2017年5月21日 (日)

早川書房編集部編「伊藤計劃トリビュート」ハヤカワ文庫JA

「だから怖いんだよ。狙ってすらいない」
  ――公正的戦闘規範 / 藤井太洋

「物語にならない事実は、記憶の中では意味を成さない」
  ――南十字星 / 柴田勝家

「人間の歴史がどんな風に終わるか、考えたことはあるか?」
  ――フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪 / 伴名練

そうさ、これは人類最後の麻薬王の話だ。
  ――怠惰の大罪 / 長谷敏司

【どんな本?】

 「虐殺器官」「ハーモニー」と傑作を発表しながらも、若くして亡くなった伊藤計劃を偲び、同年代の四人(藤井太洋,二木稔,王城夕紀,長谷敏司)と、その後継として期待される若手四人(伏見完,柴田勝家,吉上亮,伴名練)のSF作家の作品を集めたアンソロジー。「テクノロジーが人間をどう変えていくか」をテーマに、今後の日本SF界を担う作家が競う中・短編集。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」で、ベストSF2015国内篇17位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年8月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約713頁と、塩澤快浩によるまえがき3頁。9ポイント41字×18行×713頁=約526,194字、400字詰め原稿用紙で約1,316枚。文庫本としては破格の厚さで、上中下に分けてもいい分量。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 著者。すべて書き下ろし。

公正的戦闘規範 / 藤井太洋
 新疆出身の 趙は、兵役を経て、上海の日系IT企業に入った。明日から長い休暇に入るので、同僚はみな浮かれている。幼い頃、よく遊んだゲーム“偵判打”を話題に出したが、誰も知らないという。そこにETIS(東トルキスタン・イスラム国)が放ったドローン、通称キルバグが現れる。AI制御だが、標的の選び方は適当で、ほとんど無差別に近い。
 盛んに中国に進出した外国企業の内輪を見事に暴く冒頭から、人民解放軍の少数民族対策、そして進化する無人兵器を絡めた、著者お得意の近未来テクノ・スリラー。ちょこちょこと入れたガジェットやエピソードが演出するリアリティと、そこから一歩踏み出したアイデアが生むセンス・オブ・ワンダーは短編でも切れ味が光る。兵蜂に、ちょっとだけ救われたw
仮想の在処 / 伏見完
 双子の姉の八音は死産だった。両親は生まれた赤子の脳を電脳空間に仮想化し、電子的な人格として育てた。両親も友達も八音を可愛がり、わたしは姉のおまけのように扱われた。だが人格を維持する費用の負担は重く…
 八音の妹、有香の一人称で語られる、重く静かな物語。社会の変化もテーマとして扱う短編が多いこの作品集の中では、「個々の人間」に焦点を当てて語っている点が異色かも。その分、自分の事として考えさせられる部分も強い。
南十字星 / 柴田勝家
 ボリビアのアンデス山脈、共和制アメリカの国境付近。本格的な戦争は終わったが、過激派に協力する地域住民も残っている。シズマは人理部隊の一員だ。民族主義者の考え方や組織を理解し、スムーズな和解を目指す、文化技官である。
 長編「クロニスタ 戦争人類学者」の冒頭部分。中心的な役割を果たすガジェット「自己相」が、やたらと便利で憧れる。いや英語を含め外国語はサッパリなもんで。恨みや悲しみなど、ない方が得だよね、と思う感情や思い出はあるけど、それを外科的にアッサリ捨てる気分になれるかというと、それもなあ…。
未明の晩餐 / 吉上亮
 壬生観憐の仕事は、死刑囚に最後の晩餐を供する事だ。食事に満足し、心の底から自分の死を受け入れれば、仕事は成功。大規模な気候変動に伴い、政府は鉄道網を大幅に改革し、従来の鉄道網は不法滞在者が住む廃墟都市となった。食材を買いに出た観憐は、二人の浮浪児を拾う。幸い次の仕事が入ったが…
 夕食後に読んではいけない。下腹に無駄な脂肪がついている身には厳しい作品。出てくる食事はもちろん、それを美味しそうに食べる場面も辛いw ちょっと調べたら、キジバトは免許がなくても捕って食っていいのね。もちろん、時期や得物など幾つかの制限はあるけど。
にんげんのくに Le Milieu Human / 仁木稔
 熱帯の森の奥に、彼らが暮らしている。彼らは他の部族と交わらず、出会えば殺した。彼ら同士でも、他の村や、時として同じ村の者とも殺し合った。そこに若い他所者の女が迷い込み、ある男の妻になり、男の子を産んだが、子が幼いうちに死んだ。子は異人と呼ばれ、後妻に疎んじられながら育つ。異人は精霊と巧く付き合い、村人とも折り合ってきたが…
 ≪HISTORIA≫シリーズの一作。濃密に描きこまれた「人間」たちの暮らしに、ドップリ浸かってしまい、しばらく心が日本に帰ってこなかった。「文明と戦争」や「繁栄」を読む限り、「人間」の暮らしは、それほど誇張されたものでもないみたいだ。というか、私たちの社会も、わかりやすい暴力こそないものの、本質的には似たような事をやってる気がする。
ノット・ワンダフル・ワールズ / 王城夕紀
 技術の天才エレ・ノイと経営の天才テール・ウィステリアが興したLel、ライト・エボリューション・インダストリー。基幹商品は二つ、適切な選択肢を示すeニューロと、選択に即応するeシティ。行き詰まった人類の突破口と期待される Lel が中心となり、都市は大きく変わってゆく。半年で50%のLel社員権を得たケンは、ニュースリリースの草稿が仕事だ。
 アップル社をモデルとしたようなLelを舞台として、人間とテクノロジーの関係を描く作品。既にAmazonの「よく一緒に購入されている商品」や Twitter の「おすすめユーザー」で、eニューロは現実となってるなあ。特に Twitter は、似たような人が集まるんで、快適な半面、次第に世間とズレていくんだが、それに気づかないのが怖い。とはいえ、みんなと店で食べる際に、なかなかメニューを決められない人に、eニューロは魅力的だろうなあ。
フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪 / 伴名練
 19世紀半ば。クリミア戦争で傷を負った俺は、スクタリの野戦病院で異様な女から治療を受ける。荒っぽいが手際のいい手術で俺の命は助かったが、隣の寝台の若い兵隊は運がなかった。消えた青年の行方を追う俺は、地下墓所を見つけた。そこには例の女と共に…
 「屍者の帝国」の雰囲気たっぷりに、切り裂きジャックやヴィクター・フランケンシュタインなどの常連が次々と登場する、トリビュートらしい作品。スチームパンクに対するオーガニック・パンクとでも言うか。狂ったアイデアと異様な風景に加え、虚実交えて意外な人の出演も楽しい所。
怠惰の大罪 / 長谷敏司
 ゲバラとカストロの革命が失敗したキューバ。今はメキシコと並ぶ麻薬の中継地として、多くのファミリーがしのぎを削っている。政府も警察も腐敗したこの国で、崇められるのは密売人だ。サーフハウスで働く傍らアメリカ人観光客相手に大麻を売るカルロスは、より儲けの大きいコカインを流してくれるよう警官と仲買人を兼ねるトニーに頼むが…
 長編の抜粋。掲載分だと、少しはSFガジェットも出てくるが、むしろ血なまぐさいノワール物として面白い。まっとうに生きても浮かび上がる望みはない、どころかいつ消されるか分からない社会で、才覚を武器に密売人として成り上がろうとする男カルロスの物語。ヤバい橋を絶妙のバランス感覚で通り抜け、情勢の変化がもたらす混乱に乗じ、手段を択ばず社会の階梯を駆け上がってゆく男の、ピカレスク・ロマン。大藪春彦

