2017年10月19日 (木)

ペーター・ペフゲン「図説 ギターの歴史」現代ギター社 田代城治訳

ギターはその長い歴史の中で、考えられる限りの経験をしてきた。それは非常な敬意を払われると同時に、蔑まれてもきた。それは王侯や皇帝の宮廷でも弾かれたし、酒場や娼窟でも弾かれた。
  ――日本語版への序文

その発展史を通じてずっとそうだったように、ギターは現在も変化を加えられ、細工され、修正され、改良され続けている。いったい誰がこの時代に、新型のヴァイオリンやオーボエを作ろうと考えるだろうか?
  ――第1章 多彩な顔を持つ楽器

やがて明らかになるように、スペインは本当の意味でギターの発展が集中的に行われた国である。
  ――第3章 中世ヨーロッパにおけるギターの発展

変化する音楽は別の楽器を要求する。逆に言えば、楽器製作上の発展は別種の音楽と別種の演奏を可能にする。
  ――第5章 第5の弦

巻弦の発明は楽器の構造に革命をもたらした。新しい弦素材はわずかな太さでよく、響きの上でも倍音が豊かだったから、ほどなくギターは⑥弦をプラスされただけでなく、複弦も不要となった。
  ――第6章 5コース、6コース、そして6単弦へ

ギター史上のいかなる人物も、フランシスコ・エイクセア・タレガ Francisco Eixea Tárrega ほどに、多くの具体的で革命的な、救世主的偉業と革新について感謝を集めている者はいない。
  ――第8章 20世紀

【どんな本?】

 クラシックはもちろん、タンゴやフォルクローレなどの民族音楽・カントリー・ブルース・ジャズ・ロックなどのポップミュージックでも大活躍しているギター。ただ、ギターと一言で言っても、その形や弾き方はバラエティに富んでいる。

 弦の数は6本が普通だが、4本から18本まである。弦の材質もスチール・ナイロン・ガットと様々。ボディは形もひょうたん型が中心だが、腰のくびれやお尻の大きさはそれぞれ。底板も平らなものが多いが、微妙な丸みがついているものもある。指板のフレット数も一定しない。

 チューニングもオープンGなど多種多様だし、弦の弾き方も指の腹だったり爪だったりピックを使ったり。これがエレキギターになると、更にバリエーションが広がってキリがない。バイオリンなどの他の楽器では考えられない柔軟さだ。

 などと、21世紀の今日でも進化を続けるギターは、どのような経緯で生まれ、育ち、現在へと至ったのか。その過程では、どんな演奏者がどんな音楽をどう奏で、それを世間はどう評価したのか。現在のひょうたん型のボディと6コースの弦は、いつ定まったのか。

 多くの人に愛されるギターの歴史を、豊富な図版と共に解き明かす、ギターマニア感涙の書。

 ただし、本書が扱っているのはクラシックだけで、エレキギターはほとんど出てこない。そこは要注意。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Die Gitarre : Grundzüge ihrer Entwicklung, von Peter Päffgen, 1988。日本語版は1997年12月12日第1刷発行。単行本ハードカバー横二段組みで本文約219頁に加え、あとがき1頁+訳者あとがき1頁。9.5ポイント21字×34行×2段×219頁=約312,732字、400字詰め原稿用紙で約782枚。文庫本なら厚めの一冊分。

 ただし書名のとおり写真やイラストや歴史ある楽譜・絵画などをたくさん収録しているので、実際の文字数は6~7割程度。

 文章はかなり硬い。また、内容も、音楽とギターについて、多少の知識が必要。例えば6コース12弦と言われて、「なるほど12弦ギターか」とわかる程度の前提知識が欲しい。また、撥(バチ)をプレクトラムと書いてたり。加えて、中盤以降は五線譜が出てくるので、読めると更に楽しめる。いや私は読めないんだけど。

