組織/イラン革命/パキスタンの苦渋の選択/マドラサ改革/成果のない和平合意/無人飛行機による攻撃/赤いモスク事件/パキスタン・ターリバーン運動の結成/スワート軍事掃討作戦/自爆テロ
  • あとがき/写真出典一覧/パキスタン政治を知る上で有益な資料、サイト/年表(1970年以降)/索引

【感想は?】

 確かにパキスタンの現代史は「苦難の道」そのものだ。

 なにせ地域ごとの独自性が強い。もともとバングラデシュと一つの国にしようってのが無茶だった。今でも、アラビア海とイランに面するバローチスターン州や、北でアフガニスタンに接する地域は、地元の部族長が強く、連邦政府の威光が及ばない。

 と書かれてもピンとこないが、例えばバローチスターンのサルダール(部族長)制度。曰く、「自分の部族民を意のままに逮捕したり、身柄を拘束したり」できた。要は小さな王国ですね。貧しい地域ほどこういう古い体制が残ってる。

 ってんで開発するため道路を作ろうとしても、建設業者の立ち入りを部族長が許さない。しかもパキスタン最大のガス田があり、石炭も「生産量はパキスタンの49.3%を占める」。税制も…

財政の分野でも連邦政府が大きな権限を持っている。連邦政府は所得税、関税、売上税をはじめとして広範な徴税権を有しており、国家の歳入のうち連邦政府のシェアーは94.4%(2010/11年度)に達している。
  ――第2章 長い軍政の歴史

 と、毟り取られるんで、「連邦政府に食いものにされてる」と感じ、独立の機運も強い。幸か不幸か隣のイランにもバローチスターンは広がってて、バローチ人に暴れられると困るんで、パキスタンと一緒に押さえつけ…

 と、この本のように具体的に書かれると、問題のややこしさ・難しさが見えてくる。こういう所は、短く記事をまとめなきゃいけないWEBと違い、長い記述が許される書籍の嬉しい所。

 政党にしても、こういう部族主義みたいのを反映してか…

議員の多くが地主や部族長である…
  ――第2章 長い軍政の歴史

政党は同じ理念、考えを持った人々(略)というより、そのほとんどが特定の家族や人物の政党であり…
  ――第2章 長い軍政の歴史

 と、一部の有力者たちの権力争いみたいな色が強い。汚職や職権乱用にしても「パキスタンではどこでも見られる」と、みもふたもない事をサラリと書いてたり。

 対して軍が強いのがパキスタン。と書くと銃で国民を脅してるようだが、そんな簡単な話じゃない。

 国家兵站部=NLCは「国内の最大の公共輸送機関」だし、道路や橋も作る。日本なら国土交通省だね。加えて財団もあり、「砂糖、セメント、食品、発電」や学校・病院も運営してる。社会主義の色が濃いのもあるけど、明治政府のように国家のインフラを支え殖産興業を進める役割も担ってるわけ。

 中盤では軍事政権と文民政府の目まぐるしい入れ替わりを描いてるんだが、ここで目立つのが、やたら憲法をいじる点と、互いが違憲を裁判に訴えて司法を巻き込む点。

 もっとも、憲法については、国民投票が必要な日本と大きく事情が違う。クーデターで大統領になった軍人が、国民はおろか議会にすら諮らず勝手に憲法を変えちゃうのだ。いいのかそれで。

 個人的に興味津々だったのが、終盤の「第9章 原爆の父と核の闇商人」と「第10章 テロとの戦い」。特にヤバさ満開な、核技術の他国への漏洩では、表向きアブドゥル・カディール・ハーン博士がカネ目当てでやった形になっちゃいるが、どう見ても…

 これが「第10章 テロとの戦い」に入ると、マドラサ(神学校)が大きな要因として挙げられてる。困った形で教育の重要性が立証されちゃったわけだ。ここで描かれるアメリカの横暴さは、確かにパキスタン国民の誇りを逆なでするもので。

 などと、パキスタンという国そのものを知り、理解するには格好の一冊であると共に、日本との違いを考えながら読むと、「憲法」や「社会主義」や「軍政」なんて言葉の意味も少し違うように感じてきて、政治学にも少し興味がわいてくるなど、色々と好奇心を刺激される。