 書名通り、出口の見えない閉塞感やどうしようもない絶望感が漂う作品が多い。

 そんな中では、暗い話ばかりだと思い込んでた吉上亮の「未明の晩餐」が、ダークなトーンを漂わせつつも、ほのかな希望を匂わせてくれたのが意外。

 藤井太洋の「公正的戦闘規範」や長谷敏司の「怠惰の大罪」は、SFというより船戸与一や大藪春彦のような味わいがあって、生活感漂うディテールの細かさに圧倒された。「にんげんのくに」も、佐藤賢一の「ジャガーになった男」を、ちょっと思い出したり。

【関連記事】

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年5月17日 (水)

早川書房編集部編「伊藤計劃トリビュート2」ハヤカワ文庫JA

これは一人の少女が最高のアイドルになるまでを描いた小説である。
  ――最後にして最初のアイドル / 草野原々

闇の中からは、光がよく見える。
  ――ゲームの王国 / 小川哲

【どんな本?】

 「虐殺器官」「ハーモニー」と傑作を発表しながらも、若くして亡くなった伊藤計劃を偲び、その後継として期待される若手SF作家の作品を集めたアンソロジー。「テクノロジーが人間をどう変えていくか」をテーマに、今後の日本SF界を担う作家が競う中・短編集。

【いつ出たの?分量は?】

 2017年1月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約441頁と、塩澤快浩によるまえがき2頁。9ポイント40字×17行×441頁=約299,880字、400字詰め原稿用紙で約750枚。文庫本としては厚め。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 著者 / 初出。