【構成は?】

 原則として時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

  • 第1章 多彩な顔を持つ楽器
  • 第2章 ヨーロッパにおけるギターの起源
    • 起源はヒッタイトとバビロニアか?
    • エジプトはギター発祥の地か?
    • 古代ギリシャのギター
  • 第3章 中世ヨーロッパにおけるギターの発展
    • ギター誕生の地はスペインか?
    • 初期の文献
    • 爪弾かれたのか、掻き鳴らされたのか、弓で弾かれたのか?
    • ヨーロッパのリュート
    • ギターはムーア人の楽器か?
  • 第4章 16世紀のギター属楽器
    • タブラチュア
    • 文献
    • スペインのビウェラ
    • ヴィオラ:イタリアのビウェラ
    • ビウェラ奏者とそのレパートリー
    • 演奏テクニックと演奏の実際
    • ビウェラとギターラ
      • ギターラ・セラニスタ
      • ギターラは小型のビウェラか?
      • 史料
    • 発展の起点か?
  • 第5章 第5の弦
    • タブラチュア
      • フアン・カルロス・イ・アマートの『スペイン式ギターとパンドーラ』
      • イタリア式「アルファベット」
      • 複式タブラチュア
    • ギター奏者とその作品
      • イタリア人たち
      • フランス楽派
      • スペイン楽派
    • 楽器
      • キタラ・バテンテ
  • 第6章 5コース、6コース、そして6単弦へ 近代的な特性を持つ楽器への変遷
    • タブラチュアの終焉
    • 作曲家とその作品
  • 第7章 19世紀のギター
    • 古代ギリシャへの追想 リラ・ギター
    • パリ,ウィーン,ロンドン,ペテルスブルグ遍歴のヴィルトゥオーゾとその作品
    • 演奏テクニックの革命
    • 新たな衰退か? 19世紀後半
  • 第8章 20世紀
    • 新世代の曙 フランシスコ・タレガ
    • タレガの使徒たち
    • アンドレス・セゴビア
    • セゴビア・レパートリー
    • 「爪弾くヴァイオリン」からギターへ
    • 新たな第一歩
    • 第2世代 第2軍?
    • 現代クラシック音楽のレパートリー
    • 作曲されたフォルクローレ 南米のギター音楽
    • こんにちの広範な活動民衆楽器となるギター
    • 新世代のギタリストたち
    • 若きヴィルトゥオーゾとそのレパートリー
  • あとがき
  • 訳者あとがき
  • ギター史年表
  • 参考文献一覧
  • 図版出典一覧
  • 索引

【感想は?】

 楽器には序列がある。女王はパイプオルガンだろう。さて、ギターは、というと…

 その前に、まずはギターの起源だ。残念ながら、この本ではハッキリしない。このあたりは学者らしく、レリーフや壺の絵などの資料を示しながらも、「よく分からない」と慎重な姿勢だ。

 どうやら「紀元前4000年から2000年あたり、それも差し当たり西南アジアとエジプト」としているが、弾き方まではわからない。ただ、胴のくびれの意味は、構造上の都合らしい。ギターの胴は張った弦に引っぱられる。胴がまっすぐな形だと、弦の力で胴がゆがんでしまう。どうしよう?

「葉巻の箱(……)を想像してみるがよい。今度のは側面がやや内側にくびれており、少しでもこの箱をたわめることは不可能だ」

 と、弦の引っ張りに対し、構造材を斜めに入れる事で抵抗力を増したわけ。結局、楽器も工学製品なんだなあ。

 ただ、この後の歴史も判然としない。ギリシャ時代までは多少の史料もあるが、話は一気に15世紀のレコンキスタ(→Wikipedia)へと飛ぶ。とするとムーア人(→Wikipedia)の置き土産みたいだが、そこも断言はしていない。記録が残りやすい文字や絵画に比べ、音は残らないってのが音楽の辛い所。

 とまれ、それでも1500年あたりには楽譜が出回り始めた。嬉しい事に、タブラチュア、俗称TAB譜だ。ここからコースの数とチューニングもわかり、今のギター同様6コースでチューニングも同じらしい。ややこしいのは、ビウェラとギターラと二つの名があること。

 これは楽器の序列の問題で。ビウェアは王侯貴族のもので、ギターラは庶民の楽器という位置づけだ。バイオリンとフィドルみたいなものだろうか。ただしギターラは小型で、4コース。ウクレレかい。

 この序列の問題は現代まで尾を引いてるのが切ない。つまり、クラシックの世界じゃギターはスターじゃないのだ。よって演奏家もギタリストはピアニストやバイオリニストほどもてはやされない。これをなんとかしようとするギタリストの努力を、本書の中盤以降で詳しく描かいてゆく。

 それはさておき、ビウェラ&ギターラで面白いのは、チューニング。曰く、「①弦をできるだけ高く調弦する」。

 今のように、音の高さは、絶対的な周波数で決まってたわけじゃないのだ。全体として調律があっていればいい。独奏なら、それでいいんだろう。また、最高音の弦が基準となるのも、当時ならでは。

 弦っは強く張れば高い音が出る。ただし、あまり張り方が強すぎると、弦が切れてしまう。特に、最も高い音の弦がいちばん切れやすい。そこで①弦を基準とするわけ。弦の素材については書いてないけど、たぶんガット(羊などの腸)だろう。

 弾き方もビウェラとギターラは違う。ビウェラは単音または複音なんで、メロディーを爪弾くのに対し、ギターラはバチでコードを掻き鳴らす。これが互いに影響し合い…

 とまれ、音の小ささは致命的で。この問題を解決するために、最初は複弦にしたり低音弦を追加していたのが、巻弦の登場で「これでいんじゃね?」となる。テクノロジーがギターを救ったのだ。