 敢えてケチをつけると、経済・産業面の話が少ないのは残念かも。とまれ、見た目の厳めしさに比べ、意外ととっつきやすく、文章もこなれてて読みやすい、入門用としては充実した本だ。

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2018年6月12日 (火)

シルヴァン・ヌーヴェル「巨神計画 上・下」創元SF文庫 佐田千織訳

それは千キロメートル上空からでさえ、大きな手のように見えるんだ。
  ――上巻p192

「科学者ならあのようなことをやめるのは無理だ」
  ――上巻p312

これがいま起こっていることのすべてであり、これがあんたたちの成人式だ。
  ――下巻188

【どんな本?】

 サウスダコタの田舎の地中から、7メートルほどの「掌」が見つかる。

 素材はイリジウムを主とした金属製だが、重さは大きさから予想される値の1/10ほどしかない。鮮やかな青緑色に輝いているが、動力源は見当たらず、しかも光が減衰する様子はない。出現場所は真四角の壁に囲まれ、壁面には青緑に輝く記号が並んでいた。この壁の光も動力源は不明で、減衰は認められない。放射性炭素年代測定によると、できてから少なくとも五千~六千年は経っている。

 それから17年。

 発見した11歳の少女ローズ・フランクリンは物理学者となり、再び「掌」に関わる羽目になる。シリアとの国境に近いトルコ領内で、前腕部が見つかったのだ。「掌」は、巨大な人型ロボットのパーツらしい。

 地球のアチコチに隠された巨大ロボットのパーツを求め、秘密プロジェクトが動き出す。同時に、ローズを中心として、巨大ロボットの謎を探る計画も。

 だが、世界の国は親米国ばかりではない。やがてロボット探索計画は国際的な緊張を招き、またロボットに隠された未知のテクノロジーも想定外の状況を引き起こす。

 謎の巨大ロボットを巡る事件を、国際的なスケールで描く、SFエンタテイメント小説。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇で10位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は SLEEPING GIANTS, by Sylvain Neuvel, 2016。日本語版は2017年5月12日初版。文庫本で上下巻の縦一段組み、本文約319頁+247頁=566頁に加え、渡邊利通の解説7頁。8ポイント42字×17行×(319頁+247頁)=約404,124字、400字詰め原稿用紙で約1,011枚。文庫本の上下巻としては標準的な分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。何はともあれ、オーパーツ的な巨大ロボットの話なので、そこでノれるかどうかが大事。

【感想は?】

 解説によると、三部作の開幕編だとか。確かにジワジワと盛り上がってきて、アッと驚く展開で終わる。

 お話は、謎の人物「インタビュアー」が、それぞれの関係者の話を聞く形で語られる。あの怪作「WORLD WAR Z」と同じ形式だ。次第に事件の全貌が浮かび上がってくる語り口は、この作品に相応しい。

 なんたって、巨大ロボットだ。それだけでワクワクする。なかなかロボットが全貌を見せないあたりも、山田政紀の「機神兵団」やTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」みたいで、重量感のようなものを感じさせる。もったいをつけながら少しづつ謎を明かしていくあたり、新人とは思えぬ語り口の巧さだ。

 開幕してしばらくは、世界各地でちょっとづつパーツが見つかってゆく下りが、もうそれだけで気分が盛り上がってくる。と同時に、秘密プロジェクトのメンバーのキャラクターが見えてくるのも、憎い工夫だ。

 メンバーの中でも、最も光っているのが、合衆国陸軍の三等准尉でヘリパイロット、カーラ・レズニック。

 パイロットとしての腕は最高なんだが、とにかく性格に難ありな人。職務には生真面目なんだけど、やたらヘソ曲がりで攻撃的でつっけんどんで、人と距離を置きたがる。どう考えても、同僚や上官に気に入られるタイプじゃない。が、腕と熱意と実績を買われたんだろうなあ。

 これで眼鏡っ娘なら私の趣味的には完璧なんだが、パイロットってのは目を大切にする種族で…。

 お堅く陰険なカーラとは対照的なのが、やはり合衆国陸軍の二等准尉ライアン・ミッチェル。陽気で気さくなアメリカン・ボーイで、場の空気を読むのに長け誰とでもすぐに友だちになるタイプ。何の因果かカーラと組む羽目になり、パーツの探索じゃ生死をともにする立場に。