最後にして最初のアイドル / 草野原々 / 2016年11月 電子書籍
 生後六カ月でアイドルに魅せられた古月みかは、国立光ヶ山高校に進学し、アイドル部で新園眞織と出合う。陰で努力するみかと天才肌の眞織とタイプは正反対ながら、五人組ユニット P-VALUE の仲間として活動するうちに、二人の絆は深まってゆくが…
 噂のラブライブ二次創作…のはずが、確かにこれはとんでもないw にこまき推しの人、よく怒らなかったなあ。冗談が分かる懐の深い人が多いんだろうか。
 二次元アイドルをどういじればSFになるのかと思ったら、タイトル通りのオラフ・ステープルドンばかりかアレやコレまで取り込み、短い中にとんでもなく濃い内容を詰め込みつつ、それでも主題の「アイドル」はキッチリと最後まで貫き通してみせた。
 日本SF界としては半村良「石の血脈」以来の場外大ファールかも。この調子で今後も暴走を続けて欲しい。
Guilty / ぼくのりりっくのぼうよみ / 書き下ろし
 百年前の世界戦争で文明は衰えた。多くの土地が放射能で住めなくなり、人々は高い壁に囲まれた小さな都市に集まって生きている。都市の一つズーに暮らすファーは、同じ研究室に勤める彼女に求婚し…
 ポスト・アポカリプス物ながら、意外と雰囲気は静かで落ち着いている。
雲南省スー族におけるVR技術の使用例 / 柴田勝家 / SFマガジン2016年12月号
 中国雲南省の山岳地帯に住む少数民族ズー族は、生まれてすぐVR用のヘッドセットをつけ、一生をVRのなかで過ごす。彼らが生きる世界は彼ら自身の手で創られ、その実態は明らかにされていない。
 文化人類学のフィールド・ワークの報告書の形を借りた作品。現実世界でも、人により世界の見え方は違う。私にはただの毛虫でも、昆虫好きにはツマグロヒョウモンの幼虫で、園芸好きにはパンジーの大敵だ。子共には熱血スポーツ漫画でも、アレなお姉さまには…。文化人類学の面白さを、少し捻って伝える作品。
くすんだ言語 / 黒石守 / 書き下ろし
 ニューロワイアードは、サイオメッグ社が開発中の、脳に直結する携帯端末だ。玄霧宗谷は15年間、開発に携わってきた。そのアプリケーションの一つコミュニケーターは、いわば自動翻訳機能だ。現在、五千人ほどのモニターを募り、多くの国で検証試験を行っている。
 英語が苦手、というより日本語以外ほ全滅な私としては、コミュニケーターは是非とも欲しい。確か今の Google 翻訳は力任せの方法で、多くの言葉に翻訳される国連の文書を辞書に流し込み、元文と似た文を辞書から探すう、みたいな手口だったと思うが、こんなニュースも(→GIGAGINE)。ネットの普及でコミュニケーションが活発になった結果、世界中でポピュリズムが勢いを増してるような気がする。
あるいは呼吸する墓標 / 伏見完 / SFマガジン2016年8月号
 統合医療ネットワーク AReNA は、人体内の分子機械を管理し、人間を健康に保つ。ただし、そのためには大量の演算資源が必要で、人間の大脳を時間借りしている。噂がある。砂漠で死体が歩く、と。死体の神経系が発するノイズを拾い、分子機械が死体を歩かせているらしい。
 ちょっと「ハーモニー」に世界観が似ている作品。健康を保つために脳みそを貸すって発想が、「健康のためなら死んでもいい」的な皮肉を感じさせて面白い。体内に埋め込まれたマシンにとっちゃ、確かに最も手近な計算資源だしなあ。エネルギー源として下腹に溜まった無駄な脂肪を使ってくれると更に嬉しい←違う
ゲームの王国 / 小川哲 /  書き下ろし
 1956年4月。高校教師のサロト・サル(ポル・ポト)は、後をつけてくる者に注意しながら集会へ向かう。選挙はシアヌークが茶番に変え、彼が率いるサンクムが圧勝する。集会では同志シウ・ヘンの逮捕に際し、サロト・サルのさりげない誘導で、組織の改編と方針転換で話がまとまる。
 このアンソロジーの半分以上を占める作品で、長編の抜粋。掲載分だけを見ると、特にSFの要素はない。しかし、小説としては、やがて来るキリング・フィールドの予感も相まって、禍々しい何かがヒタヒタと迫ってくるような恐ろしさを感じる。
 初期のクメール・ルージュの蠕動から始まり、郵便局員や秘密警察や農民などの人物像や暮らしをじっくり書き込んでいて、権力の圧力を感じながらもテキトーに受け流して生きている、当時のカンボジアの人々の生きざまを巧く描き出していると思う。
 完成した作品も読みたいし、参考にした文献の一覧も欲しい。ここまで見事に当時のカンボジアの風景を再現させた筆力に驚いた。どうやって調べたんだろう?