もっとも、音の小ささは今でも残ってて。アンプで増幅できるロックじゃ、ギタリストはバンドの花形だけど、生音でオーケストラと張りあわにゃならんクラシックじゃ、ギタリストがソロを取るなんて場面は滅多にないのが悲しい。

 やがてテクノロジーは表面板の補強材や指板の素材なども変えてゆく。ギターそのものも、フェルナンド・ソルやフランシスコ・タレガなどスターの登場と退場と相まって浮沈を続ける。アンドレス・セゴビアについても、功績は賞賛しつつチクリと刺すのも忘れないあたりは、音楽家らしい意地の悪さがチラホラw

 安易に俗説に流されず、あくまでも資料を元に慎重な態度で記された学術的な本だ。それだけにまだるっこしい部分もある。だが、ギターマニアなら、豊富に収録された絵画や写真を見るだけでも涎が止まらないだろう。そう、まさしくギターマニアのための本なのだ。

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2017年10月17日 (火)

A・E・ヴァン・ヴォクト「宇宙船ビーグル号」浅倉久志訳 早川書房世界SF全集17

二足生物たちの故郷の惑星には、きっと無尽蔵のイドが彼を待っているにちがいないのだ。
  ――黒い破壊者

情報総合学とはなにか?
それは、
一分野の知識を、他の諸分野の知識に、
秩序正しく結びつける科学です。
  ――神経の戦い

イクストルは果てしなく広がる夜のなかに、身動きもせず、だらりと横たわっていた。彼はゆっくりと永遠への歩みをつづけており、空間は底知れぬ暗黒だった。
  ――緋色の不協和音

「単なる意見だが」と、グローヴナーの背後のだれかがいった。「回れ右して故郷へひき返すべきじゃないかな」
  ――M-33星雲

【どんな本?】

 SF界のレジェンド、A・E・ヴァン・ヴォクトによる、古典的で稀有壮大なスペース・オペラ・シリーズ。

 遠い未来。人類は太陽系を飛び出し、銀河系へと進出していた。更なる宇宙の秘密を解き明かそうと、多くの探査船が銀河へと向かう。しかし宇宙には人類が未だ知らない危険が満ちており、多くの探査船が消息を絶ってしまった。

 この問題に対処するために計画されたのがビーグル号である。大型の宇宙船に千人近い科学者と軍人を搭乗させ、その頭脳を結集すれば、未知の危機にも対処できるであろう。そしてもう一つ、ビーグル号には新しい試みがなされていた。エリオット・グウローヴナーも参加しているのである。彼の専門は情報総合学であり…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Voyage of the Space Beagle, by A. E. Van Vogt, 1950。日本語版は1968年12月31日初版発行。単行本ハードカバー縦二段組みで本部約204頁。8ポイント26字×19行×2段×232頁=約229,216字、400字詰め原稿用紙で約574枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。

 文庫版は二つ出ている。ハヤカワ文庫SFより浅倉久志訳で「宇宙船ビーグル号」、創元SF文庫より 沼沢洽治訳で「宇宙船ビーグル号の冒険」。創元SF文庫の新版は2017年7月に出たばかりなので、手に入れやすいだろう。

 文章はこなれている。古典だけあって、出てくるガジェットそのものはSFファンにお馴染みのものが多い。ただし次から次へと大量の仕掛けが出てくるので、SFに慣れない人には辛いかも。動作原理などを作中で色々と理屈をつけちゃいるが、大半はハッタリなので、深く考え込まないこと。特に相対論関係のツッコミは厳禁w