 陰険カーラと陽光ライアン、対照的な二人のコンビはいかに。

 ちなみに准尉って階級、ちとややこしくて。小さな軍だと、功績のあった下士官が昇進するか、または士官学校を卒業したての新人士官が最初に与えられる階級だ。が、合衆国陸軍ぐらい大きいと、士官とも兵卒とも独立した階級で、専用の准士官学校がある由が、ライアンの語りでわかる。

 カーラ&ライアンとは別の意味で強烈なのが、遺伝学者のアリッサ・パパントヌ。

 この人のキャラクターは、学者魂炸裂どころか、次第に見えてくるのは、この手のSFには欠かせない大事な属性で。あまりカッコいい役じゃないんだが、映像化する際にはベテランの強烈な個性を持つ役者でないと務まらない、ある意味、この小説の焦点でもある大切なお方。続編でも活躍を期待してます。

 微妙に著者を投影していそうなのが、記号の解読に挑む言語学担当のヴィンセント・クーチャー。

 BBとか、何かとオタクなネタが漏れてきて、妙に親しみが湧く人だけど、注目してほしいのは、著者と同じカナダのケベック州(→Wikipedia)出身って所。ここはフランス語を話す人が多く、独立の機運もあり、アメリカ・カナダ両国に対し複雑な感情を抱いている土地。

 ヴィンセント自身は穏健派っぽいが、登場人物の多くが持つアメリカ中心の考え方には、微妙な気持ちを見せる場面がチラホラ見えてきたり。

 こういう「世界はアメリカだけじゃないんだぞ」な想いが、ロボットのパーツを集める所や、その後の展開でも、チョロチョロと漏れてくるのも、ケベック人らしい隠し味と言うか。前腕部が見つかるトルコ・シリア国境付近もそうだし、その後も軍事的にかなりヤバい土地が出てきたり。

 冷戦時代にもソ連上空に超音速偵察機を飛ばす(→Wikipedia)なんて無茶やらかした米軍のこと、この小説でも世界各国で何かとやらかすから相変わらずでw

 とかの小難しいネタに一喜一憂してもいいけど、基本は「オーバー・テクノロジーな巨大ロボットが見つかって」なんてヲタク心を震わせるお話。文章は読みやすいし、語りも巧み。子供に戻って、楽しみながら読もう。

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2018年6月11日 (月)

武蔵工業大学編「なんでも測定団が行く はかれるものはなんでもはかろう」講談社ブルーバックス

「はかれるものはすべてはかろう。はかれないものは、はかれるようにしよう」
  ――1 フィートは足の長さ、ではインチの長さの基準は?

つまり、「致死量」とは実験動物群の半数が死亡し、半数が生き残る統計的数値である。
  ――11 ダイオキシン1グラムで死ぬ人の数は?

一般に荷重変動幅が二倍になると橋に与える疲労のダメージはその三乗(23)で八倍となる。
  ――12 橋の寿命はどうやって予測するの?

青函トンネルの(略)貫通誤差は水平方向で37.4cm、垂直方向で52.5cmであり、また高さの出会い差は19.6cmであった。
  ――13 トンネルを掘るとき、真ん中でピタリと出会う測量の技術

ダイオキシンは、正式にはポリクロロジベンゾジオキシンおよびポリクロロジベンゾフランとよばれ、ベンゼン核につく塩素の位置と数により、それぞれ75,135の異性体とよばれる仲間がある。現在までに両方で17種の異性体に強い毒性が確認されている。
  ――33 超微量のダイオキシン類を分離するカラムの長さの秘密

ヒノキは非常に優れた材料で、伐採後200~300年間は強度が増していき、千数百年経ったとき、ほぼ伐採時の強度に戻るといわれている。(略)古い樹木の寿命は、ほぼ樹齢と等しい…
  ――35 木を切らずに樹木の年齢ははかれるの?