 噂通り「最後にして最初のアイドル」は、とんでもない怪作だった。無限に湧き出る奇想を、にこまきへの煮えたぎる愛で貫き、この著者でなければ創れない異形のキメラだ。

 「ゲームの王国」も、期待以上の面白さ…というか、微妙に混じるおぞましさが迫力を増している。「ユートロニカのこちら側」で感じさせたスマートさをかなぐり捨て、その奥にある悪意を、もっと分かり易い形で示している…のかなあ? まあいい、なんにせよ、長編の完成を待ってます。

【関連記事】

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年5月15日 (月)

松原始「カラスの補習授業」雷鳥社

カラスの知能について「霊長類並みに進歩している!」といった解釈をするのは、間違いとは言えないにせよ、必ずしも正しくない。霊長類の知能が唯一絶対の到達点などではないからである。
  ――カレドニアガラスの道具使用

親鳥が巣で眠ることはほとんどない。あったとしても雛を抱くついでである。
  ――営巣場所と造巣行動

カラスは日本最大の農業害鳥でもある。鳥による農業被害として申告される被害額のうち、約半分がカラスによるものだ(次はヒヨドリ)。
  ――被害防除に関する、多少は真面目な話

河川周辺はハシボソガラスの縄張りで埋め尽くされている。
  ――鴉屋の京都御所にて悪戦苦闘すること

ハシブトガラスの行動圏はとことん、ゴミ基準なのだった。
  ――鴉屋の京都御所にて悪戦苦闘すること

【どんな本?】

 「カラスの教科書」に続く、カラスに憑かれた動物行動学者による一般向け科学解説書。

 カラスそのものの記述に加え、それのどこに注目してどう観察するか、観察する際の注意点や苦労することは何か、観察結果をどう記録しどう解釈するか、優れた観察者になるにはどうすればいいかなど、研究する側の話も多く、センス・オブ・ワンダー度ではこちらの方が濃い。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年12月20日第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約385頁。9.5ポイント39字×14行×385頁=約210,210字、400字詰め原稿用紙で約526枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分だが、ユーモラスなイラストが沢山載っているので、文字数は7~8割ぐらいだろう。

 文章はこなれていて読みやすく、親しみやすい。内容は先の「カラスの教科書」に比べるとやや突っ込んだ話が多いが、素人でも充分についていける。「カラスの教科書」は国語が得意なら小学生の高学年でも楽しめる程度、これは国語と理科が得意なら小学生の高学年でも楽しめる程度、ぐらいか。

 それと、あまり言いたくはないが、文字サイズが大きいのはありがたい。そういう歳なんです、はい。また、双眼鏡が欲しくなるかも。相変わらず植木ななせのトボけたイラストがいい味出してる。

【構成は?】

 一応、構成は順番通りに並んでいるようだが、美味しそうな所だけを読み散らかしても楽しめる。

  • はじめに
  • 授業の前に
    • カラスって何でしたっけ?
    • 食べるな危険
    • カラスはどうして黒いのかなあ?
  • 一時間目 歴史の時間
    • カラスの系統学
  • 二時間目 カタチの時間
    • カラスの形態と運動
    • ヘッツァーとハシブトガラス
  • 三時間目 感覚の時間
    • 嗅覚編
    • 視覚編
    • 聴覚編
  • 四時間目 脳トレの時間
    • 鳥アタマよ、さらば
    • カラスの知能、再び
    • カレドニアガラスの道具使用
  • 五時間目 地理の時間
    • ミヤマガラスとコクマルガラス
    • ヨーロッパのカラス科たち
  • 六時間目 社会Ⅰの時間
    • カラスの配偶システム
    • 営巣場所と造巣行動
    • ハシボソさんとハシブトさんの種間関係
    • ねぐら
    • カラスの集団と社会
  • 七時間目 社会Ⅱの時間
    • 被害防除に関する、多少は真面目な話
    • カラスはいかにして悪魔の化身に堕とされしか
  • 実習 野外実習の時間
    • 鴉屋の今日の町を走ること
    • 鴉屋の京都御所にて悪戦苦闘すること
  • おわりに
  • 参考文献とオススメ文献
  • おまけ カラスくんまんが

【感想は?】

 そう、センス・オブ・ワンダーだ。

 センス・オブ・ワンダー。SF者にはお馴染みの言葉だが、その意味は人によって違う。「なんか変だけど面白い」だったり、「その発想はなかった」だったり、「なぜそんな事を思いつく?」だったり。

 この本の場合、「あれ?そうだったの?」とか、「俺はずっと勘違いしてたのか!」とか、「そういうのもアリなのか」とか、「その手があるのか!」とか、「よかった、俺だけじゃなかった」とか。いや最後のは少し違うけど。

 そういう、盲点を突かれたり、世界観をひっくり返されたりする話が、ドッサリ載ってる。普通は勘違いを指摘されると、ちょっとムカつくもんなんだが、本ってのは読んでる本人しかわからないから人前で恥かく心配がないんで有り難い。脳みそのシワに溜まったアカが洗い流されるような爽快感がある。

 しかも、この本は、著者のとっつきやすい文章に加え、植木ななせによる微妙にユルいイラストが、親しみやすさを増している。粗い紙質や頁の行数の少なさも、計算した上での選択なんだろう。