【収録作は?】

 長編の形になってはいるが、実質的には四本の短編を繋げて編集した形なので、ここでは連作短編集として扱う。

 以下、作品名は日本語の作品名/原題/初出 の順。

黒い破壊者 / Black Destroyer / アスタウンディング誌1939年7月号
 静寂に満ちた星で、実りのない狩りを続けるクァール。そこに小さな光点が近づいてくる。やがて光点は巨大な銀色の球体となり、中から二本足の生物が出てきた。あの原形質をむさぼりたい。膨れ上がる欲望を抑え込み、静かに獲物へ近づく。今は警戒させない方がいい。
 スペース・オペラのスーパースター、クァールが登場する伝説の作品。大きな黒猫に似ているが、耳の巻きひげは電磁波を操り、両肩には器用に動く触手が生えている。酸素も塩素も呼吸でき、その筋力は鋼鉄をもへし折る。
 タフでパワフルな肉体に加え、その性格は凶暴にして残忍かつ執念深い。獲物を追い始めれば百日でも追い続けるが、食うのは死んだ直後の獲物だけ。おまけに高い知能を持ち…と、悪役ながら実に魅力的な設定。
 何より、猫に似ているってのがズルいw 可愛い上にカッコいいってのが、もう反則スレスレ。そんなクァールをナメてかかり、まんまと騙されるビーグル号の面々に、思わず同情しちゃったり。
神経の戦い / War of Nerves / アザーワールズ誌1950年5月号
 クルーに情報総合学の理解を深めてもらおうと、グローヴナーは講演を開く。しかし、あいにくと隊長選挙の演説会と時間がカブり、講演会場はガラガラ。それでも参加者がいるだけマシ、と情報総合学を紹介したグローヴナーが、宇宙空間を眺めていた時、それが起こった。
 外からやってくるエイリアンの脅威に加え、船内でも主導権をめぐり搭乗員同士の勢力争いがあるのが、このシリーズの特徴の一つ。この作品では、憎まれ役のケントが次第に存在感を増してくる。日系のコリタに数少ない理解者の役を割り振ったのも、時代背景を考えると大胆な試みかも。
 もう一つの読みどころは、特殊な「思考」や「感覚」の描写。スランにおける同族との会合シーンもそうだったんだが、テレパシーの描き方が、この人は抜群に巧い。単に「思考を読む・伝える」だけでなく、それに伴う副作用をキッチリ練り込んで書き込むことで、読者に「おお、なんか科学的っぽい」と思いこませる、独特の迫力に満ちている。
緋色の不協和音 / Discord in Scarlet / アスタウンディング誌1939年11月号
 前の宇宙の爆発で吹き飛ばされたイクストルは、島宇宙のはざまに漂っていた。時空間を渡る光エネルギーも、次第に貧しくなってゆく。そこに、エネルギーの励起状態が飛び込んできた。力場を広げ、ソレの巨大なエネルギーをむさぼる。蘇った活力で、逃げようとする獲物を追いかけ…
 いきなり「前の宇宙の生き残り」と、壮大な風呂敷を広げてくれる作品。発表年を見ると、ビッグバン理論の黎明期だ。ハッタリ屋のヴォクトも、当時の最新科学の成果を積極的に取り入れていた模様。
 と、仕掛けは大掛かりながら、ドラマとしては、閉ざされたビーグル号船内でのハンティング劇となる。もっとも、狩られるのがどっちかは難しいところだがw かなり広い設定のビーグル号だが、この作品ではイクストルの特異能力により、逃げ場のない閉塞感が漂ってくる。
 しかもこのイクストル、実におぞましい性癖を持っていて、この感じなんか覚えがあるなあ、と思ったら、やっぱり某大ヒット映画シリーズだった。
M-33星雲 / M33 in Andromeda / アスタウンディング誌1943年8月号
 M-33渦状星雲へと向かうビーグル号に、何者かが干渉してきた。その効果は脳波修正装置に似ており、搭乗員の脳に作用する。しかも、情報総合学室の遮蔽装置すらつらぬく、おそろしく強力な威力を持っている。
 エイリアン視点で描く「黒い破壊者」や「緋色の不協和音」とは対照的に、この作品ではなかなか敵の正体が掴めない。ホラー・タッチのファースト・コンタクト物としてはオーソドックスな手法ながら、エイリアンの能力も相まって、不気味さがいっそう際立っている。
 また、今まで憎まれ役だったケントが、隊長代理となって更に存在感を増しているのも、この作品の特徴。あくまでクールに理詰めで攻めるグローヴナーに対し、あてこすりと扇動が得意なケント。二人の対比は、理屈っぽさで嫌われがちなSFファンには、美味しい隠し味として効いてきたり。

 ファースト・コンタクト物が大好きな私には、次々と登場する奇矯なエイリアンたちが楽しくてしょうがない。しかもホラー風味の味付けなので、映像化しやすいのも嬉しいところ。今ならCGを駆使すれば、可愛いけど凶暴なクァールも、さぞカッコよく描けるだろうなあ。

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2017年10月12日 (木)

A・E・ヴァン・ヴォクト「スラン」浅倉久志訳 早川書房世界SF全集17

なぜぼくが殺されねばならないんだ? なぜあんなにやさしくかしこい、すてきなおかあさんが殺されねばならないんだ?
  ――p9

「いいかね、大衆がたずさわっておるのは、いつもほかのだれかのゲームじゃ――自分自身のゲームではなくてな」
  ――p63

【どんな本?】

 アメリカSFの黄金期を築いたA・E・ヴァンヴォクトの、記念すべき処女長編。初出はSF雑誌アスタウンディング誌の1940年9月号より四カ月間の連載である。その間、人気投票では、全投票者がこの作品を1位に推すという快挙を成しとげている。

 遠い未来。世界政府の所在地セントロポリスで、9歳の少年ジョミー・クロスは母親と共に逃げ回っていた。今も多くの追手が迫っている。二人はスラン。二つの心臓を持ち、人の思考を読める。秘密警察はスランを狩り、市民もスランを憎み切っている。スランのしるし、一房の金色の触毛がバレれば命はない。