【どんな本?】

 科学や工学では、正確に測ることが大切だ。また、政治や経済でも、人口や失業率の数字は重要な指標になる。では、どうやって地球の重さを調べたのか。二酸化炭素の濃度はどう測るのか。飛行機は自分の高度がなぜわかるのか。選挙のニュースでは、どうやって当確を出すのか。

 科学から社会問題まで、モノゴトの基本となる数字をどう出したのか、そして実際の数字は幾つなのかを、読みやすい短いコラムにまとめた、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2004年8月20日第1刷発行。新書版で縦一段組み、本文約230頁に加え、あとがき2頁。9ポイント43字×17行×230頁=約168,130字、400字詰め原稿用紙で約421枚。文庫本ならやや薄い一冊分ぐらいだが、イラストやグラフも結構あるので、実際の文字数は9割ぐらいか。

 なお、武蔵工業大学編となっているが、著者を隠す意図はない。各記事の末尾に執筆者が、また巻末にも執筆者一覧がある。

 各記事ごとに執筆者が違うので、読みやすさはそれぞれ。全般的に「もっと頁をくれ」みたいな執筆者の叫びが聞こえてきそうな記事が多かった。

【構成は?】

 それぞれ4~6頁の独立した記事は並ぶ形なので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。

  • はじめに 発刊によせて
  • 第1章 はかる歴史
    • 1 フィートは足の長さ、ではインチの長さの基準は?
    • 2 宇宙空間では重さはゼロなのに、質量は存在するの?
    • 3 温度目盛りは人間の血液の温度から始まった!
    • 4 原子時計ではかると一日の長さは一定ではない!?
    • コラム1 ナノワールドの温度変化をとらえる
    • コラム2 「はかる」という言葉の意味はさまざま
  • 第2章 人間をはかる
    • 5 知能指数で本当に頭の良し悪しがわかるの?
    • 6 自分に適した一日の栄養摂取量を計算してみる
    • 7 眠りの深さと夢の関係をはかる
    • 8 注射してから薬が効き始めるまでの時間は?
    • 9 人間の知恵ってはかれるの?
    • 10 運動神経のいい人と悪い人はどこが違うの?
    • 11 ダイオキシン1グラムで死ぬ人の数は?
  • 第3章 ものをはかる
    • 12 橋の寿命はどうやって予測するの?
    • 13 トンネルを掘るとき、真ん中でピタリと出会う測量の技術
    • 14 飛んでいる飛行機の高度はどのようにはかるの?
    • 15 一秒間に地球を七周半する光の正体とは?
    • 16 色や鮮やかさの違いはどのようにはかるの?
    • 17 原子核や中性子、宇宙の起源にせまる電子顕微鏡のしくみとは?
    • 18 土器の実年代はどのようにはかるの?
    • 19 車が衝突したときに受ける衝撃の大きさをはかる
  • 第4章 地球をはかる
    • 20 地球の重さをはかる
    • 21 地球の直径をはかる
    • 22 隣の銀河までの距離はどのようにはかるの?
    • 23 太陽の年齢は50憶年! 星に年齢はどのようにはかるの?
    • コラム3 大きな数の表し方
  • 第5章 情報をはかる
    • 24 コンピュータの速さをはかる
    • 25 カーナビはどうやって自分の位置を認識するのか?
    • 26 情報セキュリティで大切な暗号の強度をはかる
    • 27 音紋分析で声の何がわかるの?
    • 28 携帯電話のアンテナが立ったり立たなかったり 電波の強さはどのようにはかるの?
  • 第6章 環境をはかる
    • 29 地球の平均気温はどのようにはかるの?
    • 30 南極大陸の二倍に達したオゾンホールとオゾン濃度のはかり方
    • 31 100年後に「秋の七草」が「秋の五草」になる!?
    • 32 石油の寿命は40年! 地中深くにある石油の埋蔵量がどうしてわかるの?
    • 33 超微量のダイオキシン類を分離するカラムの長さの秘密
    • 34 生き物がすめる環境はどのようにはかるの?
    • 35 木を切らずに樹木の年齢ははかれるの?
    • 36 世界一透明な湖は桐の摩周湖!?
    • 37 迷惑な騒音の大きさってはかれるの?
    • 38 放射線・放射能をはかる
    • 39 地震のときの「地域危険度」を知っていますか?
    • 40 温暖化の原因 二酸化炭素の発生量ってどのくらい?
    • 41 地球の砂漠化はどれくらい進んでいるの?
  • 第7章 社会をはかる
    • 42 一億人を超える日本の人口はどのようにはかるの?
    • 43 平均寿命80歳時代 さてあなたはあと何年生きられるか?
    • 44 世論調査はあなたの気持ちを反映しているの!?
    • 45 当選確実!ってどのくらい確実? 選挙の当落はどのように予測するの?
    • 46 模擬試験で偏差値50 大学の合格率50%!?
    • 47 大混乱の初詣で、人出はどのようにはかるの?
    • 48 人は一生の間に地球を何周分移動する?
    • 49 失業率5% 失業者数はどうしてわかるの?
    • 50 会社の価値ってどのようにはかるの?
  • 付録/あとがき/執筆者一覧/さくいん