 こういったヴィジュアル面でのセンス・オブ・ワンダーが強いのが、84頁にある(松原始による)ハシボソガラスの骨格イラスト。まるきし恐竜である。ただし足、特に脛が長くてスタイルがいい所が違う。やっぱり鳥は恐竜の生き残りなんだなあ。

 しかも、くるぶしの位置がヒトと全く違う。というか、私たちに見えている鳥の足ってのは、ヒトだと足の甲にあたる部分だけ。ネコやイヌと同じように、彼らは常につま先立ちなのだ。というか、ヒトみたく足の裏を地面にベッタリつける方が、生物としてはむしろ珍しいんじゃないかと思えてくる。

 やはり同様に足元をすくわれる感覚が味わえるのが、カラスの知能を考える「四時間目 脳トレの時間」。私たちは犬や猫や鳥に対して、頭がいいとか悪いとか言うけど、知能を測るモノサシの座標は何なんだ?という話。

 ヒトとカラスは、体も違えば生き方も違うし、生きている環境も違う。けれど、ヒトが動物の知能を測る時は、往々にしてヒトの生き方・環境を基準に頭の良しあしを語ってしまう。それってどうなの? そう、カラスにはカラス向きの知能があるし、ハシブトガラスとハシボソガラスでも違うんだぞ、と。

 このあたりは、良くできたファースト・コンタクト物のSFを読んでるような感じで、なかなか心地よかった。わざわざ他の星まで出かけなくても、私たちの身の回りにエイリアンはたくさんいるのだ。

 ただ、コミュニケーションはやたら難しい。なにせ感覚器からして違う。鳥や昆虫はRGBに加え紫外線も見えるのだ。しかも「色彩分解能も高い」。私には同じ色に見えても、鳥には見分けがつくらしい。鳥型エイリアンを出すなら、優れたファッション・センスを持たせるべきだろう←違う。

 コミュニケーションったって、そんなモン取りたがってるのは人間だけだ。カラスはマイペースで自分の人?生を生きている。それでも相手にしてほしけりゃ、人間がカラスのコミュニケーションを学ばにゃならん。そのためにはまずじっくり観察。

 とは言っても、何をどう観察すりゃいいのか、素人にはわからない。そこで、様々な観察法を教えてくれるのも嬉しい所。

 科学ってのは、往々にして何かを数字にする所から始まる。この本では、今までの研究で、何をどう数え計ったかが出てきて、ちょっとした野鳥観察のガイドになっているのも嬉しい。まあ、野鳥ったって、私の場合はスズメとハトとムクドリとカラスぐらいなんだが。

 例えば、歩き方。スズメは、ピョンピョンと跳ねる。対してハトはひょこひょこと歩く。小さい鳥は跳ねるのかと思ったら、セキレイあたりはとても器用にテケテケと走っていく。同じ鳥でも全然違う。言われてみれば「そうだね」だけど、私は今までそんな事は全く意識していなかった。こういう事を知ると、見慣れた風景も違って見えるから楽しい。

 アニメを作る人は、こういう観察眼が優れてるんだろうなあ。とか思ったら、目を鍛える方法も出てきた。スケッチである。どうやら生物学者に絵心は必須らしい。ちゃんとやれば、個体も識別できるようになるとか。私もせめてハシブトとハシボソの違いぐらいはわかるようになりたい。

 当然、他の事も測る。地上滞在時間とか、何かを突っつく回数とか、歩く歩数とか。これがハシブトとハシボソでかなり違うんで、最初は行動で見分けてみよう。ハシブトは目標めがけてスッと舞い降り、あまし地上には留まらない。対してハシボソは石をひっくり返したり地面をつついたりと、忙しい。

 とかを読んでると、いい双眼鏡が欲しくなるから困る。

 などの真面目な話も面白いが、他の生物や学者の逸話も楽しいのが多い。特に強烈なのがコンラート・ローレンツで、悪魔のコスプレで屋根に上ったり、耳にミールワームを突っ込まれそうになったりと、なかなか楽しい人生を送ったようだ。人類学者が彼を観察したら、頭を抱えるんじゃなかろか。著作じゃ「攻撃」や「ソロモンの指輪」が有名な人だけど、自伝を書いてたらベストセラー間違いなしだったのに。

 ユーモラスな文章と愉快なエピソードで読者を惹きつけつつ、知らぬ間に科学の基本を洗脳する恐るべき書物。植木ななせによる肩の力が抜けたイラストに騙されて手に取ると、理系人間に改造されてしまう困った本だ。

 それと、旅行の楽しみが一つ増えるかもしれない。なにせ旅先で見かける生き物は、日頃の生活圏にいる生き物と違うのだから。

【関連記事】

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年5月14日 (日)