 ただ一つの望みは、父が遺した大地下道。その奥に、世界を変えうる秘密が眠っている。それを見つけ、辿りつき、秘密を読み解ける知識を身につけるまで、なんとしてもジョミーは生き延びねばならない。しかし、彼を守ってくれた母は…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は SLAN, by A. E. Van Vogt, 1940。日本語版は1968年12月31日初版発行。単行本ハードカバー縦二段組みで本部約204頁。8ポイント26字×19行×2段×204頁=約201,552字、400字詰め原稿用紙で約504枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。文庫本がハヤカワ文庫SFから出ているが、今は入手困難。図書館に頼るなら、全集の方が手に入れやすいだろう。

 文章はこなれていて読みやすい。超人類であるスランを始め、ケッタイなガジェットも続々と出てくるし、ちゃんと理屈もついている。しかも、当時の科学のレベルを考えると、幾つかのガジェットは予言が当たってたりする。が、実際はハッタリのまぐれ当たりだろう。あまり真面目に考え込まないこと。漫画を楽しむノリで「そういうものだ」で済ませておこう。

【感想は?】

 そのまま漫画化して週刊少年ジャンプで連載したら、大人気を博しそうな王道の娯楽冒険物語。

 とにかくテンポがいい。危機また危機、逆転に次ぐ逆転、そしてアッと驚くどんでん返し。短いサイクルで、これが何度も繰り返される。今の作家なら10巻の大作にしそうなストーリーを、一冊に詰めこんだジェットコースター・ストーリーだ。

 それだけ濃けりゃ説明じみて読みにくくなりそうなもんだが、全くそんな事はない。最初の3頁で重要な登場人物は全て揃い、主人公ジョミーの立場と目的、そしてこの作品全体を通してのテーマと、お話の向かう方向も見えてくる。しかも、主人公ジョミーの命が狙われている緊迫感の中で。

 人の思考を読めるスランの特殊能力も、普通なら有利に働きそうだが、冒頭ではこれが逆に危機感を煽るあたりも巧い。人があるれる大都会に、9歳の少年が放り出される。そして、全ての人がスランを憎んでいる。正体がバレたら命はない。

 なまじ人の思考が読めるだけに、ジョミーの恐怖は更に増す。少しでも怪しまれ通報されたら、それで終わりだ。しかも敵に容赦が期待できない事も、すぐに明かされる。

 ってな感じの危機感・緊迫感が、最初から最後まで途切れずに続くあたりは、とても処女長編とは思えぬ手際の良さ。

 75年も前の作品だけに、古さが気になるかと思ったが、とんでもない。とにかくお話が面白い上ので、早く次を読みたくて仕方がなく、突っ込みを入れている暇がない。

 ばかりでなく、逆に今だからこそ楽しめる部分も多い。

 なんたって、SFの古典だ。現在のSF漫画やSFアニメやSF映画のクリエイターは、多かれ少なかれヴォクトの影響を受けている。または、ヴォクトに憧れたクリエイターの影響を受けている。

 だもんで、21世紀の私たちは、ヴォクトがどんな場面を描いているのか、ありありと思い浮かべる事ができるのだ。それは「マジーン・ゴー!」だったり「ヤマト,発進!」だったり「ゲッタアァァービイィィーム!」だったり。

 当時の読者は「なんか凄い事が起きている」としか感じられなかったシーンを、私たちはフルカラー音声付きで楽しめるのだ。まあ、ソレナリに特撮映画やアニメに浸ってる人限定だけど。

 もう一つ、21世紀だからこそ楽しめる点がある。なんたって75年も前の作品だ。それだけに、チグハグな描写もいくつかある。遠い未来の都市で荷馬車が動いてたり。これ、たぶん、40年前だと「さすがに古いなあ」で終わっていただろう。

 が。幸いにして、少し前にスチームパンクなんて動きがあった。アニメだと、LAST EXILE が印象に残っている。19世紀的なデザインのメカが、悠々と空を泳いだりする、見た目と機能のミスマッチが楽しい作品群だ。そういえばメイドインアビスも、スチームパンク以降ならではの芸風だよなあ。

 そういった映像のお陰で、私たちの考える「遠い未来の情景」は、一気にリセットされた。40年前だったら、ビルの合間を縫ってチューブ式の高速道路が走りエアカーが飛び回る、クリーンでメタリックな感じでなければ、私たちは「未来の都市」とは認めなかっただろう。

 だが、ブレードランナーやスターウォーズの影響もあり、薄汚いビルや粗大ゴミが積み上がった風景も、未来としちゃアリだよね、と私たちは思えるようになっている。そのため、この作品の古さゆえのミスマッチも、「コレはコレで」と楽しむ余裕が、今の私たちにはできた。

 もっとも、先に描いたように、そういった場面も、元をたどるとヴォクトに辿りついたりするんだけど。

 なんて屁理屈は一切忘れて(←をい)、著者の騙りに身を任せよう。最初の頁からハラハラドキドキ、ワクワクゾクゾクな物語があなたを待っている。全ての男の子たち、そしてかつて男の子だった者たちのための、傑作娯楽冒険活劇だ。