【感想は?】

 私は数字が好きだ。数字を覚えるのは苦手だけど。数字が出ると、なんか信用できる気がする。

 けど、どっからどうやって数字を出したのか、よく分からない場合もあるし、信用できそうもない数字もある。実際に自分がどう測るかを考えると、全く見当もつかない場合も多い。

 例えば地球の重さ(というより質量)。重力は質量に比例し、距離に反比例する。なら1kgあたり、どれぐらいの重力が出るのか、わかればいい。でも1kgのモノが出す重力はやたら小さい。この小さな力を、ICもレーザーもない1798年に測ってるから凄い(→Wikipedia)。よく思いついたなあ。

 やはり賢さを感じさせるのが、カーナビ。GPSでだいたいの位置はわかるが、精度が荒い(誤差30mぐらい)。海や砂漠ならともかく、街中じゃ30mは大きな違いだ。そこで微調整しなきゃいけない。

 当たり前だが、車は道路を走る。河や住宅の中は走らない。そしてカーナビは道路の座標を知っている。だから、計算で出た座標に近い道路に寄せるのだ。お絵かきソフトを使う人は、グリッド調整みたいなモンだと思って欲しい。

 意外と単純なのが、放射線の量を測るガイガー・ミュラー・カウンター。SF小説とかじゃガイガー・カウンターと呼ばれるが、ガイガーもミュラーも人の名前(→Wikipedia)だったとは。ミュラーさん、いつも無視してごめんなさい。

 さて、しくみは。原子核は、崩壊する際にβ線(電子か陽電子、→Wikipedia)を出す。物質は、β線に当たると、陽イオンと電子に分かれる。いずれも電荷があるので、電極に引き寄せられる。そこで電極に寄ってきた電子や陽電子の数を数えるわけ。ちなみにベクレルも人の名前だった(→Wikipedia)。

 これが生物や社会になると、ちと精度が悪くなる。例えば毒などの致死量。マウスとかの動物実験で試し、半数が死んだ量を、ヒトの体重に換算して出す。種や個体差や体調で数値は違う上に、「半数が死んだ量」だから、確実に死ぬとは言い切れないのだ。

 社会だと、選挙の当確の出し方が興味深かった。要は面接と電話と出口調査なんだが、これで出した数字は「特定の党は常に低め(あるいは高め)に出る」ってのは興味をそそられる。いわゆる「濃い」政党は低めに出るんだろうか?

 当然、これには統計が関わってくる。となると気になるのは標本(サンプル)数と誤差。標本数400で誤差5%、2500で誤差2%だとか。「誤差を半分にするには調査する人数を四倍」にせにゃならんとは、なかなか厳しい。とすると、内閣支持率の1~2%の変化とかは、ほとんど誤差だねえ。

 とか、本論の「はかり方」の話も面白いが、測った結果や、関係なさそうな雑学的な話も面白い。

 なんと言っても、驚いたのがトキ。なんと「田んぼでドジョウやカエルをたべ、近くの雑木林をねぐらとする」と言うから、里の鳥だったとは。人里離れた山奥に住む鳥だとばかり思っていた。じゃ農薬の影響も大きいんだろうか。

 生まれと育ちで気になるのが、いわゆる運動神経。オッサンにも希望はあるのか?と思ったが…

 これについては、「遺伝の影響はわずかしかない」と、少し希望が持てる。が、悲しいことに、大事なのは幼い頃、特に5~12歳ごろの運動経験。5~8歳に神経回路が発達し、9~12歳で使い方が巧みになる。この時期が大事なのだ。「子供は外で遊べ」は、真実なのかも。

 短く独立した記事が並ぶ本なので、気になる所だけを拾い読みできるから、コマ切れの時間しか取れない忙しい人には嬉しいかも。科学などと肩ひじ張らず、セシル・アダムズの「こんなこと、だれに聞いたらいいの?」みたく、雑学系の本を楽しむ感じでつまみ食いしよう。

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