松原始「カラスの教科書」雷鳥社

ねぐらはだいたい、夜間人通りの絶えるような森だ(時に市街地の、それも電線で寝ていることもあるが、今のところ例外的)。神社や大きな公園が多い。
  ――カラスの一生

実は、都会のハシブトガラスの食生活はゴミ、そして貯食に頼り切っていると言っても良いくらいだ。
  ――カラス的グルメ

路上にゴミを出すというのは、カラスに餌を与えているに等しいわけだ。
  ――それはゴミではありません

カラスが人間に敵対的な態度を取るのは雛を守る時だけである
  ――頭を蹴られないために

【どんな本?】

 黒くて図体はデカい上に態度は威圧的で図々しく、朝夕にはギャアギャアとうるさく鳴きわめき、物干し竿からハンガーをかっぱらい、ゴミ集積所にたむろしてはビニール袋をまき散らす、都会の嫌われ者カラス。

 奴らは何者なのか。野生動物のくせに、なんだってコンクリート・ジャングルに居座っているのか。何を食ってどこで寝て、どうやってナンパするのか。幼児が襲われて怪我をすることはないのか。賢いと言われるが、本当なのか。

 カラスに憑かれた動物行動学者が、カラス(と動物学者)の生態を愛情とユーモアたっぷりに語る、一般向け科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年1月20日第1刷発行。私が読んだのは2013年1月29日発行の第2刷。売れたんだなあ。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約390頁。9.5ポイント39字×14行×390頁=約212,940字、400字詰め原稿用紙で約533枚。文庫本なら標準的な分量だが、愉快なイラストが沢山載っているので、文字数は7~8割ぐらいだろう。なお、今は講談社文庫から文庫版が出ている。

 文章はとても読みやすい。内容も、特に前提知識は要らず、とってもわかりやすい。ただし、今の季節に読むと、キョロキョロと上を見あげながら歩くクセがつくので、怪しい人と思われるかもしれない。

 また、ふんだんに収録した植木ななせのユーモラスなイラストも、この本の欠かせない魅力。ちゃんと表紙に名前を載せてもいいと思う。

【構成は?】

 一応、前から順番に読む構成になっているが、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • 序 明日のために今日も食う
  • この本に登場するカラスたち
  • 第一章 カラスの基礎知識
    • カラスという鳥はいません
      いや、いるんですけどね
    • カラスの一生
      昔は仲間とつるんでブイブイいわせたもんですが
    • カラス君の家庭の事情
      神田川とニートとちゃぶ台返し
    • カラス的グルメ
      私、マヨラーです
  • 〔カラスのつぶやき1 カラスに負けた〕
  • 第二章 カラスと餌と博物学
    • カラスの採餌行動
      餌を手に入れる方法あれこれ
    • カラスのくちばし
      その行動と進化
    • 山のカラスたち
      「野生の」ハシブトガラスの暮らしぶり
    • カラスの遊びと知能
      難しいので、ちょっとだけ
    • 太陽と狼とカラス
      神の使いか、魔女の眷属か
  • 〔カラスのつぶやき2 旅鴉のカラス旅〕
  • 第三章 カラスの取り扱い説明書
    • それはゴミではありません
      ビニール袋+肉=?
    • カラス避けの効果
      採餌効率と環境収容力
    • 頭を蹴られないために
      初級カラス語会話
  • 〔カラスのつぶやき2 旅鴉のカラス旅〕
  • 第四章 カラスのQ&A
    • よくある質問
      カラスの祖先ってどんな鳥ですか?
    • カラスの絵本図書館 その1
    • 哲学的な質問
      カラスに死の概念はあるの?
    • カラスの絵本図書館 その2
    • マニアックな質問
      カラスって食えるんですか?
  • 結 何はなくても喰ってゆけます
  • 主要参考文献
  • おまけ あなたのカラス度診断

【感想は?】

 確かに迷惑なヤツなのだ、カラスは。でも、これを読むと、ちっとは可愛がってやろうかな、なんて気になるから危ない。

 鳴き声がうるさいのはともかく、ゴミ袋をつついて中身をまき散らすのは困る。鳥はなんでもそうだが、糞も問題だ。汚いってだけじゃなく、金属を腐食させるんで、橋を劣化させたりする。

 日本の都市部で多く見るのはハシブトガラス(→Wikipedia)。奇妙な事に、日本以外ではあまり見ない上に、なんと元は森林性だとか。ビルなどで高低差ができたのが良かったんだろうか。にしても、よく適応したものだ。

 次に多いのがハシボソガラス(→Wikipedia)で、これは畑や河川敷などの開けた地形に多く、ユーラシア全般に広がっている。ハシブトは体重600~800g、ハシボソは400~600g。都会のカラスはデカいのだ。「最近のカラスは大きいなあ」と思ったら、都市化が進んだ証拠かもしれない。