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2017年10月10日 (火)

Chris Lefteri「『モノ』はどのようにつくられているのか? プロダクトデザインのプロセス事典」オライリー・ジャパン 田中浩也監訳 水原文訳

自分たちの身の回りにある、当たり前のものたちが、どのようにしてつくられてきたのかを、改めて知りたい、分かりたいと思う「すべての人たち」に対して、本書は開かれているのである。
  ――序文 「ものの読み書き」に向けて 田中浩也

ベニヤ板を木目が交差するように積層して行くプロセスは、古代エジプト人によって発明された。
  ――5.固化 木材注気加工

材料の種類によって異なるが、±0.005mmの精度が可能。
  ――6.複雑 セラミック射出成型(CIM)

【どんな本?】

 スーパーのレジ袋,アルミ缶のプルタブ,セラミック包丁,ガラスの灰皿。私たちの身の回りには、様々な素材でできた、様々な形の様々なモノがある。それぞれのモノについて、私たちは使い方は知っているが、それがどう作られているかは、ほとんど知らない。

 それらのモノは、どんな技術を使って作られているのか。その技術には、どんな特徴があって、どんな素材に向いて、どんな制限があるのか。費用はどれぐらいかかり、何個ぐらいを作るのに向くのか。どれぐらいの大きさのモノに仕えるのか。

 日頃から使ってるコーヒカップやパソコンのキーボードなど身近なモノから、航空機のジェットエンジンや医療用インプラントなど特殊なモノまで。手吹きガラスや釉薬がけなど歴史のある技術から、3Dプリンタや特殊な物質を駆使した最新の技法まで。数十万個の大量生産向きの原理から、一つを作るのに数日かかる手法まで。

 モノを加工するためのあらゆる技法を網羅した、モノづくりの事典。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Making It : Manufacturing Techniques for Product Design 2nd Edition, by Chris Lefteri, 2012。日本語版は2014年5月26日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー横2段組みで約287頁。8ポイント20字×39行×2段×287頁=約447,720字、400字詰め原稿用紙で約1,120枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。ただしイラストや写真が紙面の3~5割。

 文章は直訳っぽい。またダイ(→日本語表現辞典Weblio辞書)・キャビティ(→日本語表現辞典Weblio辞書)・アンダーカット(→株式会社リッチェル)など加工に関する基礎用語や、熱硬化性プラスチック(→日本語表現辞典Weblio辞書)・アラミド(→Wikipedia)など素材名もよく出てくる。

 要は O'Reilly 文体。慣れている人は「またか」で済むが、慣れない人にはとっつきにくい。

 意外な事に、紹介される技法の多くは、料理で使う調理法と似ているものが多い。特にお菓子作りが好きな人は、「クッキーの型抜きね」で分かったりする。

【構成は?】

 「1.個体の切断」~「8.仕上げテクニック」の各章は、具体的な加工法を紹介する3~4頁の節からなる。例えば「5.固化」は、「焼結」や「鍛造」など、12の節を含む。ほぼ事典に近い構成なので、興味がある節だけを拾い読みしてもいい。

 序文(田中浩也)/はじめに/プロセスの比較
1.個体の切断
2.シート
3.連続体
4.薄肉・中空
5.固化
6.複雑
7.多様なデジタル・ファブリケーション
8.仕上げテクニック
 用語解説/索引

 なお、各節は、次の項目を含む。

  • その加工法の説明
  • その加工法で作った製品の紹介。写真・製造業者・特徴など。
  • 製造ボリューム:何個ぐらいを作るのに適しているか。
  • 単価と設備投資:ポリ袋の単価は安いけど大掛かりな機械が要る。手吹きガラスを職人に頼めば単価は張るけど設備投資は要らない。そういう話。
  • スピード:その工程に何秒~何時間かかるか。
  • 面肌:表面がツルツルかガタガタか。
  • 形状の種類・複雑さ:アンダーカットや非対称などの可否
  • スケール:作れる製品の大きさ
  • 寸法精度:誤差が製品にどれぐらい出るか
  • 関連する材料:どんな材料に向くか
  • 典型的な製品:この加工法を使って、どんなモノを作っているか
  • 同様の技法:似た方法
  • 持続可能性:エネルギー使用量、廃棄物の多寡や有毒性の有無など。
  • さらに詳しい情報:主にインターネット上の情報源

【感想は?】

 「ゼロからトースターを作ってみた結果」の解答編および続編。

 家電量販店で買えば500円ほどのトースターを、ゼロから自分で作ったら15万円もかかった。しかも、出来上がりは出来損ないのゾンビみたいな悲惨なシロモノ。

 なんでそうなるのか、あの本じゃ解は示していない。まあ、だいたい想像はつくけど。その想像を、微に入り細に渡り描いてくれるのが、この本だ。その理由を、最も端的に示しているのは、「3.連続体」の「吹き込みフィルム」だろう。

 この技法の「典型的な製品」は、スーパーのレジ袋。今は有料のスーパーもあるが、コンビニや昔のスーパーは無料だった。それぐらい安上がりなモノだ。だが、ゼロから作ろうとすると、とんでもなく高くつく。工場を一個建てるようなもんだからだ。これがイラスト一発で分かるのは嬉しい。

 こういった現代の産業社会を象徴する技法が中心だが、伝統的な手法もアチコチに顔を出す。例えば鍛造。手口としては、ご飯を型に入れておにぎりにするのと同じ。ただし材料はご飯じゃなくて金属の塊だ。これの「典型的な製品」が、日本刀から航空機のエンジンまでと、実に幅広い。

 同様に型に入れて固めるんだが、粉末を使うのがコールドアイソスタティック成型(CIP)。金属やセラミックの粉を、ゴム製の型に入れる。で、例えばウェットバッグだと、型ごと水に入れ、その水に高い圧力をかける。すると粉が固まり、一つのモノになる。

 この手法の嬉しい点は、全方向に均一な圧がかかること。出来上がりの表面は、意外となめらか。なんたって、「CIPで製造される最もありふれた製品はスパークプラグ」のアルミナ(碍子、→デンソー)だ。

 やはり伝統と工業技術の組み合わせで面白いのが、合板曲げ加工。普通の木材を割らずに曲げるのは難しい。が、紙のように薄ければ、割らずに曲げることもできる。ってんで、紙のように薄い板と接着剤を何層ものサンドイッチにして重ね、曲げれば、立体的なフォルムが作れる。

 木材でも、かなり自由な形が作れるのだ。凄え…と思ってたら、「2つの世界大戦の間には、航空機のフレームが曲げ加工された合板から作られていた」。それなりに歴史ある手法なのね。

 などと、「おお、そうだったのか!」な驚きは他にもあって。例えば瀬戸物。あれ、だいたいはスベスベなのに、底だけはザラザラしてる。あれ、なんのことはない、釉薬がけの都合だった。

 粘土を焼いただけの素焼きは、小さな穴がたくさん開いてるんで、水が漏れちゃう。それを防ぐのが釉薬。炉の中で溶けてガラスになり、素焼きの穴をふさぐ。ただし、炉と接する底に釉薬をつけると、瀬戸物が炉にくっつく。だから、底には釉薬をつけず、よって底は素焼きのザラザラのまま。

 とかの伝統的な手法に対し、最新の手法は、軽くて丈夫なモノが作れるのが嬉しい。例えば選択的レーザー焼結。一種の3Dプリンタを使う方法。

 器に金属粉を入れ、平らにならす。その表面にCAD制御のレーザーを当てる。当たった所は溶けて固まる。再び表面に金属粉を撒き、平らにならし、表面にレーザーを当てて溶かし…と繰り返す。すると、針金を組みあわせたように、骨組みだけでスカスカのモノができる。

 ただ、今のところ、精度は高いんだけど、あまし大きなモノは作れないらしい。きっと航空機産業も研究してるんだろうなあ。

 もっと身近な「軽くて丈夫」は、中空成形。PETボトル製造で使われる方法(→東洋製罐株式会社)。で、まさしくPETを使って、椅子を作った会社がある。Magis Sparkling Chair(→Magis Japan)。なんといっても、軽いってのは魅力だよなあ。

 より未来的な雰囲気なのが、自己修復性被膜。正体は透明なポリウレタンで、例えば自動車のボディの表面に塗る。ボディに引っかき傷がついたら、車を日なたに置いとけばいい。ろうが熱に溶けるように、被膜が日光で溶けて傷を埋めてしまう。まるきし∀ガンダムのナノスキンだ。

 とかの妄想のネタとしても面白いし、自分で何かを作る際のヒントにしてもいい。製造業に勤める知人にこの本を見せたら、食い入るように眺めていたので、プロにも役立つ本らしい。文章は硬いが、イラストでの説明が多いので、素人でもけっこう頭に入ってくる。色々な読み方ができる本だ。

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2017年10月 8日 (日)

オキシタケヒコ「波の手紙が響くとき」ハヤカワSFシリーズJコレクション

あの録音を聴いていると、色を思い出せるんです。
  ――エコーの中でもう一度

ヴァイオリンは歌うが、フィドルは踊るんだ。
  ――亡霊と天使のビート

「≪青い海≫はどこにある」
  ――サイレンの呪文

【どんな本?】

 2012年に第三回創元SF短編賞優秀賞に輝いた、新鋭SF作家オキシタケヒコの連作短編賞。

 武佐音響研究所。古くなって劣化した録音テープの音を綺麗にしたり、録音した場所を特定したり、店舗の音響環境を整えるサポートをしたりと、音響関係の技術を提供する企業である。