 いずれにせよ、体重はヒトの方が百倍近く多い。バトルは体重が多い方が有利だ。百倍ともなれば決定的な差である。三毛別羆事件(→Wikipedia)の羆だって、体重は350kgとヒトの十倍はいかない。それでも、素手で熊に立ち向かうのはウィリー・ウィリアムスぐらいだ。

 つまり、カラスがヒトに向かってくるとしたら、よほど追い詰められ、「どうせ死ぬなら」ぐらいに思い詰めた時だけらしい。具体的には、「雛を守る時」だというから泣かせるじゃないか。頑張れ父ちゃん。季節的には五月から六月。ちょうど、この記事を書いてる季節だ。

 雛は巣で育てる。巣の近くに人がいて、しかも巣の方をジロジロ見ていると、「コイツはヤバい」と思い追い払おうとするらしい。最初は鳴いて警告し、次第にうるさい声で脅し始め、それでもどかないと特攻を仕掛ける、そういうパターンだとか。

 しかも決して正面からは仕掛けず、後ろから頭をカスめるように飛んでくる。この時、カラスの足が人の髪にひっかかる事があり、これが人から見たら「カラスに襲われた」って形で伝えられてしまう。

 もっとも、ゴミ漁り中のカラスはけっこう図々しかったりする。なまじ図体がデカいから人もビビって避けて通るんだが、これが繰り返されるとカラスも学習して、人をナメてかかるようになる。ということで、カラスに襲われたくなければ、脅して追い払うのも一つの手。

 贅沢な事に、カラスは巣とねぐらが別だ。巣は育児用、ねぐらは就寝用。巣立った雛は暫くねぐらで過ごし、ここで彼氏・彼女を見つけるとか。巣を作る前にカノジョをゲットするのだ。寿命もけっこう長く、巧くすれば30年~20年ぐらい生きるとか。

 などと書くと、かなり分かっているようだが、意外と分かってない事も多い。「カラスは行動圏広すぎて見えねえ、捕獲できねえ、標識できねえ、年齢わからねえ、巣が高すぎて覗けねえ」と、研究しづらいのだ。珍しくないのが仇になり、かえって誰も研究しようとしなかったり。この辺はスズメと似てるかも。

 加えて、本来は森林性といわれるハシブトガラスを観察しようと、屋久島に出かけてみたら、いるにはいたが…

屋久島の森林では、カラスが30秒で飛ぶ距離を歩いて突破するのに30分かかる事も珍しくない。
  ――山のカラスたち

 と、追いかけるのも一苦労。と同時に、生存競争で空を飛べることの利点もつくづく感じたり。

 やはりよく分からないのが、八重山での観察。黒島・波照間島のカラスは大きく、西表島のカラスは小さい。一般に生物は小さい島で小さくなるんだが、Wikipedia によると西表島は289.61km²、波照間島は12.73km²、黒島は10.02km²。広い島の方が小さいとは謎だ。

 都市部に話を戻すと、ハシブトガラスが食ってるのは、主に私たちヒトが出すゴミ。面白い事に、酔っぱらいが吐いたゲロも喜んで食い、綺麗に片づけてくれる。いずれにせよ、連中はヒトの出すゴミに頼ってるんで、出したゴミ袋にはキチンとネットを被せるのが、カラス対策には最もいい。

 とかの真面目な話も多いが、ユーモラスな語り口や、肩の力が抜けた植木ななせのイラストが、親しみやすさをグッと増してる。憎たらしいカラスが、ちょっとだけ可愛くなる本だ。でも餌はやっちゃダメよ。

【関連記事】

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年5月12日 (金)

ジョン・スコルジー「老人と宇宙6 終わりなき戦火」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

さて、ぼくがどうやって箱の中の脳になったかを話さなければ。
  ――精神の営み

「ターセム、わたしはあなたにとってはエイリアンです。あなたもわたしにとってはそうです。だれもがおたがいにとってはエイリアンなんです」
  ――この空疎な同盟

「船長、問題はおれが偏執狂的だということじゃない。問題は宇宙がおれの偏執を正当化し続けていることなんだよ」
  ――生きるも死ぬも

【どんな本?】

  アメリカの人気SF作家ジョン・スコルジーの看板シリーズ「老人と宇宙」第6弾。

 人類は宇宙に進出したが、そこは弱肉強食のバトルロイヤル世界だった。急激に勢力を伸ばす人類を他種族は警戒し、やがて多くの種族が参加するコンクラーベが発足、人類のコロニー連合と対立する上に、コロニー連合は地球とも険悪になっていた。

 レイフ・ダクインは元プログラマーで、失職中の32歳。友人のハート・シュミットのツテで貨物船チャンドラー号の第三操縦士の職を得た。決まった航路をまわる交易船で、刺激はないが安定している。最初の航宙では外務副長官のタイスン・オカンボが客として乗り込んできた。