 所員はたった三人。所長は天使の声を持つデブ佐敷雄一郎、口を開けば罵倒ばかりが出てくるチーフ・エンジニアの武藤富士伸、そして元気ハツラツな雑用係の鍋島カリン。

 ただし、ときおり毛色の変わった依頼も舞い込んでくる。行方不明の有名ミュージシャンの捜索、子供部屋に出る幽霊、謎の奇病の調査。得意の音響技術を駆使して事件に挑む、武佐音響研究所の騒動を描く、本格的かつユニークな「音SF」作品集。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」のベストSF2015国内篇で堂々の8位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年5月25日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約342頁に加え、参考文献2頁。9ポイント43字×17行×342頁=約250,002字、400字詰め原稿用紙で約626枚。文庫本なら少し厚め。

 文章は比較的にこなれている。キモとなるガジェットは、ちとマニアック。オーディオや楽器や音楽に詳しい人にはお馴染みのネタなので、じっくり楽しもう。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

エコーの中でもう一度 / SFマガジン2013年2月号
 今日の客は大物だ。大手の音楽プロダクション、ミューズプレックスの御曹司・辻神誠貴。所属の大物アーティスト、≪KYOW≫こと日々木塚響を探してくれ、との依頼だ。手がかりは、彼女の遺した伝言の音声データ。これが特殊な録音で…
 武佐音響研究所の紹介を兼ねた開幕編は、オーディオ・マニア狂喜乱舞の濃いネタをたっぷり仕込み、ど真ん中に剛速球を放り込む本格的なサイエンス・フィクション。SFマガジンで初めて読んだときは、アイデアの斬新さと目の付け所の鋭さに「その手があったか!」と驚いた。
 ただ、今の若者には、「テープが劣化して録った音がこもる」なんて現象が通じないかも、と少し不安になったり。
亡霊と天使のビート / SFマガジン2014年2月号
 依頼人の咲夫妻は身なりの良い四十台。夫の晴彦は弁護士、妻の由美子はヴァイオリニスト。夫妻の子、継音君の部屋に幽霊が出る、というのだ。晴彦は母親の瑤子と折り合いが悪かった。瑤子はフィドラーで、晴彦に館を相続する条件を出した。瑤子愛用のフィドルと、例の幽霊部屋を、継音のものとすること。
 古びた館で、故人がいた部屋に出る幽霊の話。これまた音楽好きとオーディオ・マニアを唸らせる逸品。小道具のフィドルはジグやカントリーで使われ、素朴で軽快なメロディを響かせる、陽気な印象の楽器なのがミソ。しかも、妖精や化け物の伝説が多く残るアイリッシュというのが、泣かせる(→Youtube)。
 ネタバレ注意:…とか思ってたら、現実に事件が起きてしまった。繰り返すが、ネタバレなので要注意(→CNN)。
サイレンの呪文 / SFマガジン2014年10月号
 武佐音響研究所に二人組の暴漢が押し入った。武藤とカリンはすでに帰宅し、会社に残っていたのは所長の佐敷のみ。暴漢の目的は≪青い海≫。これを佐敷が手に入れたのは、高校最後の夏休み。
 この連作短編集の主な登場人物たちを結びつけた、過去の出来事を語る短編。オーディオってのは、凝り始めるとキリがなくて、最終的には建物自体を造っちゃったり。トーマ氏の気持ちはわかるし、「みうず」にも行ってみたい。
波の手紙が響くとき / 書き下ろし
 武佐音響研究所に、再び魔女が降臨した。しかも、とんでもない災厄を引き連れて。
 この作品集の終幕を飾るにふさわしい、オールスター・キャストの作品。賑やかなキャストの中でも、なまじ技能を持つがゆえに貧乏くじを引いた?藤村さんがいいなあ。音にこだわる人に振り回された、彼女の苦労には思わず同情w 文句タラタラながら、それでも仕事はキチンとこなすあたりも、終幕のヒロインに相応しい活躍ぶり。
 やはり、いい味出してるのが、千枝松健二教授。好きな事を続けてたら、いつの間にか相応の実績もできてたって感じの、マイペースな人。理系の教授って、こんな感じの人がよくいるんだろう。トーマ氏といい、引柄慶太郎氏といい、この人の描くオッサンは、楽しげに人生を生きてるのがいいなあ。
 そして、肝心のガジェットも、これまたサイエンス・フィクションの王道ド真ん中を突っ走る、豪快かつ本格的なもの。古き良きSFの醍醐味を、現代の新鮮な素材をふんだんに使い、鮮やかに蘇らせてくれた。

 なんたって、音SFだ。オーディオやDTMに凝っている人は、是非読もう。まさしく「あなたのための物語」なのだから。

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