 そしてレイフは箱の中の脳になった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The End of All Things, by John Scalzi, 2015。日本語版は2017年3月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約489頁に加え、おまけで没原稿の一部「もうひとつの『精神の営み』」39頁+訳者あとがき6頁。9ポイント41字×18行×489頁=約360,882字、400字詰め原稿用紙で約903枚。おまけも含めると上下巻に分けてもいい分量。

 文章はこなれている。表紙でわかるように、エイリアンがうじゃうじゃ出てきて宇宙を飛び回る娯楽スペース・オペラなので、そういうのが好きな人向け。また、背景となる地球・コロニー連合・コンクラーベなどの関係が重要なので、理想を言えばシリーズ最初の「老人と宇宙」から、お急ぎの人は前の「戦いの虚空」から読むのを勧める。

【感想は?】

 謎また謎、危機また危機と、売れる小説の定番をキッチリ抑えた娯楽作。

 出だしの最初の行からして巧い。「さて、ぼくがどうやって箱の中の脳になったかを話さなければ」。いきなり語り手が悲惨な事になってて、インパクトは抜群。

 どうやら脳だけを取り出され、脳だけの状態で生かされているらしい。読者をギョッとさせた上に、なぜそんな事になったのかって謎が、読者を物語へと引き込んでゆく。おまけの「もうひとつの『精神の営み』」と比べると、この出だしの巧みさがよくわかる。

 全体は四部に分かれる。「精神の営み」,「この空疎な同盟」,「長く存続できるのか」,「生きるも死ぬも」。それぞれ、同じ事件を異なる人物の一人称で語った形だ。

 おまけの「もうひとつの『精神の営み』」は、冒頭の「精神の営み」の没原稿だ。読み比べると、ジョン・スコルジーほどの売れっ子でも、相当に推敲を重ねているのが伝わってきて、お話作りの苦労と工夫の跡がハッキリ見えて楽しいし、物書きを目指す人には参考になるだろう。アメリカSFファンタジー作家協会の会長経験もある人なんで、若手育成の参考にって事なのかも。

 冒頭の「精神の営み」は、貨物船の第三操縦士になる筈が、脳だけになっちゃったレイフ君の冒険物語。日頃から無駄な仕様変更や機能追加で部下をコキ使う陰険な上司にイジめられているプログラマ諸氏には、とっても爽快なお話なので、是非読もう。

 続く「この空疎な同盟」では、コンクラーベのNo.2、ハフト・ソルヴォーラが語り手を務める。宇宙における最大勢力コンクラーベのNo.2なんて絶大な権力を持ちながら、あまり野望や欲には縁のないハフトのキャラが存分に生きるパート。

 スタートレックのスポックよろしく、感情や熱情より冷静かつ論理的に考える人というかエイリアン(ララン族)。ただし空気を読むのも巧く、各勢力の目的と動向も見据え、時には陰険な手も使って調整を計るあたりは、極めて優秀な官僚と言っていいい。

 彼がNo.1のターセム・ガウ将軍と、ララン族の児童公園で語り合う場面は、エイリアンうじゃうじゃのスペースオペラならではのセンス・オブ・ワンダーを味わえる名場面だろう。こういう、ヒトが「普通そうだろ」と決めてかかってる常識をひっくり返してくれるのも、SFの心地よい所。結局、私たちの倫理ったって、私たちの都合に過ぎないんだよなあ。

 加えて、ここでは救助用シャトルの操縦士、トーム・アウルのパイロット気質が心地いい。やっぱり腕自慢が集まる職業ってのは、こういう奴が多いんだろう。

 第三部の「長く存続できるのか」は、CDF中尉ヘザー・リーが語り手を務める、この作品で最も激しいバトル・アクションが展開するパート。様々な身体改造を受け、コロニー連邦ならではのテクノロジーで武装したCDFならではの将兵の活躍をご堪能あれ。

 でも最も印象に残るのは、妙にローテクっぽいファネルだったりする。これ仕掛ける方もやられる側も、やたら大掛かりな割にどうにも間抜けなのがおかしい。加えてコンバット物なためか、兵隊同士の無駄でユーモラスな会話も、スコルジーならではの味。

 そして最後の「生きるも死ぬも」は、お馴染みのお騒がせ中尉ハリー・ウィルスンが登場。前の「戦いの虚空」でも、色々と無茶ぶりされてはツケを回される役割のハリー、ここでもお約束通り虚空に突き落とされます。スコルジーお得意のリズミカルで気の利いた会話もエンジン全開で、最近のハリウッドのアクション大作みたく心地よいテンポで話が進み、派手な展開が楽しめる最終章。

 巧みな出だし、危機また危機の緊張感、ガジェットてんこもりのバトル、小気味よい会話、そして壮大なエンディング。スコルジーの職人芸が光る、心地よい娯楽スペース・オペラだ。

【関連記事】

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«佐原徹哉「国際社会と現代史 ボスニア内戦 グローバリゼーションとカオスの民族化」有志舎